恋は二度目のアネモネ -3ページ目


満たされていると、
言葉から遠ざかってしまう。
なにも補う必要がない状態のときは、
単語ひとつだってうまれてこない。

幸福はぬるま湯だ。
沸騰も、凍えもしない。
幸福はもうそれだけで完結していて、
そこからは何もうまれない。
ゆらっと、ぐらっと、
するまでは。

だからいつだって、
ほんのすこしだけ憂鬱でいたいのだ。

のみすぎたり、
悲しすぎたり、
憤ったりすると、
途端に饒舌になるのは、
ゆらっと、ぐらっと、で、できた空洞を
もうとことん埋め尽くしたいから。

理不尽に対峙して、
言葉で武装して、戦って、
そうやって
納得したいのだ。
おそらくは。

すこしの憂鬱にぴったりなこと。
知っているけどなかなかできない。






今回初めて出した、宣伝会議賞。
その一次審査結果が今日出た。



一次審査の通過率は1.1%で、
わたしはというと、
260以上のコピーを書いて、
たった
たった
たったのひとつだけ、
通過した。

それも、
意外なやつが通っていて、
自信があったやつは全部落ちた。

たったひとつのキャッチコピー。
ああ。
たったひとつ。
だけれど、嬉しいのだ。

だって1.1%はなかなか低い確率だ。
52枚のトランプの中から、
ハートのエースを一回で引き当てるよりも低い。
 これは喜んでもいいではないか。
こうやって、
ひっそり書いてるブログでちょっと自慢するくらい。
いいでしょ。


でもわたし、
5つくらいは通ると思っていた。
トントン三次まで通って、
優勝する妄想ばっかりしていた。
おこがましいね。
井の中の蛙、それはわたしのことだ。


むずむずと嬉しくなって、
具をいっぱい入れたキンパをつくって、
ぜんぶむしゃむしゃ頬張った。




あー
わたし。
もっと頑張りたいなあ。









わたしは今、
半音下がった世界にいる。

というのは、
風邪薬のユニークな副作用。

さわやかでちょっとイケメンな薬剤師さんが言うには、
「この薬を飲むと、聴覚に影響が出る場合があります」
「絶対音感をお持ちの方は、きっちり半音下がって聴こえます」

おそらくそうはなるまい、と思っていたら、
その副作用はきちんとわたしにも作用していた。

絶対音感の持ち主ではないけれど、
電車の発射音
電話が鳴る音
終業を告げるチャイムの音
全部が低く聴こえてしまう。

いつもの音が、半音下がる。
とてつもない違和感だ。

電車の中で、
女性の声のアナウンスが、
低くなっていたときはドキッとした。
いやん、あなたいつもより色っぽい。
こんなことなら、
わたしも低い声で喋ろうかしら。
なんて。

小さな一粒の錠剤で、
ぐるぐる
世界がまわるの。

なんて胡乱なの、かしら。


ああ。
あなたへの恋心も
半音下がるかと思いきや。




半音下がった世界の真ん中で、
あなたが買ってくれたいちごを食べよう。



















眠りすぎたとき。
お湯に長く浸かりすぎたとき。
わたしの頭が痛むのはそのときくらい。
今日はそのどちらをもやらかしてしまって、
久々の頭痛に見舞われている。
ああ。
マイネームイズブルー。
眠るも浸かるも、
本当なら快適な行為なのに、
自分のからだひとつ、ままならない。


普段すこぶる健康体のわたしは、
頭痛薬を飲むということに考えが及ばず、
頭痛薬あるよ、と彼に言われて初めてその存在に気づく始末。
ラムネのような平べったい丸を、胃に流し込む。
鎮痛剤はすごいんだ。
きっとすぐに痛みなどなくなってしまう。
便利だ、この世の中は。


潮がひいていくみたいに、
じわじわ頭痛が後退していく。
それと同時に、
忘れていたわがままがパチパチ覚醒して、
はしたなく増えてくよ。

あなたが、おなかをすかせて帰ってくる。
頭が痛いわたしのためのごはんを携えて。
ああ、だけど。
苦痛を失ったわたしは、
いま猛烈に料理をしたいのだ。
何種類もの野菜と肉を切り刻んで、
からだの中を満たしたい。
ほら。ね。
からだも意識も行動も、
何ひとつとして、ままならない。

あなたが帰ってくる。
おなかをすかせて。
わたしへの思いやりをかかげて。
幸せだ。
わたしが築いて、
わたしが維持した幸せだ。

ああ。
だけど。
目の奥に、
重い痛みが残ったまま、
いつまでも消えない。









  
月だから、選んだの。

とてもさわやかな白ワイン。
あなたとわたしの、
ただただ巫山戯た夢のようなお正月休みを、
すっきりと彩る味だった。


今日はふたりにとって、
全然ついていない日で、
本当に何ひとつとしてうまくいかなかったのが、面白くてたまらなかった。
わたしひとりなら。
もし別の人となら。
ただのつまらない日だったはずなのに笑ける。
つまらないことを笑い飛ばして、
愉快な一日に変えられるのはあなただから。
だ。
だから何ということではない。
わたしだけの、特別だ。
ひゃっほー