恋は二度目のアネモネ -39ページ目


次にわたしがどうしたいか、
きみはきっと知ってて知らんぷりしてる。
でもわたしも知ってる。
きみがほんとはどうしたいか。
知らんぷりしてるの、わたし。
意地悪なの。

お誘い、嬉しいんだけど、お断りしてしまった。
いけない気分が上昇中で、
薄い肌にはりついた、薄い道徳なんてくそくらえだわ。
寄り添ってた粘着力が、どんどんなくなって、
わたしのからだは、わたしだけのもの。
気持ちいいの。
青い水の中にいるみたい。

明日はどうなるの。
どこ行くの。
のみこんでしまいたい。
のどの奥に絡まった文字を、つたない指で掻き出して、きみにそっと渡したい。
ほんとのことなんて言わない。
全部示すのって、何だか野暮ったいでしょう。


わたしより彼よりあなたより、
きみが沈みこむ。
何度も、何度も。

いちばん正しい心臓の形を、だれかわたしに教えてほしいよ。







いってらっしゃいなんて笑顔で、
大人っぽくさらりと言えるなんて
なかなかやるじゃないわたし。
年齢のおかげだ。
32歳。

全然深刻ではないけれど、
こんなにままならないのは、
産まれて初めてかもしれない。
ようやく彼らの気持ちがわかった。
素敵だなあ。

どこで何してても、
何だかどうでもいいの。
これも産まれて初めてかもしれない。

人生なんて、たった1日でガラリと変わってしまう。
よくも悪くも。
なんてドラマチック。
目の前がチカチカ点滅しちゃう。

もっと素面でいたい。
ぽわんとした膜の内側はとても心地がいいけれど、
もっともっと、新しいことを見たいのよ。
もっともっともっと。
欲を失ったわたしは、なんて色あせていたのだろうと思うよ。
何で今まで忘れてしまっていたのかな。
自分の中の大きな猫に、名前をつけて差し上げなくては。






記憶はどんどん上書きされていってしまうから、
直近の鮮やかなことしかもう思い出せない。

あなたが、
可愛い女の子とすてきな恋をしているところを想像して、
何だか嬉しくなってしまう。
いいのよ。
幸せならそれで。


呑んでて仕事の話しかしない女との結婚生活って、
いったいどんな地獄だろう。
わたしなら耐えられない。
不倫に不倫を重ねて、最後にゃ爆発するだろう。

きみとはどんな話をしてたっけ。
絶え間なくおしゃべりをしているはずなのに、
朝になるとすっかり忘れてしまう。
覚えているのは、断片的なことだけ。
でも、布の切れ端みたいな記憶がしゅるしゅる身体に巻きついて
肌の上にとけていってしまう。
血になって、細胞になる。
こんなかたちで取り入るなんて、なんてなんて、
なんてまぁずるいやり口だ。


今日あなたは少し複雑な表情だった。
わたしの台詞に、動揺したのかもしれないし、
わたしの気のせいかもしれないね。

きみの残像を抱いて眠ろう。









火曜日。
今日はかっこよくきまった髪型。
五分の早起きが、一日のテンションを左右するなんて
無造作で可愛いあなたには
死んでもわからないことなのでしょう!

この静かな空間の中で音楽を聴いたら
現実感が薄まってしまった。
もう仕事なんてできない。

早くおしまいにして、
どこかに呑みに行こう。






輪郭は、はっきりさせたままで
もっと見失いたい
自分自身。

輪切りにしても、みじん切りにしても
判明しないでしょ。
心がどこにあるかなんて。
透かして見ても、
可愛い心臓がぴこぴこ動いているだけなのよ。

ワインのキャップで血がでても、
それすら笑みがこぼれる。
映像と残像のきみが好きだ。
映画を観るように思い出したら、
それだけで夜を過ごしてしまえる の。


わたしを取り囲む枠は
いったいどんなものでできてるんだろう。
幻。
行間に置き忘れてきたから、
今はもう錆びたソネットの
単語の隙間に埋もれているかも ね。

さようなら。