ああ
憧れのアドリア海とはほど遠い、
この真冬の真ん中で、
ピザやワインではなく
豆乳鍋と日本酒をたらふく呑み食いした。
東京。
チープなキラキラがあふれる大都会。
なにも不満はない。
ただ、
ここにないものに憧れているだけだ。
いつか絶対に行こう、と
あなたはわたしにそう言ったの。
ああ、
それって、
本当にそこへ行くことよりも、
なんて素敵なことなのかしら。
多言を弄してこの幸福を語っても、
彼や彼女にはわかりはしないだろう。
馬鹿になんてしてない。
違いすぎるというだけだよ。
恋のおわりは、
白い糸が音もなく途切れていくようだった。
本当にここにあったのかも、
もうわからないほど。
ごちそうさま、のない食卓みたい。
ぼんやりと食器を眺めるけれど、
何を夢中で食べたのか、
まるで思い出せやしないのだ。
温度や馨が所在なく浮遊して、
ときどき、記憶をかすめていく。
きみの形だったあの頃。
いったいどのあたりに隠してあるの。
わたしの体が書きとめた、
あのときめきは。
文字を食いつくした海馬が、
白い湯気の中で、
ぶざまに太って死んでいる。
