恋は二度目のアネモネ -8ページ目


豪雨をまぬがれ、
風の隙間をぬって歩いた。
心が穏やかな雨の金曜日には、
あたたかいお茶と読書がぴったり。
仕事のない仕事。
早起きして、本を読みに来ている。
大人はもっと大変だと思っていたけれど、
子どものほうが随分と大変だった。
ぼんやりと給与を得ながら、
体の中に、文字がどんどん降り積もる。


恋は、
いつだって唐突だ。
わたしもう、青息吐息。
限られた世界の中で、
人生を愉しみたいの。
いつだって、
今日死ぬかもしれないって思ってて、
あなたにもそうしてほしいのだ。
明日なんて信用できないから、
今日の小さな命に寄り添って、
少しでも優しく、
愉しく、
同じ時間を大切にしていたいんだよ。
















まだまだ暑いけれど、
夏の気配が薄くなる。
8月の終わりは、
いつもちょっとだけ淋しくなるのだ。
半袖も扇風機もサンダルも。
残暑の惰性の中で、
少しずつ息をひそめていく。
お気に入りの風鈴を、
今年は出し忘れてしまったな。


真っ赤な提灯が好き。
好きな人と、お酒をのむのだ。
いつまでもふらふら千鳥足で、
このまま死ぬまでこうしていよう。
あなたがいればそれでいいやと思える時期が、
いつまでたっても終わらない。

それは
とてつもなく、
幸福な人生だ。
あなたが
生きていてくれるなら。









真夜中のバスタブが好き。
あたたかいお湯に、
いい匂いがするバスソルトをいれて、
ゆっくり沈む。
今日この1日を、
丁寧に終わらせる儀式のように。

昔からクナイプがお気に入り。
今日のはこれ。


いいかおり。


脳髄とホルモンに操られ、
凶暴な獣と化したわたしだったけど、
映画と読書とあなたが、
そっと人間に戻してくれた。
尊いことだと思う。











我儘言うわよ。
女だもん。
毒吐いて、三日月の棘でぐさり。
どっろどろの自意識にのみこんでやる。
だけど、
嵐が去って、
波がひいて、
わたしがいなくなってしまったら、
きっとあなたは死ぬだろう。
なんてね。
きっと死なない。
人は強い。
思い上がりも甚だしい。


こんなに夜が憎らしいのは久方ぶりだ。
空を切り裂いて、
夜をのみこむほどでかい満月のような穴をあけてやりたい。
わたしのバイオレンスな衝動が、
体内の空気をふつふつと蒸気に変えていく。
黒くて、
熱い血。
おまえなど、
体内から血を出すこともないくせに。
と、
きっと女は、どこかで男を馬鹿にしている。


体も口も閉じて、
今日からしばらく、隠者になります。
どろどろ。
うずまく心の海と膿を、
まぜてかためて、
またひとつややこしい人間になるのだ。
そしていつかすとんとシンプルになりたい。


あなたがわたしに。
わたしがあなたに。
愛などという崇高なものではない。
こんなもの、
ただの情と、馴れ合いだ。










スパークリングワインとオリーブを持って、
電車で一時間の篤姫に会いに行く。
ときめきトゥナイト。
夏休みのはじまり。

すてきなきみは、
今日も料理をしながら煙草をふかしているはずだ。
細い髪の先にふれたい。
船の中。


淋しそうなあなたが可愛くて、
置いてゆくのが忍びないけれど、
夜はわたしのもの。
お髭をのばして待っててね。


とても気楽に、
言いたいこと言いながら暮らしていて、
ときどき言葉がなくなってしまう。
憂鬱の海からどろりと浮かびあがるまで、
失語症のわたしは、無意味なセリフを並べ立てていくばかりだ。
心地よいけれど、
物足りなくなるの。

ことばと、ゆううつ。
青。
夕方の濃淡が、
美しすぎて、いやになる。