長らく噂されていたローリング・ストーンズの最新アルバムが2023年10月に発売される事が遂に発表されました。スタジオアルバムとしては7年振り、更にはオリジナル曲によるオリジナルアルバムとしては実に18年振りとなるそうです。既報によりますと、2021年にこの世を去ったチャーリー・ワッツの演奏も収録されている他、かつてストーンズに在籍していたビル・ワイマン、元ビートルズのポール・マッカートニーが其々1曲ずつベースを弾いているとの事です。豪華すぎる…。発売形態は配信の他にCD、LPでもリリースされるとの事です。今から待ち遠しい限りであります。
※後日発表された情報によりますと、アルバムにはエルトン・ジョンやスティービー・ワンダー、レディ・ガガも参加しているとの事。なんじゃこりゃ…
ストーンズの新作は此方。
さて、今回は1968年にリリースされたストーンズのアルバム”Beggars Banquet”をご紹介いたします。僕が初めて聴いたストーンズのアルバムで、思い入れの深い1枚です。前ブログでは何度か登場していますが、今回はその希少価値から垂涎の的となっているモノラル盤が遂に登場です。
ストーンズのアルバムは元々モノラル盤しか作られていませんでしたが、1965年の”Out Of Our Heads”からはステレオ盤(このステレオ盤はモノラルミックスを基に高音域と低音域とで無理矢理左右に振り分けた音質的にも劣る擬似ステレオとなっており、リアル・ステレオミックスを使用したステレオ盤の登場は1966年の”Aftermath”まで待たなければなりません)も並行して作られるようになりました。しかし、1968年になりますと次第にモノラル盤は作られなくなり、ステレオ盤へ移行していきました。事実、本作のUS盤や日本盤(日本への輸出仕様含む)はステレオ盤のみしか作られず、モノラル盤に関してはUK盤でしか聴く事が出来ません。ストーンズのUK盤は1969年リリースの次作”Let It Bleed”を最後にモノラル盤からステレオ盤へと完全に移行します。つまり、モノラル盤としては末期の作品となる訳です。
本作のステレオ盤も完成度は高いものですが矢張りモノラル盤も捨て難い。全ての音が塊となって前に出て来る感覚はモノラル盤でしか味わう事が出来ません。特にブルースやカントリー・ミュージックをルーツとしている本作はモノラル盤との相性が抜群。
本作のモノラル盤を聴くべき最大の理由はA1”Sympathy For The Devil”(邦題:悪魔を憐れむ歌)のモノラルミックスを聴く事が出来ると云う点です。他の曲はステレオ盤と比較して大きな違いは感じられませんが(無論、楽器の細かな音量バランスや処理の違い等は有るかと思います)追記:『悪魔を憐れむ歌』以外は如何やらステレオミックスをそのままモノラル化したものである模様です、『悪魔を憐れむ歌』に関しては聴き比べてみますと一発で違いが分かります。先ずはそもそものテンポが異なります。モノラルミックスの方がテンポが速く、ピッチもやや高くなっているのです。更に、ステレオミックスではイントロ部分に誰かの笑い声が聴こえますが、モノラルミックスではオミットされています。加えて、モノラルミックスの方がフェードアウトがやや遅くなっています。本来のテープスピードはモノラルミックスのものが正しいものだったそうですが、ステレオミックスを作る際、何故かテープスピードが落とされてしまったそうです。つまり、元々ストーンズが想定していたものはモノラルミックスになる訳です。
※ステレオミックスは近年のリマスターの際、テープスピードを上げる改善(?)が行われており、モノラルミックスと同じテンポ、ピッチになっています。修正前のステレオミックスは旧規格のCD若しくはアナログ盤でしか聴く事が出来ない訳であります。加えて、テープスピードはモノラルミックス、ステレオミックス共にA面は全体的に上げられています。此方も当時想定されていた本来のテープスピードに修正されたそうです。とは云え、旧規格のCDやアナログ盤から聴き始めた僕からするとどうも違和感を感じざるを得ません。
僕が所有している盤のマトリクスはA面が4A、B面が3Aとなっています。本作のマトリクスはA面が4A、B面が2Aと云う組み合わせが初回マトリクスと言われておりますのでA面のみ初回マトリクスと云う訳です。とはいえ、デッカのレコードは最初から複数のラッカー盤(レコードの原盤)を使い回していた模様ですから、マトリクスの違いに関しては基本的にそこまで拘らなくても良い気がします。
ジャケット。デザインは基本的にステレオ盤と同じです。僕は世代的に云えばトイレジャケットの所謂後追い世代です。然しながら(ジャケットデザインの蘊蓄は此処では省略しますが)当初採用された此方のデザインの方がしっくり来ます。とは云えこの辺りは個人の好みでしょう。
裏面。DECCAのロゴの下にはMono LK4955と云う表記があり、このジャケットはモノラル盤専用の物である事が分かります。
インナースリーブ。英国デッカ社純正品です。
盤。レーベルは赤いモノラル盤用のものが使用されています。 此方はオープンデッカタイプの初版。70年頃から使用されるDECCAのロゴが四角に囲まれたボックスド・デッカタイプのレーベルは存在しない(=70年以降、本作のモノラル盤は作られていない)模様です。
※初版の中でも細かな表記やフォントの違いによるバリエーションが多数存在するらしく、詳細なプレス時期迄は分からないため、ひとまず初版とさせて頂きます。因みに、68年頃からレコードの製造方法が変更されたようで、レーベル部分にあった溝(DG:Deep Grooveの略称)が無くなりました。”Beggars Banquet”以降の作品は全て溝の無い盤です。本作よりも前の作品で溝無し盤を見掛けた場合、それは68年以降にプレスされたものになると云う訳です。
溝有り盤の例。写真は”Between The Buttons”(1967年)
CD(近年リリースされたモノボックスのバラ売り)と比較してみましたが、CDの音はなんだかスカスカしていて味気ありません。貴重なモノラル音源を気軽に聴く事が出来ると云う点では素晴らしいですが、矢張り出来ればレコードで聴くべきでしょう。
比較に使用したCD。このシリーズは基本的に初版のレコードを再現した仕様となっていますが、本作に関してはリリース当時使われる予定だった通称トイレジャケット(しかもコーティングの無いUS盤仕様と思われるもの)が使用されています。此処に当時の国内初回盤(直輸入盤)に付けられていた帯(只の紙です)が付けられています。しかも貼り付いていて取れません…。おまけに音源は先述したテープスピードを上げたものが収録されていたりと何だか色々と中途半端な仕様…。