- 経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)/佐藤 雅彦
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文庫版のほうです。
とある理由から、竹中氏に対しては非常に偏見をもっており、誤解を恐れずに言えば大きな悪意をもっていた。小泉構造改革路線の最先鋒であり、アメリカ型資本主義を日本に持ち込み、日本経済を破壊した戦犯のようだとすら思っていた。しかし、本書を読む限り、竹中氏は非常のバランスのとれた、昨今珍しい志をもった学者であることがわかった。(だがこれは政治家としての氏への評価につながるかというと、そうではないところが難しいところだ。)こうした一方的な思い込みによる食わず嫌いは大変よろしくない。むしろ、嫌いな人、悪意を持っている人、そういう人の本こそ優先して読むべきであろう。代表的な本を一冊二冊読めばだいたいその人がどういう思想の系譜か知れる。そういう意味でも、ひさびさに自らを省みるきっかけとなった一冊である。
本書はCMディレクターとして著名な(といっても、迂闊にもわたしは存じ上げなかったが)佐藤雅彦氏が、当時まだ閣僚でないころの竹中平蔵氏に問いかけ、竹中氏が佐藤氏の質問に答える対談形式で成り立っている。こうした「師弟問答形式」は初学者にとっては大変わかりやすい構成である。このことは、いわゆる「論語」などもこういう形式であることからも頷けよう。本書の見どころは、この流れにおける佐藤氏の「弟子」っぷりではないだろうか。おそらく狙ってやったものと思われるが、広告出身者はこれほどまでに伝えることに長けているのだろうかと、ある種の戦慄を禁じ得ない。一歩間違えれば、東大を出ておきながらなぜこんなことすら知らないのかと嘲笑してしまいそうな「素朴な疑問」を、佐藤氏は次々と竹中氏にぶつける。それに対する竹中氏のわかりやすく、本質的な回答・解説があってこそ初めて成立するやり取りではあるが、それ以上に佐藤氏の「情報の引き出し方」のほうに興味がそそられる。電通は嫌いだったが、もし電通マンの能力がみなこういうレベルだとするならば、やはり広告業界なかなかのものであると認めざるを得ない。
冒頭に述べた竹中氏の評価について、遠まわしに判断を留保させていただいた。なぜかというと、本書で語っている竹中氏の主張はおおむねすべて受け入れられるものなのだが、小泉内閣時代、経済担当相としての氏の仕事を思い返すに、どうもこの本で主張していたような志が感じられないからだ。端的に言って、この本での主張と、閣僚時代の仕事が完全に矛盾しているように思える。定量的な評価はたいへん難しいが、感覚だけでいわせてもらえば、彼は学者としては非常に優秀であったが、政治家としてはその稀有な能力を発揮することができず、そのため中途半端な政策により改革が改悪になってしまったのではないだろうか。そんな気がするが、もちろんこれは気がするだけでなんら裏付けのないわたしの思い込みである。それにしても、毀誉褒貶のはげしい方である。きっと、大変だろうなぁ・・・。