スター・ウォーズ・サーガの最新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が公開され賛否両論が起きている。「今までにないスター・ウォーズ。展開が斬新」といった賛から「こんなスター・ウォーズは見たくなかった」という否まで、要は旧来(特にエピソード4~6の原点3部作)と比べてかなり違ったテイストになってきたのは歪められないことで、これが賛否の一番の要因とみる。

 では、そもそもスター・ウォーズとは何なのか?ここから辿っていくとしよう。

Q スター・ウォーズはなぜサーガなのか?

 生みの親であるジョージ・ルーカス監督は、自分が子供時代にTVで夢中になっていた古い映画の放映、そのなかでも一番のお気に入りのSF活劇シリーズ『フラッシュ・ゴードン(36)』をリメイクしたかった。しかし、権利が取れなくて、オリジナルの作品として『スター・ウォーズ(77)』の映画化に結び付けた。それに、好きな映画のエッセンス=西部劇や、敬愛する黒澤明監督の『隠し砦の三悪人(58)』の要素をちりばめた。ここまでは、ファンには良く知られている有名な話だ。

 そこで、意外と知られていない、もう一つの生まれたきっかけがあることを披露しよう。

 ルーカスの映画界入りは、フランシス・フォード・コッポラ監督との出会いだった。コッポラ監督の撮影現場(『フィニアンの虹(68)』)で意気投合した二人は、一緒に会社(アメリカン・ゾエトロープ社)を興す。そして作ったのがルーカス監督の映画デビュー作『THX1138(71)』だった。ところが興業は惨敗。そこで、コッポラはその赤字の穴埋めのために『ゴッドファーザー(72)』を作ることになる。それが思わぬ世界的な大ヒットとなり、作品の評価も高く、コッポラは超一流の監督とみなされる。一方、ルーカスも負けじとならじと『アメリカン・グラフィティ(73)』を作り、これも大ヒットを飛ばしデビュー作の穴埋めどころかかなりの大金を手にすることなる。

 その勢いに乗って、ルーカスは親友ジョン・ミリアスから持ち込まれた大作「地獄の黙示録」の企画を立てた。しかしその前に、長年の夢だったススペースオペラ(宇宙SF活劇)の構想を実現したくなり「地獄の黙示録」の企画をコッポラに譲り渡してしまう。ルーカスがスター・ウォーズの企画に対して、コッポラから口出しをさせない(権利を自分だけのものにしたい)ためと言われてるが、ここからがシネマ探偵の推理だ。

 ルーカスはコッポラの『ゴッドファーザーPARTⅡ(74)』を観て「自分もこんな家族の年代記(サーガ)を作りたい」と想ったのではないだろうか? そこで、その時に構想していたスター・ウォーズを『フラッシュ・ゴードン』のような単なる宇宙活劇としてでなく、家族年代記(サーガ)として描くことにした。だから、コッポラにその構想案をゴッドファーザーからパクったと言わせないために(権利主張されるのを防ぐ意味で)バーターで『地獄の黙示録』の企画を渡したのではないだろうか?

 ルーカスは全9部作としてスカイウオーカーの一族年代記(親子3代まで)を、あたかも、コッポラのゴッドファーザーにおけるコルレオーネ・ファミリーのように描こうとしていた・・・

 スター・ウォーズ・サーガはSF版ゴッドファーザーを目指して構想されていた!?

  『スター・ウォーズ(77)』は全世界興業収入のトップに踊りでる記録的な大ヒットを飛ばし、商品化権でも莫大な富をルーカスにもたらす。片や『地獄の黙示録(79)』は製作に難航、興業も赤字こそまぬかれたが大儲けには至らず、その後の『ワン・フロム・ザ・ハート(82)』の興業の大失敗にも追い打ちをかけられ、コッポラが後に破産に追い込まれる素因となった。

 ハリウッドの巨匠の明暗を分けた分岐点としても興味深い。

Q なぜ、スター・ウォーズは違った作品になっていったのか?

 スター・ウォーズ・サーガ9部作を構想していたルーカスだったが、1~3作を作った時点で「もう充分」だと全9作を全6作で完結させることを宣言した。

 しかしながら、一番のうま味である商品権利収益(実際、映画の収益を遙かに上回っていた)だけは継続・拡大させていきたかった。そこで、世界最大のキャラクター・ビジネスを展開するディズニーと手を組むことにした。版権管理を共同で行うという条件のもと、残りの映画製作をディズニーに渡しても構わないと考えた。ディズニーとしても、マーベル・コミックの一連の映画化で収益を伸ばしていた矢先にスター・ウォーズという絶好のコンテンツを手に入れたかったので、両者の思惑は合致した。

 そして新3部作、およびスピンオフ作品が作り始められた。だから、冒頭に述べた旧来のスター・ウォーズとは違ったものになっているのは、ルーカスの手を離れている(ディズニー側は7作目を作る際にルーカスが出したシナリオ構想を拒絶した)のでファンが「いままでの作品とは違う!(熱狂的なファン達からは、オリジナルへ戻せとの要望運動も起きている)」と言っても後戻りはされないだろう。

 新スター・ウォーズ・サーガは、その世界観を引き継いだ「ディズニー印」の別の作品となったからだ。

Q ライアン・ジョンソン監督をなぜ起用したのか?

注:ここらは新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に関するネタばれがありますので、未見の方は留意ください。

 当初、7作を監督したJ・J・エイブラムス監督が8作でも引き続き脚本および監督を務めると予想されたが、一般には名の知られていないライアン・ジョンソンが脚本と監督に起用された。

 このライアン・ジョンソン監督の起用が新作の謎のいくつかを解くカギとなる。

 ジョンソンの代表作『Looper/ルーパー(2012)』は、タイムマシンが実現した近未来、殺害したい人物を殺し屋と共に過去に送り、そこで殺し屋に殺させ、殺害の証拠隠滅を図るというのがメインの話。その未来では、TK(テレキネシス)と呼ばれる超能力が、普通の庶民にもたらされている。ものを浮かせたり、操ったりする能力だ。スター・ウォーズのフォースに似ている。

 プロデューサー(ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディ)がジョンソンを起用したのは「その才能を買って」からだと言うが、このことが頭にあったかもしれない。

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Q レイは誰の子?

 最新作で、ファンの誰もが思っていた「レイはきっとルークの娘である」という期待ははぐらかされた。これだけのレイの強大なフォースは、スカイウォーカーの血筋でなければもたらすことが出来ない。そう思うのも当然だ。しかしながらカイロ・レンは無情にもレイに「おまえの両親は飲んだくれで、飲み代欲しさにお前を売った。今頃は惑星ジャクーで埋葬されていて、お前は孤児なんだ」と言い放つ

 つまり、フォースは何も特殊な血筋による能力でなく、ミデイ=クロリアン(知性を持つ微生物)が体内に寄生されれば誰もが持つことが出来るから、レイも庶民の中から誕生した?との暗示がある。

 そう、まさに『Looper/ルーパー』のTKと一緒ではないだろうか?

*追記 レイはパルパティーンの孫であることが『スカイウォカーの夜明け』で明かされた。無理くりとの指摘もあるが、そもそもアナキン(ダースベイダー)すらも、実はパルパティーンの息子であるとコミック版(ダースベイダー)でされている。さすれば、レイとカイロ・レンも血を分けた親類であり、妙に納得できてしまう。

Q スノークの正体は?

 そうして考察してくると、ファースト・オーダーの最高指導者スノークも、シスの暗黒卿の子孫であるというより、単に強いフォース(ミディ=クロリアンに寄生された)を身に付けたエイリアンであった。というオチになりそうだ。だから、カイロ・レンにあまりにも、あっさりと殺されてしまう。

*追記 『スカイウォカーの夜明け』では、パルパティーンの隠れ家には、スノークの生体(クローン?)があり、パルパティーンは「スノークは私の操り人形」であると明かしている。これも無理くりな設定であるが、納得させられてしまう。

Q ルークはなぜ消えた?

 『Looper/ルーパー』では、強大なTKで未来を恐怖で支配するレインメーカーという人物が存在する。そのレインメーカーの過去の子供の頃に、主人公はタイムトラベルで知り合う。そして、自分の行動がこの子供の運命を変えて、恐怖のレインメーカーを誕生させた事に気づく。だとしたら、自分が消えれば(死ねば)その誕生を阻止することが出来る。そして自らの命を絶つ。

 この流れも、今回のルークが起こす行動に繋がってみえる。かつて、カイロ・レンをダーク・サイドに落としたのは自分の責任である。そしてまた強力なフォースを持つレイが出現した。自分が再びレンのようなダーク・サイドにレイを落とすかもしれない。レンとレイが組んだら悪夢の帝国が復活してしまう・・・だとしたら、入滅(僧侶のように)して消えよう。そしてルークはヨーダの元(霊体)に旅立った?

Q ラストの子供の意味は?

 ルーカスフィルムからデイズニー映画に映画製作が移り、スター・ウォーズはファミリー・サーガ(年代記)の枷(かせ)がはずされた。ゆえに、今後は誰もが(スカイウォーカーの一族でなくとも)主人公になれる。最新作の公開前に、9部作のあとにさらに新3部作が作られることが発表された。

 その主人公になるのでは? と思わされたのが最後に登場する少年だ。カジノ都市「カント・バイト」でローズから貰った(であろう)レジスタンスの指輪をはめて掃除を始める前、箒を魔法のように手元に引き寄せる。強力なフォースの持ち主であることが暗示される。

 そして、夜空を横切る流れ星。「新たな希望」を示すと共に、ここに「ディズニー印」=『ファンタジア』で、魔法使いの月と星の帽子をかぶり、宇宙を夢見る「魔法使いの弟子」であるミッキーマウスを想い起こさせるがはっきりと見て取れる。

 魔法使いの弟子(パダワン)」が誕生したことが暗示される‼

 

 スター・ウォーズは、ゴッドファーザー・サーガ(一族の年代記)の世界から、魔法の国の世界(誰もが魔法使いになれる夢の国)に移り変わったのだ。

  こうして、むかし、むかしの遠いどこかの銀河系で・・・の「お伽話」が再び始まる・・・

 

 

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