成金 | One of 泡沫書評ブログ

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成金/堀江 貴文

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前回『拝金』を取り上げたときには、暇だったので登場人物を実在のモデルとリンクするという酔狂なことをやっていたが、今回は残念ながら時間がないため、できない。というか、よくわからない。わたしはホリエモンよりもう少し下の世代なのだが、ITバブルの時代には地方でのんきな学生生活を送っていたため、ITバブルを称して「あの熱狂」というやつがまったくわからない。「LIGHT通信」と言われてもピンとこない。「景山」のモデルすらわからない。

よって、残念ながらこの作品の紹介をしつつ、当時の世相を解説するような書評を書きたかったのだが、力及ばず。むしろ実在のモデルとの関連を解説してくれるサイトがあれば教えてください。

ただ一つだけ確信を持って言えるのは、「鮫島」のモデルはおそらく北尾吉孝氏であろうということだ。本当に「がばちょ」と言ったのかは関係者しか知る由がないが、色々な傍証から少なくともモデルであることだけは断言できそうである。ホリエモン自ら「天敵」と語る北尾氏はまさに鮫島のイメージそのままだ。架空の物語に仮託して、少しばかりの留飲を下げたということであろうか。もしそうなら、ホリエモンもなかなかのロマンチストである。

本作は前作『拝金』の10年前という設定であり、時代背景としては2000年前後のITバブルに沸く「ビット・バレー」を舞台にした物語である。『拝金』の登場人物がそのまま時代をさかのぼって登場するため、前作を読んだ人には、プロファイルが謎だった登場人物の生い立ちがわかって、そういう意味でも楽しめる。もちろん時系列では本作が「先」だから、前作を読んでない人も楽しめる構成となっている。


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ところでわたしが本書を読んで最初に感じた感想は、「出来過ぎている」ということだ。前作は「小説ではない」とさんざ批判されたものだが、あれはいい意味での荒削りでホリエモンらしさが良く出ていた。しかし本作は良くも悪くも小説として完全に成立しており、成熟している。そう、「成熟」ということばが実にしっくりくるのだ。わたしはこの点が非常に気になって仕方がない。

ホリエモンの力は、本人の意思はともかくとして、外野から見れば明らかに「叛逆」の精神に拠るところが大きかったはずだ。キャッチフレーズでいえば「叛逆の若手」とでもいえば良いだろうか。しかし本作からはそういう怒りのようなエネルギィをまったく感じない。読後感は非常に感傷的であった。よくよく考えれば1972年生まれのホリエモンもそろそろ「不惑」を迎える歳であり、いよいよ無敵のホリエモンにも「老い」が頭をもたげてきたということなのかもしれない。かれはもう目立つビジネスはやらないとも公言しており、あとはライフワークとして宇宙開発事業に専念するといっている。熱心な堀江ウオッチャの一人として、非常に今後の動向が気になる作品であった。

過去の書評『君がオヤジになる前に』 こちらも時間があれば是非ご一読を。