42年の長い歳月をかけて終わった『スター・ウォーズ』(スカイウォーカー)サーガ。今回は、シネマ探偵(明智)と、助手の小林少年(高校生)と花崎マユミ(女子大生)との問答形式で展開していこう。
小林 いろいろと賛否両論が出てますが、平成生まれの『スター・ウォーズ』追っかけ世代としても、ボクは楽しめましたが・・・先生はリアル・タイムで全作を観られてきてますね。
明智 エピソードⅣ(『スター・ウォーズ./新たなる希望』)は、42年前、学生時代に滞在先していたパリの映画館、シャンゼリゼ通りにある、ジョルジュ・サンク劇場で観た。日本での公開は1年遅れだったので、帰国して自慢が出来たね。
小林 パリですか・・・カッコいいな。でも、なんで日本では1年遅れだったのですか?
明智 当時は、現在と違って、字幕作業やフィルム・プリントを焼く時間もかかり、日米同時公開はほとんどなく、数か月から半年遅れ以上での公開が普通だった。『スター・ウォーズ』に関しては、全米での大ヒットを受けて、じっくりと宣伝していこうとの趣旨もあって1年遅れでの公開となった。
小林 その間、便乗商法で作られた作品もあったとか・・・
明智 そうそう、東宝が77年の暮れに『惑星大戦争』という作品を公開した。
小林 まんま、スター・ウォーズの邦題じゃないですか!
明智 ほかにも、深作欣二が監督した『宇宙からのメッセージ』なんてのも作られた。
小林 確か、日本では『宇宙戦艦ヤマト』がTV放映されていたり、ガンダムもこのあたりですか?
明智 ガンダムが放送されたのは79年。『スター・ウォーズ』人気に後押しされての企画だったようだ。
小林 当時、空前の宇宙SFブームだったのですね。
明智 78年にはスピルバーグの『未知との遭遇』も公開されたしね。そのあと『E.T.』、『エイリアン』など続々と宇宙SFものが作られていく・・・
小林 最初に『スター・ウォーズ』ありきですね。ところで、有名な話ですがジョージ・ルーカスは黒澤明監督に影響を受けていたという・・・『隠し砦の三悪人』での太平(千秋実)と又七(藤原釜足)のコンビが、C-3POとR2ーD2のモデルとされていたり、ラストシーンがそっくりなのだとか・・・
明智 それと、実際にルーカスは(フランシス・フォード)コッポラと共に、黒澤の『影武者』での海外版(配給)プロデューサーとして名前を連ねている。『ファントム・メナス』の戦闘シーンを見ると、旗指物(羽)をつけてる軍団の描写など『影武者』にオマージュを捧げたシーンも見られるね。
小林 確か、コッポラと出会ったのが、ルーカスが映画界に入るきっかけだとか・・・
明智 『最後のジェダイ』のブログにも記しておいたが、コッポラの支援でルーカスは処女作『THX1138』を作るのだが、興行成績は惨憺たる結果だった。そこで新規一転してルーカスは『アメリカン・グラフィティ』をヒットさせ名誉挽回する。方や、コッポラは『ゴッドファーザー』で大成功する・・・
小林 その『ゴッドファーザー』のコルレオーネ・ファミリーから『スター・ウォーズ』のスカイウォーカー・ファミリーの構想が生まれたという・・・
明智 うん、そしてその後、ルーカスは『地獄の黙示録』の企画をコッポラに譲り、両者の明暗が分かれていくという・・・
<ここで、明智事務所をアルバイトで手伝う女子大生の花崎マユミが入ってくる>
マユミ 二人で熱くなっていますね。スター・ウォーズのお話ですか・・・はい、これ、ディズニーランドのお土産!
小林 あ! ダースベイダーのこれは・・・
マユミ お餅! お正月なので・・・ディズニーランドのコズミック・エンカウンターで買ってきたの。
小林 ダースベイダーのマスクがカッコいい!
明智 ところで、マユミくんも『スカイウォーカーの夜明け』観てきたのだね。
マユミ はい。楽しみました。アダム・ドライバーとデイジー・リドリーが共に良かったですね。この新三部作は、レイが主人公ですから、女性として共感を覚えましたし・・・
小林 先生は『最後のジェダイ』のブログで、スター・ウォーズがディズニー・ブランドになったと指摘されてますね。
明智 うん。ルーカスは、旧6部作を作り上げた時点で「もうスター・ウォーズは作らない」と言っておきながら、映画化権をディズニーに売り渡した。その裏には、自ら持つ商品化権利での収益をディズニーから得るという目論見があった。新作を作るにあたって、シナリオ案もディズニーに出したそうだが、却下されて、代わりにJ・J・エイブラムスが監督にあたった。
小林 そして『フォーズの覚醒』が作られ、それを引き継ぎライアン・ジョンソンが『最後のジェダイ』を監督した・・・
明智 このいきさつが、いろいろと議論を招いた要因のようだ。
小林 確かに、アマチュア、プロの方々のブログ記事などネットで検索してみると、大多数が『最後のジェダイ』が異質で、今回の新作、スカイウォーカー・サーガの最終作を、J・Jが無理くりまとめ上げたという論調が多いですね。
明智 そうだね。しかし、ディズニーとしては今回でシリーズを終わらせる気はなく、すでに10作目からのシリーズ再開を公約している。そこで当初、ライアン・ジョンソン監督にこの新シリーズの監督も依頼し、その布石として『最後のジェダイ』を撮らせた。
小林 それが、最後に唐突に出てきた、箒をフォースで操るごとき引き寄せる少年の描写になるのですね。この少年を主人公にしての新シリーズの再開を・・・
ここからは『スカイウォーカーの夜明け』のネタバレを含みますので、未見の方は注意してください。
マユミ 先生が言われるように『ファンタジア』の魔法使いの弟子のミッキーのようですしね。私は、ディズニー好きですので、スター・ウォーズがより魔法寄り、ファンタジーになるのは嬉しいのですが・・・そうそう、今回、レイがパルパティーンの孫と明かされたことで、皇帝の孫であるから王女の血筋ですよね。とすると、新たなディズニー・プリンセスの誕生ですよ!!
明智・小林 (大笑い)
マユミ 動画サイトで見たのですが、レイのキャラクターは『風の谷のナウシカ』のナウシカのイメージがあると・・・
明智 確かに、J・J・エイブラムスは宮崎駿のファンであると公言してるしね。ルーカスは黒澤明、J・Jは宮崎駿・・・日本カルチャーの影響は偉大だね。
小林 それに加えると、J・JはRPGゲームにも影響を受けてると思います。『フォースの覚醒』は、ルークを探し出すこと。『スカイウォーカーの夜明け』では、パルパティーンの隠れ家(星)を探すことが命題になっていて、謎解きの旅となっています。短剣をかざして景色に一致させるところは『グーニーズ』に出てきた、欠けたコインを景色に合わせ宝探しをする場面へのイースター・エッグ(楽屋落ち)とも言われていますが、RPGゲームにもあるパターンでもありますし・・・
マユミ 私は、短剣をレイが手にする場面は『もののけ姫』のサンを思い浮かべました。癒しの力で、傷を治す描写なども似ていますね。
明智 なるほど、観方はいろいろとあるね。ここで、二人に言っておきたいのは、ジョージ・ルーカスが最初にスター・ウォーズを作った際に掲げたテーマだ。ルーカスは、ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』という本から多大の影響を受けた。これに記されている英雄とは「ある目的を見出し、故郷を旅立ち、メンター(師)と出会い、敵と戦い勝利し、そして目的を遂げ故郷に帰る」という。この英雄の旅をなぞったのがスター・ウォーズだという。
マユミ ヒーロー・ジャーニーと呼ばれるものですね。ギリシャ神話や、いろいろな神話にある共通のパターンですね。
明智 そうしてみると、レイの旅もヒロイン・ジャーニーと呼べないかな?
小林 確かに。ルークが故郷・砂漠の惑星タトゥイーンを後にしての旅は、最後にレイが帰還することで終わりを遂げます。そして、スカイウォーカーの新たな夜明けとなり・・・すると、現れる二つの太陽は、ルークとレイの二人の旅の始まりと終わりの象徴かも?
明智 砂漠からの旅には、もうひとつ、現代的なメーッセージも込められている。最初の三部作は砂漠の惑星から始まり、森の惑星エンドアで終わる。砂漠が森になって終わる。生態系の回復だね。
マユミ そういえば『スカイウォーカーの夜明け』も、レジスタンスの秘密基地があるエイジャン・クロスという惑星はジャングルで覆われていて、最後の勝利の場面に登場しますね。
明智 もうひとつ、この勝利を祝うシーンで話題になったのが女性同士のキスシーンで、LGBT、性障害を差別しない流れとも言われてるね。あと、人種も職業も雑多で、戦闘員に民間人たちも混ざっている。
マユミ まさに、ダイバーシティ、多様性の世界で、現代的ですね。
小林 最後に、民間人の宇宙船が戦闘にかけつける場面は『ダンケルク』を思い出しました。
明智 いずれにせよ、クリエーターの交代で、アラはいくつもあるスター・ウォーズ・サーガだが、これで終わった。灌漑深いね。
マユミ まだまだ、これからですよ。私は、アメリカのディズニー・ランドに誕生した、スター・ウォーズのテーマパーク「ギャラクシー・オブ・エッジ」に行きたい。バイト代、稼がないといけないので先生、よろしくお願いしま~す!
小林 ボクは、配信が始まったスピンオフ・ドラマ「マンダロリアン」が楽しみ。
明智 私も観たが、これにも一言あるので付け加えよう。主人公が賞金稼ぎということ。あとテーマ音楽も含めて、マカロニウエスタンの影響があるとみたね。それを手繰ると、マカロニウエスタンの発端は『荒野の用心棒』で、それは黒澤明の『用心棒』から。
マユミ すると、これも最初に黒澤明あきり、となるのですか?
明智 うん、その黒澤明も、実は西部劇の神様といわれるジョン・フォード監督から多大の影響を受けたと言っている。
小林 すると、ジョン・フォードから黒澤明、そしてセルジオ・レオーネ、さらに・・・とつながっていくのですね。
マユミ 私は、主人公と一緒に出てくるベビー・ヨーダが可愛くって。
小林 これっ、まんま「子連れ狼」って言われていますが・・・
明智 ははは・・・スター・ウォーズの話は尽きないね。トゥ・ビー・コンティニューとして、ここで終わりにすることにしよう。
(C)2019 Misaki Naoya