Googleにて「シネマ探偵」と入れて検索すると、弊ブログに並んで『キネマ探偵カレイドミステリー(斜線堂有紀著・メディアワークス文庫)』が表示される(*追記・2018年末時点。現在は検索しても表示されないようになった)。興味津津で現在、刊行されている計3冊を拝読させていただいた。その読後感想を(『シネマ探偵』と題する小説でも書いてみたいと思っていた先を越された悔念もあるが)記してみたい。

 『キネマ探偵カレイドミステリー』は、第23回電撃小説大賞の入選作品。作者の斜線堂有紀氏は、これが小説デビュー作。プロフィールによると「小説を書くことが死ぬほど好きだったので、暇さえあれば小説を書いていました。(さらに)暇さえあれば映画を観ていた時期があり、これ自体を何かに生かせないだろうか、と考えたのが執筆のきっかけです」とある。

 映画に関する知識が博覧強記である探偵が、ワトソン役ともいえる主人公が巻き込まれる事件を解決していく・・・いわば『ビブリア古書堂の事件手帖(三上延著)』の映画ネタ版というところ。要となるのは古今東西の映画にまつわる「トリビア」であり、これは実によく調べていると感心する。それをどのようにミステリに結び付けていくのかが作者の腕の見せ所だ。

 ここで、内容に触れる前に(基本、ミステリの内容バラシはタブーなので、その前に)作者のプロファイルを推理していくことにしたい。

 斜線堂有紀(ペンネームであろう)氏は、今年(2018年)上智大学を無事卒業(?)されたと思われる執筆当時は学生作家。有紀氏の名前からすると女性とも男性ともとれるが、普通に画像検索しても本人の画像が出て来ないので「第23回電撃小説大賞」の授賞式のサイトの集合写真から推理していく。写真の右から安里アサト氏、佐野徹夜氏、周藤蓮氏とくるので、式の発表序列順からすると、右から4番目の女性が斜線堂有紀氏とみる。

 この女性が有紀氏であるとしたうえでの(ミスディレクションを覚悟のうえで)プロファイリングを推理したい。先ず、本人は相当の映画マニアであろうが、親族(おそらく父親?)がかなりの映画マニアで、その影響でさまざまな映画を見るようになったのではないだろうか? 映画好きの父親から影響を受けた娘というプロファイル像からだと、本作に登場する作品群(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ニュー・シネマ・パラダイス』『スタンド・バイ・ミー』・・・)に対する思い入れも納得できるのだが・・・。

 閑話休題。各巻三話~四話収録の計十話。いずれも、サブタイトルに映画のタイトルが冠してある。この構成はオシャレだし、また映画ファンのみならずミステリ小説のファンにも惹きを持たせる。映画の内容とミステリがどう絡んでくるかに関心が持てるからだ。

(以下からは内容に触れているので、未読の方はご注意を)

 そうして読みだすと、第一話『逢縁奇縁のパラダイス座~ニュー・シネマ・パラダイス』には、まさに映画ネタを旨く、ミステリのトリックに絡ませる手法が取り入れられいる。『ニュー・シネマ・パラダイス』の中にて上映される『ヴィッジュの消防士たち(49)』から、殺人トリックならびに犯人像が「なるほど」と浮かびあがる。なお、この『ヴィッジュの消防士たち』は、パブリック・ドメイン(著作権消滅)なので、Youtubeでもオリジナルをいつでも観れることができる。とすると「私が持っているフィルムでもない限り、おいそれとは見れないだろう」とうそぶく犯人の台詞は、オンデマンド時代の現在ではいささか時代遅れの台詞となる。まあ、彼が昭和の人間であってネットも知らないであることを間引きすれば、ストーリーの破たんであると指摘するのは野暮というものだろう。

 探偵役として登場する嗄井戸高久(かれいど・たかひさ)は、とある事件がトラウマとなり引きこもりとなって自宅から出て来ない。いわば「安楽椅子探偵」と呼ばれる、現場に行かずに座ったままで謎を解き明かすタイプの探偵だ。この辺は、うまく設定してある。主人公が、まったくの映画無知で勉強もダメな大学生・奈緒崎(なおさき)、これに今ドキのクールなJK矢端束(やばた・たばね)が絡んでくる。青春ライトノベルの登場人物たちとしては過不足ない。

 このライノベ観点で第ニ話『断崖絶壁の劇場演説~独裁者』第三話『不可能密室の幽霊少女~ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と読む進めると、それなりの読みやすさと登場人物たちへの感情移入もあってページを繰るペースも早くなる。第四話『一期一会のカーテンコール~セブン』では、映画ネタであるが少し変化球で映画のポスターデザインに言及するあたり面白く読めた。

 ところが、第二巻へと読み進めるうちに、映画ネタをミステリに強引に結びつけるアラが目立ってくる。

 特にツッコミをいれたくなったのが、第二巻・第三話の『正誤判定のトレジャーハント~バクダッド・カフェ』でのトリック。存在しないはずのディレクターズ・カット版(完全版)のDVD『バクダッド・カフェ』の隠しメニューのくだり。隠しメニューから、プライベート・ビデオが再生される。そのためにはオリジナルのDVDを制作する・・・そしてメニュー画面を作成して、そこに隠しメニューを埋め込み、プライベートビデオを挿入する。不可能ではない作業だが、これを行うにはそれなりのオーサリング(作業)ツールを用いての専門知識と技能が要せられ、かなりの手間がかかる。小説では、これを隠した人物にそこまでの技術があったとは思えない。単純にオリジナル商品のVHSテープの背にテープを貼って、それに上書きしてプライベート・ビデオを録画すれば、実に簡単に済むことなのに。これをわざわざ「隠しメニュー」の蘊蓄に絡ませてのトリックとしたあたりが、作者の「映画トリビア・ネタをどうしてもトリックに仕立てあげたい」という強引さがアラとして出てしまっている。

 同様に、最後の大ネタである嗄井戸のトラウマの要因はさらにツッコミどころ満載だ。大学の校内で起きた猟奇殺人事件自体が、あまりにあっけなく描写されている。しかも、その事件を収めたとおぼしき映像がネットに出回っている。ここまでくると、小説の世界観が一気に崩れてしまう。「この猟奇事件の後、大学のセキュリティはどうなっている?」「野放しのスナッフ映像に対するネット配信側の管理は?」「警察はどんな捜査をしているのだ?」・・・と次々と??が出てくる。

 と、ダメを出したが、では、読み通して満足しなかったといえば、実に満足した。

 それは「映画ファンの一割?しか知らない初耳学」が随所に溢れているからだ。映画が生まれる前に隆盛した「ファンタスコープ」での「魔術幻燈(ファンタス・マゴリア)」のこと。無声映画『国民の創生』上映中に、実際に大砲が鳴らされた。デヴィッド・リンチ監督は地下室で映画を作っていた。『メン・イン・ブラック』のベンチュラ(時計)。日本最古の映画『紅葉狩』が実に綺麗にデジタル修復された。リバース・ムービーと呼ばれる『ドニー・ダーコ』。『ラスト・タンゴ・イン・パリ』で起きていた屈辱の真実。アクション映画とホラー映画で必須のスクィップ撮影とは? 『スタンド・バイ・ミー』の吹替え版で、マニア垂涎の「ゴールデン洋画劇場」版はVHSでは発売されなかっこと(因みに2014年にコロンビア映画90周年記念として発売されたブルーレイ版では、この「ゴールデン洋画劇場」吹替え版が特典ディスクとして付いているので、小説内にあるようなTV番組録画VHSはもはや盗むまでもない)・・・。

  一応、第3巻で完結したかにみえるが、作者によればシリーズは起承転結の予定で書き綴っているという。とすると、3巻「転」のあと「結」である4巻も?

 シネマ探偵として、キネマ探偵にエールをおくりつつ、次巻を期待せずにはおられない。

 

                                                       シネマ探偵 みさきなをや