NTV特集「永山則夫 100時間の告白-封印された精神鑑定の真実」 | 今日も花曇り

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先日の日曜日、NHKのETV特集「永山則夫100時間の告白-封印された精神鑑定の真実」を見ました。

永山則夫は大変有名な死刑囚で、最高裁がその裁判において、死刑を選択する際の基準いわゆる「永山基準」(ただし私個人は、この基準は考慮要素を列挙しただけで「基準」にはなりえないと感じています)を判示したことでも知られています。

上記の特集は、永山の精神鑑定を担当した医師が、278日間をかけて永山に面接した際の録音を素材に、永山の内面に迫った番組でした。

永山事件については以前から関心があり、それなりに関係書籍を読んではいたました。しかし、永山の生まれ育った当時の劣悪な環境の写真や、どこか人懐こい感じの声で、精神病を患った姉への思慕や、10円をポケットに野垂れ死にした父親へのこだわりを語る永山の肉声、それに、カタカナしか読めない母のためにカタカナでつづった手紙等を実際の映像で見てみて、改めて、やりきれない思いがしました。

永山が犯した罪は許されないとしてかいいようがありません。でも、もしもあのような環境の中で成長して、まともな精神状態でいられる人間なんているのでしょうか。

幼少期の悲惨な体験によるPTSDを指摘した医師の精神鑑定書は、一審でその内容を否定され、死刑が選択されました。

私が非常に驚いたのは、番組でインタビューに答えた当時の一審裁判官が、「この鑑定書を肯定してしまうと、死刑という結論が変わってしまう。4人も殺して死刑にできないのでは、死刑制度の存在意義が揺らいでしまう。」との主旨の話をしていたことです。

証拠から事実を認定しなければならない裁判官が、死刑という結論を維持するために証拠である鑑定書を排斥したという事実、そして、それを裁判官が堂々と述べているということに、ショックを受けました。

番組では、鑑定のための面接を終えるとき、医師が係官に隠して持ち込んだカメラで、せっかくだから最後に写真をとろうよ、にこっと笑って、と永山にもちかけ、永山が「いいよそんなの」と少し恥ずかしそうに答えている録音が紹介されていました。

そこで撮られたのが、書籍等で見かける笑顔の永山の写真でした。ああそうだったのか、この医師が撮った写真だったのか、と思いました。

こうした笑顔を見せるくらいに永山が心を開いた医師の鑑定書は、裁判所に対して永山が示していた法廷での戦闘的な態度よりは、永山の真実に近かったのではないでしょうか。残念でなりません。

番組のディレクターは堀川恵子という方で、他にも死刑に関する優れた番組や著作を発表されている方のようです。ドキュメンタリーという分野では、報道機関としての責任を果たしているのは唯一NHKのみという気がします。

再放送が10月21日(日)午前0時50分からあるようです。推薦できる番組です。

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