FRATELLI 第5章ーE
第5章ーE
(理弥)
「・・・数年前の事です。
ある女性が私を訪ねてきました。
雑誌の記事を読んで、私の居場所が分かったと言って。
その人は、亡くなった彼の妹さんでした。
いきなり、私に頭を下げました。
【兄が自殺したというのは嘘なんです。兄は心筋梗塞を起こし亡くなったんです】と。
あの時、お父さんとお兄さんがあんな事を言ったのは、私にお腹の子供の責任を取ってくれと言われるんじゃないかと心配したからだというんです。
彼は、私が妊娠したことを察知して、籍を入れる事を家族に報告していたらしいんです。
困って相談していたってことも嘘だったんです。
私、長い間、彼を恨み続けて、憎み続けてきました。
彼の墓前で謝罪しようと思って、何度か近くまでは行ったんですが、怖くて先に進めなかった。
許してもらえないと思う。
今更許しを請うより、許されずに生きてく方がいいんじゃないかって思って」
横須賀の先、九里浜から房総にはフェリーで渡った。
僕たちはずっと甲板から海を見ていた。
ペタっとした風が僕たちの髪をさらっていく。
「寒くない?」
僕の声を見上げて、ゆうさんは少し笑った。
なんとなく悲しそうに見えた。
「あなたは、不思議な人」
「僕が?」
「そう。なにもかもが、すんなり私の中に入ってくる。言葉も、笑顔も、動作も」
それは多分、喜ぶべき事なんだろうな。
「ずっと、どうしてなんだろうって考えてたんですけど、分かったんです。
あなたは彼に似てる」
だとしたら、あまり嬉しい事じゃない。
「聞きたくないですか?こんな話」
ゆうさんの問いに、僕は少し考えてから言った。
「いえ、聞いときます」
ゆうさんはちょっと微笑んだ。
「チェキって知ってます?
ポラロイドみたいに、撮ったその場で写真が出るインスタントカメラなんですけど。
当時、ちょうどそれが発売されて、彼は毎日、写真を撮って私にくれました。
あなたが今、写メで送ってくれるみたいに。
日常の何気ないショット。
でもそれを見てると癒される、そんな写真」
癒される、その言葉はとてもうれしい。
そうなって欲しいと願って送っていたから。
「それから、あなたの牛丼をかき込む姿とか、ストレートに優しい言葉とか」
「なんか、嫌だな。その人の代わりみたいで」
ゆうさんは笑った。
「もうずっと昔の話です。むしろ、彼をあなたに近付けて美化してるのかもしれません」
「じゃあ、オリジナルは僕って事?」
ゆうさんはまた笑った。
笑うだけで、答えなかった。
その笑顔に僕はまた、泣きたい気分になる。
