正社員が没落する ――「貧困スパイラル」を止めろ! | One of 泡沫書評ブログ

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正社員が没落する ――「貧困スパイラル」を止めろ! (角川oneテーマ21)/湯浅 誠
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さいきん「自由主義陣営」(笑?)の本やブログばかりリンクしているが、久々の左翼陣営の本。ただ、正直に白状すると、わたし自身のいまの考えは、以前批判していたリバタリアニズムや新自由主義にちかくなっていることを認めざるを得ない。まあ、学者やジャーナリストほど学問的に追究しているわけではないので、自由化路線でうまくいくという理屈を理解しているわけではない。また一方で、一時期かなりの影響を受けたケインジアンの政策も、現在の状況で妥当なのかどうかどうかわからない。「大きな政府」が誤りであることくらいは、ようやく確信したが、そもそも市場原理の拡大の結果発生する貧富の差の拡大(ひいては、幸福度の格差)をどうしたらいいのかはわからない。


もう少し頭がよかったら・・・と思わずにはいられないが、こうした学問的な側面の勉強不徹底が原因で、さいきんの言説はどうにも軸がぶれている。わたしが政治家だったらマスコミに袋叩きにされそうである。


恒例のしょうもない前置きはこれくらいにして本論に入ろう。本書は、「ルポ 貧困大国アメリカ」などで、現代アメリカの貧困状況に詳しい堤未果氏と、「年越し派遣村」で一躍時の人となった湯浅誠氏の共著である。


本書はアメリカの例をあげ、今、自分が中間層だと思っている人がある日突然貧困層に落ちてしまうという状況が、日本においてももはや貧困は対岸の火事ではなく、今すぐ取り組むべき喫緊の問題であると警告しているものである。著者たちはいわゆる左翼陣営の運動家であると思われるが、言っていることの大部分は自由主義陣営(?)の人たちの主張とぜんぜん矛盾しないように思えてくる。結局労働市場が最適でないというところに根本的な原因があるという主張は、まったく同一なのではないか。


かつての「右翼⇔左翼」という対立軸は、「保守=アメリカ寄り」という立場と、「革新=中国・ソビエト共産党寄り」という非常に分かりやすいものだった。しかし、冷戦構造が遠い昔となった今、そのへんの価値観は多様化しすぎてきて、単純な二項対立では理解できないようになってしまった。そういう流れからすると、湯浅氏や堤氏のような方々を歴史的にどういう位置づけで理解すればいいかわたしにはわからなくなってしまった。言っていることは理解できるし、わたし自身の属する階級的には同意できるのだが、もっと大きな枠、大上段でとらえれば、こうした人たちの主張は細部の運用を考えるとわからなくなる。(要するに、「じゃあ実際どうすりゃいいの?」という問いにたいする答えがないように思えるのだ)


運動家ということで、ポジショントークに徹しているということだろうか? 「発言することに意味がある」というような。でも、本当に派遣切りにあったような人たちのことを考えると、現実的には池田さんのような発言 に帰着せざるを得ないのではないだろうか。



ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)/堤 未果

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