- 日垣 隆
- 個人的な愛国心
格差について簡単に読めそうな新書を探していたら、日垣隆の本を発見した。
ナナメ読みしたところ、何かの連載記事の収録みたいで少々ガッカリしたが、とりあえず買って値段分の損をしたことはないので、迷わず日垣隆のフトコロを温めることにした(笑)。(しかし、ちょっと悔しい)
日垣は近年発見したジャーナリストの中では最も先鋭である。一日に平均三冊、年に千冊以上の本を読破するという、その異常なまでの読書量と(「プロなら当然」と言われそうだが)、鋭い視点で読んでいて戦慄する。わたしはいつかジャーナリストにでもなれればいいな・・・などと努力の伴わない空想をしていたことがあるが、日垣の姿勢を見てあきらめた。ひとには向き・不向きがあるのだと再確認。わたしは、今の仕事のほうが性にあっている。
わたしは日垣の指摘ではじめて知ったこと・気づいたことが数多くある。単なる知識でいえば、刑法第39条などが代表的な例。これは今までまるで知らなかったが、本を読んではじめて知りえたこと。ものの見方という意味では、郵政三事業、記者クラブ、鳥インフルエンザなどが主なテーマだろうか。数え上げれば両手で収まってしまうかもしれないが、まあそれくらい影響を受けたということを正直に告白しておこう。役所や役人がますます嫌いになったのもかれのおかげかもしれない。
日垣の書くものは、わたしのような素人からすれば反論の余地がまったくない、恐るべきものだ。「これぞプロだ」と強烈に主張しているかのような膨大なデータ、疑問をさしはさむ余地のない厳密な論証、特定のイデオロギーに左右されない足元の堅さ、適確で短い文章。他の「自称ジャーナリスト」と異なり、修辞がほとんどない文章は難解な内容もすんなり頭に入ってくる。(修辞がないぶん、罵倒が異常に多いが(笑))。同業のニセジャーナリストは戦々恐々だろうが、わたしのような半端者からすれば、日垣の書くものには、ある意味で安心して思考停止できる。ジャーナリストを目指すひとは、まず日垣の書いたものに「批判」を加える練習からはじめたほうがいいかもしれない。あら探しでもいい。日垣が調べたことよりも多くを知り、日垣の指摘したことよりも鋭い指摘ができれば、ジャーナリストとして食っていくことが十分可能であるとわたしが保証しよう(笑)。
本書においても、このような日垣節はもちろん健在だ。しかも分量は少なめ、2時間もあれば読めてしまう。数年前の時事問題がメインなのだが、著者の得意分野である子育て論もときどき顔を出す。はじめて日垣の本を読む人は、一瞬、その過激さ(とその罵倒のひどさ)にあぜんとし、怒りすら覚えるだろう。しかし時間とともに「あれ、何か言ってること、間違ってないかも」と思うに違いない。
マスコミ志望の学生は必読であろう。池上彰氏や細野真宏氏のような、どちらかというと無害な教科書を読んだあとは、毒を注入していただくのもいい。もちろんTBSのニュースを見て「ふーん」などと思っている哀れなひと、我が子の教育に思い悩んでいるひと、「買ってはいけない」を買ってしまい、日々の生活に恐々としているひとなどは、まず最初に本書を読むべきだ。
なお、本書を読まないとしても、日垣の「そして殺人者は野に放たれる 」だけは必ず読んで欲しい。今後、裁判員制度が導入されるという、われわれにとっても司法が身近になる昨今、必読の書といえる。感情やムードに流されやすいわれわれは、しっかりとした現状把握をおこない、正確な知識で「ムード的なマスコミ」とたたかわなければ、裁判員制度は飼い慣らせない。
話の筋が二転三転してしまったが、とりあえず明日も仕事なのでこのへんで。