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二度と森博嗣については語るまいと決意してから、早くも3度も禁を破ることとなってしまった(笑)。なぜ森博嗣の本を買ってしまうかというと、かれの生きざまにあこがれているからだと、正直に告白せざるを得ない。
かれの主義(?)には本質的な矛盾がある。感覚的には禅の「不立文字」に近い。言葉にすると真理がするりと逃げてしまうような感覚。判りやすく言えば、かれの本を読んでもかれのようにはなれないということだ。むしろかれの本を全く読まないような人が、かれのような生き方ができるというようなイメージである。これはまさに観測することで自らが変化してしまい傍観者でいられなくなるという非常に哲学的な問題をはらんでおり、わたしのような浅学の人間には到底語りつくせない深遠なテーマだ。いきおい、内容を真摯に語ろうとすればするほど議論は抽象的になっていく。かれの語るエッセンスを一言でいえばなにか。矛盾していることを肯定しつつ矛盾をなくそうとする行為とでもいえばいいのではないか。とりあえず、わたしはそう理解することにしている。
本書はこれまでに刊行された三部作『自由をつくる 自在に生きる』『創るセンス 工作の思考』『小説家という職業』の続編ともいうべきものだが、そのどれよりも抽象的で、おそらく読者には消化不良感だけを与える内容になっている。せっかちな人間は怒りすら感じるかもしれない。「何が言いたいのかわからん!」「結局どうすればいいのか」と言ってしまいそうな人にはお勧めできない。森博嗣という変人の思考を、わざわざお金を払ってほんの少しだけトレースしてみたいという酔狂な人だけ買って読めばいいと思う。
【過去の書評】
自由をつくる 自在に生きる
創るセンス 工作の思考
小説家という職業