ウルタールの路地裏から。 -34ページ目

みょん×ソード the final 『白楼剣は明日に舞う』④

the final③より



 天を一面の桜色に染め、絢爛たる満開のときを迎えようとする西行妖。
 その下で、二機の鎧武者が対峙する。
 方や天を衝く巨体と禍禍しい意匠に変貌を遂げた、大いなる王者。
 方や銀の装甲に身を包み二刀を携える裁きのヨロイ。
 始まりの地を覆い降り注ぐ桜吹雪の中で今、妖夢の旅の終着を飾る最後の戦いが始まろうとしていた。
 コクピットの床に刺した二刀を握り込む妖夢。
 その動きに応じて、リボンに取り付けられたリングがチリンと澄んだ音を奏でる。
「幽々子様、今しばしのお待ちを」
 妖夢の〈ダン〉がゆっくりと二刀を構える。
 それに応じて、〈ダイオージャ〉……いや、西行妖の妖力と幽々子の力で強化された〈G(ジェネシック)・ダイモージャ〉が、掌に巨大な扇を形成して〈ダン〉に向ける。
 それは幽々子が自身の乗機を〈ダイモージャ〉と呼んで操っていた際に用いていたものと同じもの。しかし本体と同様にそのサイズは巨大、造形は禍禍しく変貌を遂げていた。
 妖夢の心に烈しい怒りが燃える。
 心底慕う主の自由を奪い、その機体を、武器まで奪い我がものにしようとする敵に対して。
 そして、今の今まで迷いを払拭できなかったがためにそれを止められなかった自分自身に対して。
 歯を食いしばり、前方の〈G・ダイモージャ〉を見据える妖夢。感情とともに高ぶる霊力がコクピットでスパークを起こす。
 しかし、その烈しさの内にあっても、妖夢の心は身の置き所を見失っていなかった。闇の中から見いだした信念、慕う者のための戦うという意志が、感情を力へと昇華させていた。
「必ずや、お助けいたします!!」
 妖夢の叫びとともに、〈ダン〉が飛翔する。
 刀を突き出し、胸部へ真っ向からの一撃。
〈G・ダイモージャ〉はそれを扇で受け止めると、まるで虫でも払うかのように〈ダン〉を弾き飛ばす。
「……ッッく! まだ!」
 妖夢は〈ダン〉を空中で回転させ、何とか着地。再び身構える。
『冥符「黄泉平坂行路」』
 そこにかけられる〈G・ダイモージャ〉からの無機質な声。それとともに、扇の先から放たれた大量の悪霊が次々に〈ダン〉に襲いかかっていく。
「こいつ、幽々子様のスペルを!!」
 うねり、身をよじり、でたらめな軌道で迫る悪霊を妖夢は〈ダン〉の二刀で切り払う。
 しかし、群がる悪霊は刀の隙間をすり抜けて〈ダン〉に食らいつき、次々と爆発を起こしてその装甲を砕いていった。
「ッッ!……絶対……許せない!」
 フィードバックの痛みが妖夢を襲う。しかし、彼女はそれに耐え、剣を握る。
『幽雅「死出の誘蛾灯」』
 体勢を立て直す暇もなく、続け様に発動するスペル。周囲に発生した悪霊たちが輪となって〈ダン〉を拘束した。
「っっ……く!!」
 身動きのとれなくなった〈ダン〉を、霊たちがぎりぎりと締め上げる。そして、とどめとばかりに振り下ろされた扇が轟音とともに〈ダン〉を地面に叩きつけた。
 窪んだ大地に倒れ伏す〈ダン〉。
 装甲が砕け、各部からは流体が流れ出し始めていたが、〈ダン〉は刀を杖に立ち上がると、一つに戻した長刀を両手で構える。
 そのコクピットでは妖夢もまた気を失いそうなほどの激痛に全身を苛まれていた。
 状況は決して芳しくない。
 しかし、その瞳はまだ微塵も闘志を失っていなかった。




「ン……」
 〈G・ダイモージャ〉のコクピット。小さく呻きながら幽々子は目を覚ました。痛みの中でいつのまにか意識を失ってしまったのだろうか。
 混濁する意識の中、前方のモニタに目をやる。
「……!」
 見開かれる瞳。衝撃が意識を鮮明にし、眼前の光景をとらえた。
 そこに映るのは、満身創痍の〈ダン〉の姿。
 突撃を繰り返しては強力なスペルの嵐に迎撃され、地面に叩きつけられる。そして、激しく打ち据えられた全身の装甲はぼろぼろに砕け、頭部は一部が破損して内側のマシンが露出していた。
 あれだけの損傷では恐らくは中の妖夢もただでは済んでいないだろう。しかしそれでも妖夢は、〈ダン〉は、立ち上がっていた。
 刀を右手に握り、左手を添えて構える。
 幽々子はその〈ダン〉の姿に、傷だらけの妖夢の姿を重ねて見ていた。
(本当に……馬鹿ね、妖夢。そんなになって……)
 振り下ろされる巨大な扇。
 それを長刀で受け止める、ボロボロのヨロイ。
 青く光る流体を各部から噴き出しながら、振り下ろされる重量に必死に耐えている。
 西行妖の力を奪い取った〈G・ダイモージャ〉の圧倒な力の前に、その姿はあまりにも儚く、弱々しく見えた。
 しかし幽々子には分かっていた。
その傷だらけのマシンに宿る力は、その操者の力は、どこまでも本物だということを。
 全身の傷も、経てきた戦いも、培ってきた思いも、そして、戦う意志、強さも、この『端末』のように他者から奪い取ったものでない。彼女が旅の中で思い悩みながらも戦い、本物の経験を積む中で鍛え、見出したものなのだ。
 語らずとも、顔が見えずとも、幽々子は妖夢の旅を理解していた。
(あの子は本当に強くなったわね。ねぇ、妖忌?)
 幽々子は従者の成長を目に、今はなき人物に語りかける。
 同時に幽々子は理解していた。身を削って忠を尽くす従者に主として、今自分が何をしてやれるかを。
 幽々子は横目にそっと『端末』を覗き見る。
 戦況が有利ということもあってか、『端末』は別段幽々子に注意を払わず戦いに集中しているようだった。〈ダン〉に止めを刺さんと〈G・ダイモージャ〉の腕に力を込めていく。
 今ならば。
 大きく、息を吸い込む。
 聞こえるかは分からない。
 だが、腕を縛られ、力を奪われた自分にできることはこれしかないのだ。



「妖夢!!」



『!?』 
 声を張り上げ、叫ぶ。
 こんな大声などどれほどぶりに発しただろうか。『端末』がこちらを向いたが構わずに続ける。
 


「今こそ、貴女に命じます」



『発言を許した覚えはありません』
 再び強く締め付けられる手足。
 身を灼く程の激痛。
 だが、この程度のことで負けていられない。あの子は……もっと痛く、苦しいはずなのだから。
 幽々子は歯を食いしばって、言葉を紡ぐ。





「……ッ、目の前の無粋なガラクタを、その剣で斬りなさい!!」





「幽々子様……!」
 各部がひび割れ、漏れたエネルギーが火花を散らすコクピット。
 その苦境にも関わらず、妖夢の顔には喜びの彩が浮かんでいた。
 瞳に宿る光はその輝きを増し、溢れだす気力がその胸を満たしていく。
 妖夢にとって主の言葉はそれほど迄に大きかった。
「その命、必ずや!!」
 言って、妖夢は〈ダン〉の刀を分離させ、扇を受け止めたままの長刀に短刀を交差させる。
 そして、
「はあぁぁぁぁっっ!!」
 挟み斬るようにして扇を破壊した。
 砕け、飛び散る破片。断ち切られた根元の部分が勢い余って空を切り、〈ダン〉の足元の地面を叩く。
『……!?』
 この空振りで、〈G・ダイモージャ〉に初めて隙が生じた。
 見出した数瞬の好機、妖夢はそこに全てを叩き込む覚悟で一枚のスペルカードを取り出す。
 それは淡い光を発すると、妖夢の体に、刀を握る手に、そして刀から〈ダン〉に向かってその強力な力を注ぎ込んでいった。
 そして、宣言される名。
「断迷剣、『迷津慈航斬』!!」
 〈ダン〉の全身に満ちた大量の霊力が、一つに戻した長刀に集約されていく。そうして刀に宿った蒼白い光は、しだいに光度を増しながら巨大な刀身を形成していった。
 その長さはダンの身長の数倍を超え、それでもなお伸び続ける。妖夢はそこにありったけの霊力をつぎ込んでいた。
 砕けた頭部装甲の奥で、〈ダン〉の瞳が赤く輝く。
「ちぇぇぇぇすっ!!」
 咆哮とともに繰り出されるは最大の一撃。
超特大の唐竹割りが、裂帛の気勢をもって〈G・ダイモージャ〉の肩口へ振り下ろされた。
 対し〈G・ダイモージャ〉はとっさに左腕を突き出し、結界を生み出した。
 ぶつかり合う霊力の楯と矛。
 干渉した霊力同士がスパークを発し、互いにぎりぎりと押し合う。
 その衝突は武士の立ち合いで言う鍔迫り合いの様相を呈していた。
 押し切り、打ち果たすためにせめぎ合う力。
 しかし、霊力の刀身は遂にその結界を打ち砕いた。
 そして勢いのまま肩口に入ると、装甲ごとその左腕を根本から断ち斬る。
 斬撃の威力と腕を失ったバランスの変化に、〈G・ダイモージャ〉の巨体が大きく揺らぐ。
 そして、霊力の刀身はその断ち斬られた左脇下へ斬り抜けていった。
「まだっ!」
 妖夢はそこでさらに刀を返し、胴へ向けて横薙ぎ一閃。
 がら空きになった胴に見舞われた強烈な一撃は、その分厚い装甲を深く引き裂いた。
 焼き砕かれた破片が散り、破損部で小さな爆発が花開く。
 しかし、決定打にはまだ遠い。
『蝶符「鳳蝶紋の死槍」』
 落とされた左腕の付け根と薙がれた胴から爆炎を吹き出しながらも、〈G・ダイモージャ〉は残った右腕をかざしてスペルを発動させる。
 放たれる大量の光の槍と蝶弾。
 それは長刀を突き出す〈ダン〉に一斉に突き刺さって、その装甲を貫いた。
 一撃ごとに飛び散る装甲の破片と流体。
 そして、更に巻き起こった爆発がその身を大きく後ろに吹き飛ばした。
「っく…ぁ!」
 霊力の長刀が砕け散り、〈ダン〉の体が宙を舞う。
 しかし、その機体は落下の前に巨大な手に受け止められていた。
「……?」
 妖夢が後ろに目をやると、そこには〈バルディオス〉の姿。
『だらしないわね、妖夢。こっちはもう終わったわよ』
 かけられるのは紫の声。バルディオスはいつのまにか周囲に展開していたマシンのすべてを破壊していた。
「……紫様」
『妖夢さん!』
 続けてかけられる橙の声。
『……頑張って、下さい!!』
「はい!」
 妖夢はその精一杯の声援に一言で返すと、刀を握り込んだ。信念とともに枯れぬ霊力が〈ダン〉の体を満たしていく。
 そして〈バルディオス〉は〈ダン〉を抱えたまま、大きく振りかぶった。
『さぁ、せっかく任せたんだからさっさと決着をつけて、この馬鹿げた花見を終わらせてきなさい!』
 紫の台詞とともに〈バルディオス〉は、ひっつかんだ〈ダン〉を〈G・ダイモージャ〉めがけて勢いよく投擲した。
 荒っぽい方法だが、それはすさまじい速度と鋭さを〈ダン〉に与える。
 刀を突き出し飛んでいく〈ダン〉は、まさにそれ自体が一本の矢と化していた。
 〈G・ダイモージャ〉は右腕を繰り出して、それを迎え打つ。
 ぶつかり合う刀と拳。
 しばしの拮抗の後、〈ダン〉の機体が上に大きく弾かれる。
 遙か上空、〈G・ダイモージャ〉をも見下ろす高みを飛ぶ〈ダン〉。
 そのコクピットの中で妖夢は目を閉じ、先ほど主の声が聞こえた場所に意識を巡らす。


 場所は………頭部の真下、胸部の奥!


 閉じていた目が見開かれ、妖夢は〈ダン〉の長刀をゆっくりと逆手に持ちかえさせる。
 そして、突撃。
「はぁぁぁぁぁっ!」
 眼下の〈G・ダイモージャ〉に向かって、背中から粒子を噴出しながら加速していく。
 みるみるうちに速度は増し、近づいていく距離。
〈G・ダイモージャ〉は右手を突き出して防御する。
 しかし、全身ごと打ち込むような高速の一撃はその防御を断ち切り〈G・ダイモージャ〉の兜を、頭部を斬り裂き、破壊し、〈ダン〉の機体ごと刀をその中に食い込ませていった。


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