恋は二度目のアネモネ -22ページ目


左手にばかりほくろができるのはなぜだろう。
ぽつん、ぽつんと、
墨のように、
わたしのこどもみたいな手の甲に浮かぶ。
ここからいつでも、
夜をおびき寄せられればいいのに。
からだじゅうの点を繋いで、
大きなひとつの星座になりたい。


わたしが見たいのは、
いつだって主観なのだ。
世界をどんなふうに捉えて生きているのかを知りたいの。
あの子もあの子もあの子も。
同じ人間なんていない。
誰かの枠を借りなくたって、
美学があればしゃんと立っていられるはずだよ。
わかりあえなくても、いいの。
だって多様性がなけりゃ、
わたしたちはたちまち滅びてしまうじゃないか。


長生きしなくていいけど、
わたしを置いていかないでね。












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去年食べたすいかの味は、
もうすっかり忘れてしまった。
きみの手のひらや、
雨の馨も。
もうすっかり忘れてしまったの。

8年ぶりに、
傘を買った。
雨でも雪でも、
何でも降ればいい。
だけどそうやって憂鬱が減るほどに、
わたしはますます平凡になる。
足の先、肩の先、胸の真ん中がじわりと、
濡れてるくらいがちょうどいいのだ。

ああ
水気がたりない。
傘なんて買うんじゃなかった。


久々にテレビをつけてみたけれど、
つまらなくて消してしまった。
世間はオリンピックで大騒ぎをしている。
変なの。








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ああ
憧れのアドリア海とはほど遠い、
この真冬の真ん中で、
ピザやワインではなく
豆乳鍋と日本酒をたらふく呑み食いした。

東京。
チープなキラキラがあふれる大都会。
なにも不満はない。
ただ、
ここにないものに憧れているだけだ。

いつか絶対に行こう、と
あなたはわたしにそう言ったの。
ああ、
それって、
本当にそこへ行くことよりも、
なんて素敵なことなのかしら。

多言を弄してこの幸福を語っても、
彼や彼女にはわかりはしないだろう。
馬鹿になんてしてない。
違いすぎるというだけだよ。


恋のおわりは、
白い糸が音もなく途切れていくようだった。
本当にここにあったのかも、
もうわからないほど。

ごちそうさま、のない食卓みたい。
ぼんやりと食器を眺めるけれど、
何を夢中で食べたのか、
まるで思い出せやしないのだ。

温度や馨が所在なく浮遊して、
ときどき、記憶をかすめていく。
きみの形だったあの頃。

いったいどのあたりに隠してあるの。
わたしの体が書きとめた、
あのときめきは。


文字を食いつくした海馬が、
白い湯気の中で、
ぶざまに太って死んでいる。














近頃は、
細胞がなまぬるい水で満たされきっているから、
うまく言葉が生まれてこない。
穏やかな日々。
渇望したい。
なんて、
わがままなのわたし。
だって、
平凡で無名のわたしが、
エッセイなど書いても仕方がないではないか。

きみを惑わせて遊びたい。
自分勝手に。
ああ
いいとこだけリピートできたら素敵なのに。
ああ
なんという駄文。
きらめきのない言葉たち。
でも。
それでも何か書かずにはいられないの。



あなたが、
わたしのためにしてくれることは
いつだって優しい。

もしも一人で暮らしたら、
わたしはとても整然とした部屋の中で
快適に生活をするだろう。
それってとても孤独だ。
散らかった服や生活用品は、
あなたの存在そのもので、
ときどき、
これはわたしのすべてだと思う。

いいでしょ
老いて死ぬまで。
あなたに愛されるなんて、
わたしはとてもラッキーだ。


明日はお仕事なんて行かずに、
アドリア海を眺めながら、
ピザとワインをたらふく呑み食いしたい。
世界中を敵に回して、
馬鹿みたいに大笑いしたいのだ。








大好きな人にもらった、
ラベンダーとペパーミントが、
わたしたちの夜を穏やかにする。

唯一の癒しなんだって、
わたし。
なかなかの口説き文句だ。
かわいいなあ
うまいなあ。

わたしは毎日、
ぐっすりと眠る。
不安も不満もない、
ただの夜がある。
おかしな夢を山ほど見た、
その次の眠りに。


曇った朝に聴く夜の曲は
世界を美しく見せてくれる。
こんな野暮な朝でさえ、
夜露の幻のようなのだ。

ああ。
夜はわたしのもの。


ラベンダーの残り香を、
胸いっぱいに吸い込みたいの。
肌の上から。