恋は二度目のアネモネ -32ページ目



小さな部屋から一歩出た瞬間から、
きみはとっとと日常へ帰ってしまう。
くすぶった理想と憎しみをわたしに抱いて。
恋は幻のきらめき。
忘れないように書いておいてね。
わたしの好きなところ。
わたしが好きなところ。
いつだって自分勝手でずるいよね。
わたしもきみも、自由に生きてる。


さあ、書きなさいと言わんばかりの、
めまぐるしい日常。
登場人物の名前を覚えたら、
あとは喜んだり悲しんだりして、
それを練って固めて吐き出すだけだ。

左手の中指から女に戻ったわたしの体は、
あらゆることが前とは違う。
肌と胃はもちろん、味覚さえ変わってしまった。
模様替えだ。
あなたは気づいていない。
わたしが別の生きものになりつつあることを。
あなたは何にも知らない。

でもわたしも知らない。
わたしから一体何が出てくるのか。
言葉じゃない。
言葉じゃない何か。
それを書きとめたい。

産まれそうで産まれない。
くるしいの。
胸の真ん中でつっかえてる。
ピュアでグロテスクな何か。
もっとぐちゃぐちゃ引っ掻きまわして、
頭をおかしくしなきゃだめだ。
足りないままでいたい。
足りてしまうと、終わってしまう気がする。


今わかった。
わたしの心は
月とおんなじ形をしている。
欠けたり満ちたりして、
たいそう曖昧だ。

満月がこわいの。
1秒にも満たない完全体。
満ちていく過程と、
欠けていく過程でしか、
存在できないものがあるんだよ。



















甘いことも苦いことも
ぜんぶ欲しいの。
ぜんぶ、必要なのよ。
失敗しないなんて、ない。
したい。
したいの。
わたし、
あらゆることがしたいのよ。

人生は、一度きり。
だから、
愛してたい。
愛してもらえなくても。
そのほうが、
得をするよりずっと豊かだ。


新しい音楽を聴く。
きみのおかげで世界が少し変わる。
そういうことが刺激的なの。
もっと見たい。
見たい、と、思っていたい。
体も心も、
ずいぶん変化してしまった。
半袖を着ていた頃は、
何も知らず、無邪気に笑っていたのに。



明日は、友人と千べろ千鳥足。
仲良くしてくれてありがとう。

夜が横たわる。
死ぬまでずっと一緒だよ。











きみはどうせ、
我慢できなくなる。

わたしはのんびりと泳ごう。
浮き沈みしながら。
目の前にいる人たちと楽しく過ごしながら。
目の前にいる人たちを大切にしながら。
機嫌よく、かっこよくしていよう。
美しく、していよう。


夢が覚めたら、
別の夢の中だった。
そういうのが理想なの。
だってそうじゃないか。
現実の中で、さらに現実感なんて必要ない。
無粋なだけで、何の意味があるの。


遊覧船でぷかぷか
幽霊船でゆらゆら
宇宙の真ん中に、そっと浮かびたい。

いっときだけ心から愛しあって、
あとはそれぞれ
帰るべき場所へ帰っていく。
健全なサイクルで、
過不足は見ないふりをする。
近づきすぎないほうが、
いつだって美しいまま存在できるの。

きみを、わたしの月にしよう。









わたしは言葉の人だから、
もらえるものも、言葉がいい。

これが絵画の人なら、
無機質な絵柄からでも、
感じ取るものがたくさんあるのだろうか。



話せば話すほど愛してしまうのはあなただけだ。
話せば話すほど、普通は齟齬が生まれて、
ひとつだったものが、本当はふたつだったんだと思い知るのに。


でも
わたしは
言葉より
何よりも
きみの
かたちが
とにかく好きだ。

きっときみもそうなんじゃないかな。


生きものを、感じた。
生命はうつくしい。
正反対なの。
体温もモラルも優しさも。
何もかもが違うのに、
どうして愛してしまうんだろう。

お互いに、
ないものを補うみたいな関係だ。
そうやってバランスをとってる。
細い平均台の端のほうに立つだけじゃ、
満足できないたちなんだよ。
地球や他の惑星と同じで、
平面なんかじゃ生きられない。
くるりとまわれば、
まったく違う様相になるの。


わたしの光と闇は、
境界があやふやで、どちらもたいそう魅力的だ。
きみがあなたに、あなたがきみになる。
わたしは、わたし。
光に照らされて、闇につつまれて、
満たされて幸せだ。

早くあなたに会いたいから、
早く眠ってしまおう。
なんて乙女心。
でもわかってる。
ほんとうは、
人生の1日を早めに終わらせてもいいくらい、
ひとりの夜が味気ないのは
きみのせいだ。











ただいま。
うつつに帰ってきた。

すてきな夜と覚醒は、
儚いからこそ愛しいのだ。
だけどこのままポンと放りだされたら、
いったいどうすればいいのかわからないよ。

夢がさめると、
途端にむなしい。
ああ
誰でもいいから会いたい。
うそ。
会いたい人は、何人もいない。


きみによく似た母船の曲を聴いて、
ゆらゆら漂う。
あのときがもっとも穏やかで、
その前がもっとも夢中だった。
もう二度とないかもしれない。
美学は共有しなくてよいという価値観を、
とうとうきみと共有できなかったね。
それでいいの。
誰を納得させられなくても、
自分が納得して生きているかどうかだとわたしは思う。
きみがそうは思わなくても、いいの。
それでも仲良く、
好きな人を好きでいればいいじゃないか。


昨日のきみと、明日のあなたと、
ひとりぼっちな今日のわたしだ。
空虚なすきまにすっぽり埋まって、
久々にさみしくて泣いてしまうのもいいかもしれない。