戦争を知らない世代の太平洋戦争ブックガイド | One of 泡沫書評ブログ

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世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

今年もあと少しで8月15日を迎える。わたしが子供のころは、終戦記念日近くなると決まって新聞、テレビで反戦キャンペーンが張られ、左翼的な言説が巷を席巻して非常に気分が悪くなったのを思い出す。いわゆる「進歩的文化人」と呼ばれる反知性的なひとたちが、個人的なルサンチマンを公共のメディアを使って垂れ流す日である。

最近は新聞はおろかテレビすら観ないので、こうした「左翼キャンペーン」が今でも行われているのかどうかは知らない。気分が悪くなるので確認する気も起きないが、たぶん、新聞やテレビは昨今の電子書籍ブームやインターネットの興隆でそれどころではないのではないか。戦争記事で釣られるような時代でもないのではと推測する。

かつては「戦争を知らない世代」とか「戦後生まれ」というような言い方で、従軍経験がないことをもって戦争を語ってはならない、というような雰囲気すらあった。しかし今はもう2010年、戦後から65年も経った。すでに従軍した人たちはもうほとんど亡くなられたであろう。要するに、もう名実ともにほとんどの日本人が「戦争を知らない世代」になったわけだ。ということで、もはやそうした気遣いは無用だろう。皆が戦争を知らない世代なのだから、いまこそ、「戦争を知らない世代」を代表して、同じ「戦争を知らない世代」に向けてのブックガイドを書こうと思う。


私の中の日本軍 (上) (文春文庫 (306‐1))/山本 七平

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一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)/山本 七平

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まず紹介したいのは敬愛する山本先生の著作だ。はっきり言ってわたしはこの本に影響を受け過ぎているので、冷静な評価ができない。したがってあえてデメリットのみ言及したい。

本書は著者の従軍回顧録なのだが、記憶を頼りに書いているはずなのに、まるで昨日あったかのような書き方をしているところが非常に信憑性に欠ける。山本先生は日頃から「人間の記憶はまるで信用ならない」と書いているにもかかわらず、本書はまるで見て来たかのように書いてある。したがって、どこまでがかれの妄想、あるいは戦後の記憶で、どこまでが事実なのか判然としない。読者は大いに批判的に読まなければならないだろう。


アーロン収容所―西欧ヒューマニズムの限界 (中公新書 (3))/会田 雄次

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こちらは知る人ぞ知る名著。いろんなところで引用されているので、知っている人もいるかもしれない。英軍の捕虜収容所である「アーロン収容所」における著者の捕虜生活の回顧録だ。欧米人の人種差別意識をよく描写しているという点でよく引き合いに出される本だ。はっきり言って必読である。この本を読まずして英米を語るなかれ、人種差別を語るなかれ、だ。

しかし忘れてはならないのは、本書は65年前の出来事を書いてるわけで、必ずしも今の英米のことを言っているわけではない。本書を引き合いに出して「英人は・・・」「欧米の差別意識は・・・」などとやると単なる世間知らずと思われるので要注意であろう。あくまで昔、そういう歴史があったということを知る手掛かりになるだけである。


虜人日記 (ちくま学芸文庫)/小松 真一

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こちらも山本先生つながりで知った名著。著者の小松氏は戦争中に軍属としてフィリピン戦線に送られ、現地でブタノールの精製をしていたらしい。これは著者の個人的な記録であり、もとより公開するつもりもなかった記録のようであるため、「空気」の支配を受けず、自由に筆を走らせていて大変参考になる。

そして、山本先生による解説本がこれ。合わせて読まれたい。

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)/山本 七平

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ということで、山本先生に洗脳された白痴っぷりを余すところなく発揮してみた次第。

しかし、これらの本はいわば高学歴の、しかも下級とはいえ士官の手によって書かれた本であり、やはりある種のバイアスがあることは否定できない。こうした人たちは物事を批判的に見たり、問題を構造的にとらえたりすることに長けているため、どうしても分析的な文になる。本来はこれらのほか、一般の兵士によって書かれた本や手記を読むべきなのだろうが、残念ながら適当な本に巡り合えていないのでご紹介できない。今後の課題としたい。


戦争を二度と起こさないためには、戦争を知ることが大切である。戦争を知らない世代こそ、戦争の本をたくさん読んで、想像力を働かせてみてほしい。

こちらは過去の書評。時間があればぜひ。

僕の比島戦記