ぼくの比島戦記 若き学徒兵の太平洋戦争 | One of 泡沫書評ブログ

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ぼくの比島戦記―若き学徒兵の太平洋戦争 (光人社NF文庫)/山田 正巳
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著者は大正11年愛知に生まれ、高等学校(今でいう大学)を繰り上げ卒業ののちにわずかな期間会社勤めをし、その後豊橋の予備士官学校を出てフィリピンに従軍したという。魔のバシー海峡をなんとか生き延び、サンフェルナンドへ上陸・・・これはまさに山本七平氏のそれとほぼ同一の経歴である。そんなわけで、「大正11年生まれ」に敏感に反応してしまったわたしは、内容の確認もせず迷わず購入した。(光人社NF文庫は、シミュレーションノベルなどと同列に、こうした本当の「戦記」が混じっていて非常に興味深い。)


本書の成立に至る細かい経緯はよくわからないが、著者は自らの記憶があいまいであることをよくよく承知であり、努めて多くの文献や他人の記憶と照合し、事実を正確に記そうとしておられる。また、実際に従軍した方々の中にときどき見られる強烈な旧軍へのルサンチマンも感じられない。そこにあるのは、ただ、正確にフィリピン戦の実態を書き残そうとする真摯な志のみである。こうしたことは、現代の読者にはその凄さがよくわからないであろう(もちろんわたしも、よくわかっていない)。不合理な組織の論理、死への恐怖、餓え、先の見えない状態、およそ考えうるあらゆる極限の状態に置かれてなお、その境遇を受け入れることができるのは並大抵のことではない。たとえそれが、50年という年月が流れた後であったとしても。


だが従軍経験のない我々からすれば、こうした冷静な視点で語られる「戦記」というものほど、ありがたいものはない。わたしが繰り返し読んだ山本氏の著作はすぐれた戦記だが、かれの場合語り口が独特すぎて、どこまでが事実であったかわからない点に難がある。山田氏は、ある意味では物書きの「素人」であるため、そうした点をより慎重に考慮されたのだろうか。最初から最後まで冷静で、わきまえた記述に徹するあたり、非常にすぐれた記録文学として成立していると思う。マイナーではあるが、多くの方に読んでいただきたいと感じた一冊である。


ルソン関係の戦記で、今のところ読めたのは以下のもの。もちろん山本先生の本がきっかけであるが・・・戦記はひとによって記述の癖が非常に出るため、複数のものを読み比べながら、「戦争を知らない世代」なりに、想像力を働かせて読んでいる。


Gパン主計ルソン戦記―戦場を駆けた一青年士官の青春 (光人社NF文庫)/金井 英一郎
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ルソン戦記―若き野戦重砲指揮官の回想 (光人社NF文庫)/河合 武郎
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奇しくも、ここまですべて大正11年組。


↓こちらは山本七平氏が著作で紹介した、小松真一氏の日記。なんとちくま学芸文庫から文庫化されました。

虜人日記 (ちくま学芸文庫)/小松 真一
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↓これは上記の復刻のきっかけとなった、山本氏没後の新書。「虜人日記」の解説本(?)。

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)/山本 七平
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↓こちらはまだ未見。

フィリピン敗走記―一兵士の見たルソン戦の真実 (光人社NF文庫)/石長 真華
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余談だが、太平洋戦争・主要戦闘辞典 によると、当時のルソン島での戦史はこうなっている。


「(本文393ページより)◎ルソンの戦い 兵器なき日本軍30万人の持久戦

 戦場・ルソン島、マニラ市街も含む。

 指揮官・第14方面軍司令官山下奉文(ともゆき)大将。

 (中略)

 日本軍の戦果・なし

 日本軍の損害・戦死約21万8200人

 (中略)

 アメリカ軍の損害・戦死7933人、戦傷3万2732人」


ルソンだけではないが、中盤以降(1942年以降)はこんな記述ばかりが続き、複雑な気持ちになる。


2009年4月26日追記:「光人社NF文庫」を「光文社NF文庫」と誤って記載していましたので、修正しました。訂正してお詫びいたします。