ウルタールの路地裏から。 -35ページ目

みょん×ソード the final 『白楼剣は明日に舞う』③

the final ②より



 殺到するマシンの数と密度が急に数を増し、妖夢の〈ダン〉も流石に押され始めていた。
 斬れども斬れども沸いてくる新たな敵。
 進撃の歩調も次第に鈍り、妖夢は西行妖との距離を詰められなくなっていた。
「くっ…」
 〈シン〉のトンファーを打ち払い、返す刀で真っ向から斬り伏せる。さらに〈セン〉の投擲するチャクラムを素手で受け止めて、投げ返す。
 二機撃破。
 それもつかの間、〈ディアブロ〉と〈コバルター〉がその重量のままに連続で打ちかかってきた。振り降ろされる斧と棍棒。
 重量級の一撃を飛び越えて背後に抜ける〈ダン〉。しかしその先には銃を構えた〈サウダーデ〉と〈アオイダー〉、そして大量の首無しマシンが待ちかまえていた。
「しまっ……」
 向けられる銃口。
 放たれるビームの嵐が〈ダン〉に迫る。
(回避は……間に合わない!)
 妖夢はとっさに〈ダン〉の電磁シールドを前方に集中展開。大量のビームが煌めく光の盾に防がれて弾けていく。
 しかし途切れることのない一斉射撃は〈ダン〉の動きを完全に封じていた。
(動けばシールドが保たない。でもこのままじゃ、シールドも……)
 多勢に無勢、八方塞がりとはこのこと。
 こうしている間にも包囲の輪は少しずつ狭まっていく。
 紫の〈バルディオス〉がサーベルで後続を薙ぎ払っているものの、損傷のためか動きが悪く、少しずつ発生した取りこぼしが〈ダン〉に追いつきつつあった。
『妖夢、足を止めないの! 囲まれるわよ!』
 後方から響く紫の声。
 少しずつ、焦りが妖夢の心を支配していく。
「……一か八か、やるしかない」
 小さく呟き、妖夢は楼観剣を握り込む。
 手段は一つ、装甲を頼りに強引に突っ切るのみ。
 妖夢はいつでもシールドを解除し突撃できるように、〈ダン〉を身構えさせる。
 呼吸を整え、前方の西行妖と〈ダイオージャ〉を見据える。
 覚悟は決まった、後は往くのみ。
「魂魄妖夢、推して参──」


『妖夢、飛べ!』


 叫び、駆け出そうとしたその身を声が制止する。
 言われるままに妖夢は〈ダン〉を跳躍させた。
 その下を通り過ぎていくのは、背後から照射される大出力の光線。
 その光は軌道上のマシンを焼き尽くしながら突き進み、前方の地面に着弾し爆発。弾幕を展開していたマシンを跡形もなく吹き飛ばした。
 思いがけない突然の援護に、妖夢は振り返る。
 そこで彼女が目にしたのは、赤銅色の装甲に身を包み、黒いマントを羽織った二本角の騎士型マシンだった。
 そのマシンは抱えていたビームランチャーを投げ捨てると、たった今切り開いた道を脚部のローラーで走り抜けていく。
 左右から先ほどの一撃を逃れた敵が襲いかかるが、騎士マシンは両手に携えたガトリングガンとハンドキャノンでそれらを次々に撃ち落としていった。そしてあっと言う間に〈ダン〉のところまで追いつくと、その背中を守るように背後につく。
『妖夢、雑魚は私たちと紫様で引き受ける』
 騎士マシンから響く声は紛れもなく藍の声。
 さらに、別の声がそれに続く。
『早く幽々子さまを助けに行って下さい!!』
「その声、橙!?」
 驚く妖夢に、橙はすかさず声をかける。
『今は話してる暇はありません!! 早く!!』
『急げ!!』
「……分かりました。恩に着ます!!」
 二人の叱咤を受けた妖夢はきびすを返すと、開けた道に向けて〈ダン〉を走らせる。
 既に前方にその進撃を遮るものは何もなかった。
 


 
 藍は妖夢の〈ダン〉が遠ざかるのを確認すると、周囲の敵をなぎ倒しながら紫の〈バルディオス〉の下に向かい、その前にひざまずいた。
「紫様、お待たせいたしました。藍と橙、そして〈ヴォルケイン〉。ただいま戻りましてございます」
『ご苦労様でした、二人とも』
 帰参した二人の式に、紫はねぎらいの言葉をかける。
『各々の問題、解決できたようで何より。今ならば、貴女たちにも任せられるでしょう』
「紫様、まさか……」
『そのまさかよ、貴女たちにもやってもらうわ』
「?」
 困惑する橙をよそに話を進める紫と藍。
 そして藍は突然〈ヴォルケイン〉の搭乗ハッチを開くと、膝の上の橙をそのまま抱き抱えた。
「?……藍さま?」
 その眼前には差し出される〈バルディオス〉の手。
「橙、あっちに移るぞ!!」
「え、えぇぇぇえ!? ら、藍さま!?」
「戦うと決めた以上は四の五の言うな! とぉぉぉうっ!!」
「きゃぁぁぁっ! またぁ!?」
 面食らう橙をよそに、彼女を抱き抱えた藍は〈ヴォルケイン〉のコクピットを飛び出して〈バルディオス〉に向かって飛翔していく。そして二人の体はそのまま〈バルディオス〉の中に吸い込まれていった。




「ここは?」
 気づくと橙は見慣れないコクピットの中にいた。空間は先ほどの〈ヴォルケイン〉のものより幾分か広いが、ここには橙一人しかいない。
「気づいたか、橙」
 スピーカーから聞こえるのは藍の声。
 それとともに前方のモニタが点灯し、そこに外の景色といくつかの小窓が映し出される。小窓の中には文字列や点滅する円の図形、そして二人の主の姿が映し出されていた。
「そこは〈バルディオス〉を構成するメカの三号機〈キャタレンジャー〉の中よ」
「今回は乗っているだけでいい、私たちの戦いをよく見ておけ」
「は……はい!」
 主たちの言葉に、橙は元気よく返す。
 彼女の心の内には強大な敵に対する恐れもあるが、それ以上に主とともにいられる喜びが満ちていた。
 ようやくここまで来れた。主人と同じ場所に。
 旅の果てにたどり着いた場所。しかしそれは終わりではない。橙にとっての新たな始まりだった。
(妖夢さん、本当にありがとうございました。あなたのおかげで……私は、ここにいます)
 



(かわいい子には旅をさせよとは言うけれど……本当ね)
 紫はウィンドウに映る橙を見つめ、思う。
 この幼い式は、これから戦いの中で起こることを一瞬たりとも見逃すまいと目を見開いていた。今まで旅で見てきたものと同じように、その全てを吸収しようと。
(そして……)
 次に二号機〈バルディプライズ〉に搭乗し、機体の制御を行う藍に視線を移す。橙を気にしていないはずはないのだろうが、見たところは自分の作業に集中できている。
(藍も、ようやく子離れできたみたい。まったく……なんだかんだで世話かけさせるんだから)
「ふふふ」
「紫様?」
 笑みをこぼす紫に、いぶかしむように藍が問いかける。
「いえ、何でもないわ。若いっていいわね」
「あはは……」
「……藍、そこはすぐに否定する所よ?」
 冗談に苦笑い浮かべた藍を紫はぎろりと睨みつける。
「も、申し訳ありません!」
 藍は平謝りすると、逃げるように制御に戻った。
 その様子を見て、紫は再び微笑む。
 それは式に向けるようなものではなく、まるで母親が子供に向けるような慈しみの笑顔だった。彼女にとっては藍も橙も等しく自分の子供のようなもの。故に、その成長や仕草の一つ一つが愛おしくてたまらないのだ。
「さぁて」
 紫は短く呟くと表情を引き締め、機体のステータスに目を走らせる。藍が搭乗したことにより、本来三人乗りであるはずの〈バルディオス〉の操縦制御を全て一人で行っていた紫の負担は軽減された。
 それが何を意味するか。
「思い知らせてやりましょうか」
 〈バルディオス〉のエネルギー出力が跳ね上がり、封印されていた武装のセイフティが次々に解除されていく。 
 そう、今まで〈バルディオス〉が、キャノンやミサイル、パルサーベルといった、簡単な武装しか用いていなかったのには理由があった。それは紫が三人分のシステムと主機出力の制御に集中するのに、武装の制御を最小限に抑えていたためである。
 式のアシストを得た今、その枷は無くなった。
 紫の〈バルディオス〉はその能力のすべてを目覚めさせていく。
「電気羊の幻想(ユメ)に囚われた哀れな機械どもよ」
 呟く紫の瞳が冷酷な彩りを帯びる。
「美しく──」
 操縦幹に手が添えられ、バルディオスの全身にすさまじいパワーが渦巻いていく。
「残酷に──」
 額の宝石に宿る七色の光。
 封印を解かれた必殺兵器の矛先が前方に群がる敵をとらえる。
 その顔に湖面のように静かで冷たい笑みが浮かんだ。
「──そして悉く、この隠り世から往ね!」


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