妄想恋愛シミュレーション -22ページ目

FRATELLI 第5章ーC

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第5章ーC





(尋弥)


「悲しい事とかさ、辛い事とかさ、不安な事とかさ、そういうのって皆持ってるわけでしょ。

それを人に見せる事って、そんなに悪い事じゃないと思うし。

きっとあんたの周囲の人たちは、そういう感情を共有したいって思ってるはずなんだよ。

抱え込む事が皆のためなんて、あんたの間違った美徳観念が、周囲を苦しめてるのにさ。

それに気付かないなんて、バカだな」


「周囲を・・・苦しめてる?」


「そうでしょ。

内山さんたちだって、ずっと心に抱えてるじゃん、自分たちの力が足りなかったんじゃないかって。

だからあんたが何にも頼ってくれなかったんじゃないかって。

もちろん、そうじゃないって分かるけどさ。

もうちょっと、弱いとこも見せたっていいじゃん。

人間なんだしさ」


彼女はそっと唇をかんだ。


「今回の事は、私が男を信用出来ないっていう頑なな部分にも原因があると思ってる。

だから、あの子たちの力不足なんて事じゃないの」


「分かってるって。

俺だって、あんたの男を蔑んでる態度が引き金だって思ってるし。

でも、俺は、あいつらのやり方が気にくわね。

やるなら堂々とやりやがれ。

近くで見てきた内山さんたちは俺以上にそう思ってるはず。

だからこそ、一緒に戦いたかったんじゃないの?」


横顔を覗きこむ。


「ね、苦しい時こそ、素直になれよ」


返事はない。


でも、何も言わないって事は、納得してるって事。


ボート部の練習が終わる。


対岸にボートが上がり、数名で1艘を持ちあげて土手を登っていった。


「ところでさ、どうしてそんなに男を信用できなくなちゃったの?」


ようやく彼女が顔を上げた。


「聞きたい?」


「うん」


「でも、長くなりそうだから」


「じゃあさ」


俺は立ち上がった。


いつの間にか、夕暮れは夕闇にのまれかけていた。


「食事しながら聞かせてよ。ホテルはNGだよ。居酒屋かなんかでさ」


そう言って、彼女に手を差し伸べる。


意外と素直に俺の手を握ってきた。


その華奢な指を引っ張って立ち上がらせる。


「居酒屋かぁ。何年ぶりかしら」


「じゃあ、エスコートします」


俺は、曲げた肘を彼女に示した。


その腕に、彼女は自分の手首を絡めてきた。


「さすが、元セレブ。様になってますね~」


「いちいち、うるさいわよ。言っとくけど、あなたが誘ったんですからね。私は、仕方なく付いて行くんだから」


「ったく、素直じゃねえなぁ」


そう言って歩き出す頃、夕日はすっかり闇に溶け、街灯の光にちらちら輝く河から上がってくる涼しい風が、俺たちの背中をそっと撫でて行った。




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The Happy End