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本業(?)で功成し遂げた人が余技でちんたら書いた「エッセイ」を読むことほど情けないことはない。著者にとってこれはもう固定客が見込めるおいしい仕事で、別に読者をそれほど意識せずとも、買う層は端から「ファン」なのだから好き勝手書いてもまったく問題はないからだ。内容も普段から考えていることをちんたら書くだけでいいのだから時間もかからない(と思う)。売る方(編集者)も一定のロットが見込めるわけだから編集も楽だ(と思う)。
本書はそういう類の本である。氏を良く知る人であれば概ね「もうわかりきっている」内容であり、わざわざ700円出して求めるほどの内容はない。逆に氏を良く知らない人ならば、こんな本質的なことばかり書いてある本を読んでもさっぱり共感できないだろう。そういう意味でまことにニッチな本であると言えよう。
ご存じのように著者の森博嗣氏は第一回メフィスト賞を受賞し、一躍ベストセラ作家の座に躍り出た「元」名古屋大学工学部の学者である。趣味の模型製作のための資金を稼ぐために、割のいいアルバイトとして狙って書いた本がバカ売れしたという稀有な才能の持ち主だ(それまで小説を書いたことすらなかったのに)。ずいぶん稼いだので今では本業の学者も辞めてしまい、予定通り趣味に生きるという、まさに橘玲氏のいうところの「ファイナンシャルフリーダム」を手に入れたうらやましい御仁である。出す本出す本売れるくせに、「作家はあくまでアルバイト」と言ってはばからないその姿勢は、世の「作家志望」の貧乏人の羨望と嫉妬を一身に集めている。日垣隆氏と並んで、いつ暗殺されてもおかしくない「自由人」であるw
日常の業務を堅実にこなしつつも、将来の生き方を模索するという方には絶好のロールモデルとなろう。しかし一方で、日常に疲れたサラリーマンや、生きる道を見失っている学生などにはお勧めできない。あまりの「劇薬」ぶりが、逆におかしな方向に行きかねないからだ。本書は確かにひとつの「現代のロールモデル」を示すものだが、普段から現状に不満や不安しか持ってない人が読むと「俺の人生っていったいなんなんだろう・・・」と逆に価値観崩壊してしまうのでは(と思う)。
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過去の書評 - 『小説家という職業』