わたしは今、
半音下がった世界にいる。
というのは、
風邪薬のユニークな副作用。
さわやかでちょっとイケメンな薬剤師さんが言うには、
「この薬を飲むと、聴覚に影響が出る場合があります」
「絶対音感をお持ちの方は、きっちり半音下がって聴こえます」
おそらくそうはなるまい、と思っていたら、
その副作用はきちんとわたしにも作用していた。
絶対音感の持ち主ではないけれど、
電車の発射音
電話が鳴る音
終業を告げるチャイムの音
全部が低く聴こえてしまう。
いつもの音が、半音下がる。
とてつもない違和感だ。
電車の中で、
女性の声のアナウンスが、
低くなっていたときはドキッとした。
いやん、あなたいつもより色っぽい。
こんなことなら、
わたしも低い声で喋ろうかしら。
なんて。
小さな一粒の錠剤で、
ぐるぐる
世界がまわるの。
なんて胡乱なの、かしら。
ああ。
あなたへの恋心も
半音下がるかと思いきや。
半音下がった世界の真ん中で、
あなたが買ってくれたいちごを食べよう。
