だいぶ過ぎてしまったが、12月1日は「世界エイズデー」である。Yahoo! JAPANでレッドリボンキャンペーンを毎年のようにやっているから、もしかしたらだいぶ浸透してきているのかもしれない。実はこの「不治の病」は日本において増加傾向にあるらしい。2008年くらいのデータによれば、たしか東京では年間約1,000人程度毎年純増していたはずだ(今はもっと増えているのかもしれない)。これは統計に表れているものだけだろうから実態はもっと酷いものであると推測される。
なぜHIVは感染の拡大が防げないのであろうか。色々な理由があるとは思うが、ひとつには「人権」によって情報が公開されないことにあるのではないか。わたしがリスペクトして止まない"世捨て人氏"などは、たしか「エイズより怖い人権」というエントリを起こし、人権の壁に阻まれ、誰がHIVポジティブか判らない状況のことを揶揄して「ロシアンルーレット」だと評していた。さすがにそれは言い過ぎだと思うが、それでも事実として「誰がポジティブなのかわからない」というのは否定できない。
もちろんHIVポジティブの方やAIDS患者に対するいわれのない偏見は厳に慎まねばならない。しかし、こうしたむずかしい問題に対して、わが国の一般大衆は理性的に反応することができない。「うわーヤダ!」とか言って脊髄反射するのが容易に想像できるであろう。そしてすぐに村八分だ。ポジティブの方がふつうの生活を送ることはほとんど不可能だろう。いくら手をつないだくらいでは感染しない、と広報しても、ポジティブの人間をコミュニティから排除しようとすることが目に見えている。こうした状況では感染拡大を防ぐための「情報公開」が不可能であろう。これでは民度が低いといわれても仕方がない。
ではどうしたらよういのであろうか。このような根源的な問題について、わが国は戦略的に対応することができないのであろうか。感染症は、当然のことながら感染者と非感染者の間で利害が衝突する。感染者を特定しないことには対策は打てないし、かといって感染者に対する差別をなくすこともおそらく(短期的には)できない。結核などの感染症であれば、現在においても患者は法律に従って強制隔離されるし、その他の感染症も、たとえばかつてDDTなどを直接散布するなど今の常識で考えるとむちゃくちゃをしていたのだが、逆にいうとそのくらいしなければ感染症を封じ込めることはできないわけだ。感染症にはこのような「感染者に対する強制的な対応」がどうしても必要なわけだが、この現実を直視しないと「不特定多数のパートナとの性交渉はやめましょう」「コンドームをつけましょう」というような対象者不明、意味不明なキャンペーンにならざるを得ない。わたしは、この問題は童貞問題と並んで非常に難しい問題だと常々感じている。シモが絡む話はかように難しいのだ(もちろん、すべてのHIVポジティブの方の感染経路が性交渉ではないのは言うまでもない)。
大上段の話はさておき、とりあえず現実問題として、市井に生きる大衆としては個人的に防衛する方法を身につけるしかないであろう。もっとも感染リスクを下げる方法としては、新しく付き合う相手と以下の手順を踏むしかない。
・HIV/AIDSについてよく話し合う。その仕組みをよく知る。
・ウィンドウ・ピリオド(約3カ月)を置いたのち、保健所に行ってHIV抗体検査を受ける
・お互いにネガティブであることを確認したのち、セックスを行う。もちろんその後、異なるパートナとセックスをする場合は同様の手順を踏む。
これ以外に精度の高い防止法はないだろう。言うまでもないことだがウィンドウ・ピリオド期に不特定多数のセックス・パートナと性交渉を持つようなことがあっては意味がないので、その辺もよくよく信頼できる人をパートナに選ばなければならない。「童貞」や「処女」だということでも安心はできない。男も女もどこで何をしているかわからないし、前述したようにそもそも感染経路は性交渉だけでなく「薬害」「医療過誤」というケースもある。このへんの実態は調べていないので恐縮だが、疑ってかかるくらいがちょうどいいと思う。企業などで行っている集団健康診断などでも、注射針の使用には十分注意したほうがいいし、歯科なども果たして感染症をどこまで考えているのかわからない。
・・・と、いうことで、HIVから身を守る術を簡単に書いてみたが、これがいかに実現困難かはあらためて説明するまでもないだろう。恋愛で盛り上がっている男女が、おもむろに
「じゃあ、そろそろHIVについてまじめに勉強しよう。そして、お互い、どういう経路で感染しているかはわからないから、念のため検査に行こう。検査まではウィンドウ・ピリオドとして3カ月おかなければならない。お互い、出会う前にどういうことをしていたかはわからないから、再来月まで何もせずにおこう」
と言って3カ月後に仲良く手をつないで検査に行くことができるだろうか?(わたしは行ったが)
そもそも保健所などで行っている無料のHIV抗体検査に対する偏見も根強い。検査に行くということだけで「不潔」と言われるのが落ちだろう。「わたしを疑ってるの?」とか、「なにかやましいことでもあるの?」というような反応が大多数ではないか。実際わたしも保健所で抗体検査したことを人に言うと「酷い、彼女を信用していないの?」などという反応がほとんどであった(特に女性にはそういう人が多い)。このように無知な人を説得するのは容易ではないが、それが自分の未来のパートナであるのなら、色々な意味でやっておいたほうがよいと個人的には思うのだが、感情と理性を分けて考えるというのは案外難しいのかもしれない。