今日はちょっとだけ趣向を変えて、インターネットにおける匿名問題について触れさせていただきたい。長い割には大した内容でないので、時間のあるときにお付き合いいただければ幸いである。
言うまでもなく、当ブログは匿名で運営している。意識的に個人情報を明らかにしていない。なぜ匿名でやっているかといえば、実名で何かを公に向かって書くと、それは必ず会社と結び付けられるだろうという判断からだ(わたしはサラリーマン)。わたしは零細俸給者とはいえ、当然取引先には顔と名前が知れているし、そこからお金を頂戴しており、上司に命令をされて、ようやく生きている。このような典型的超ドメ企業の歯車が、自らの意思でもって自分の名前をWebに公開し、世に自分の意見を問う、そんな大それたことができるだろうか。これが政治的に中立で無害な内容ならよいであろう。たとえば「ラーメン食べ歩き」というようなブログならどうだろうか。いくら内容にこだわっても、せいぜい「あ、ラーメンお好きなんですね」ということで、取引を停止させられたり、譴責を受けるようなことはないであろう。むしろ会話のネタになるなど、営業の助けになるかもしれない。しかし、それが書評しかもかなり反主流の本(?)をよく読んでいるとなるとどうであろう。微妙なところではないか。城繁幸氏の本などを礼賛するなど、「その思想に問題がある」と評価される可能性は非常に高い。
同様の理由から、取引先の内情を書いたり、雇用契約先の暴露をしたりすることは、かなり意識的に排除している。じつはかなり面白いエピソードもあるのだが、わたしはそれらをほのめかすことはあっても、何かが特定できるような書き方は臆病なまでに慎重になっている。これはもちろん法的な問題にならないようにという配慮からだが、本音は、おそらく法的には全く問題がなくても、タイミングと運が悪ければ即、職を追われるかもしれないな、というチキンな考えが頭をよぎるからである。たいしたスキルもなく英語もできない超ドメ企業の一俸給者は、自衛のためには現在の雇用契約先にしがみつくしかない。よって「配慮」せざるを得ないわけだ。ということで「取引先」および「雇用契約先」に対する配慮から、過剰に言論を自主規制しているのだが、これなどはまさに「マスゴミ」と揶揄される大手マスメディアの「自主規制」と同じ構図であろう。守秘義務といえば聞こえはいいが、要するに保身に汲汲としているだけではないか。自らの立場を明らかにしない言論など便所の落書き程度の価値しかない。匿名の言論に価値などないという論に、わたしは一部首肯せざるを得ない。及び腰なオピニオンなどに価値があるだろうか?
ただし、である。だからと言ってすべての言論が実名でなければならないか、というとそんなことはないだろう。たとえばわたしはこの匿名という仕掛けがなければそもそもブログなど書こうという気すら起きなかった。同じような人は世の中にたくさんいるだろう。それに、アメーバではちゃんとアカウントがあり、それなりの期間、同じアカウントで続けていれば、匿名と言いつつも一定の連続性がうまれる。こうなると、いくら匿名と言っても、普通に考えれば「評判」を気にしてまともなことを書こうという気持ちになる、格好良くいえばインセンティブが生まれる。わたしですら、もう3年以上続けているこのアカウントに多少の愛着が生まれるものだ。そんなアカウントを使って、わざわざ信用を毀損するようなことをするだろうか?これは、Twitterのアカウントなども同じである。書き捨て用のアカウントならともかく、継続的に使っているハンドルネームはもはや「匿名」ではなく、「半匿名」とでも言うべきもので、完全な匿名とは区別するべきなのではないか? とすら思うわけである。
まあ、インターネットが完全な「匿名」であるなどと信じるほどわたしもリテラシは低くないが、場合によってはこの「半匿名」ですらない本当の「匿名」というのも必要だと思う。たとえば、はてなの匿名ダイアリのような特殊な仕組みだと、かなりの水準で匿名性が担保されている。そのため相当ノイズはあるにせよ、興味深いエントリが少なくないのも事実だ。難病の話とか、家庭崩壊の話とか、告発めいたものとか、ものすごく込み入った相談(というより愚痴?)に近いようなものは、確かに「半匿名」のブログに書くのはためらわれる。そういう意味で、目安箱的な使い方で匿名ダイアリを使うのはアリだし、そういう文脈では匿名の存在意義も認められると思う。いくら強烈なノイズがあるからといって、まず「禁止」と言う発想は、自称リバタリアンとしても同意する訳にはいかないだろう。(と、言いつつ「ブログ炎上」したりでもしたらあっさり前言撤回して「匿名は酷い」とか言うと思いますがw)
と、勢いでここまで書いてしまったが、このような文脈での議論はすでに出尽くしているであろう。面倒なので詳しくは調べないが、ひろゆきなどがこの手の「実名/匿名」論争で「匿名でもいいじゃん」と結論付けていたような気がする。Lilacさんも同じようなご意見をきれいにまとめており、ほとんど同意なので、わざわざ新たに何か書く必要もなかったのかもしれない。
実名推進派は人の気持ちがわからない人が多い。 : ひろゆき@オープンSNS
ネット実名は強者の論理。まじめに論じる匿名のメリット - My Life After MIT Sloan
と、いうことで、所詮サラリーマンが片手間に考えるようなことは、ネット強者たちはとっくに考えていましたよ、というオチでした。