ブックレビュー「島抜け」 吉村昭 | ネコのひとり言
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江戸時代の講釈師・瑞龍が種子島遠島刑に処せられますが、そこから脱出(島抜け)する過程と、本土に帰り着いたあとの逃亡生活を描いた物語。
 
彼の罪状は、演目の中で徳川家康と呼び捨てにしたことがご公儀を恐れぬ不届至極というもの。
 
舞台は大坂です。
 
遠島刑といえば八丈島だと思っていましたが、大坂奉行所分は薩摩諸島・五島・壱岐だったそうです。
 
また、罪人は刺青を彫られますが、これも大坂と江戸では異なっていたとのことです。
知りませんでした。
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種子島での囚人生活も描かれています。
丹念な取材に基づいて書かれているので間違いはないと思うのですが、実際こんな生活だったのでしょう。
 
それによれば、担当庄屋からの束縛や厳しい掟などはあるものの、それなりの住まいが与えられ、労働は比較的自由なときもあったようです。
 
一生をその島で過ごすという諦めがあれば、ある意味そう辛くなかったのかもしれません。
 
漂流シーンや逃亡シーンはいずれも吉村さんの”得意分野”だけあって、つい夢中で読んでしまいます。
★3.5
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他に中編2作品が収録。
 
「欠けた椀」★3
江戸時代のある百姓夫婦が飢饉を乗り越えるため、甲州から逃れる流浪物語。
欠けた椀が意味するものは・・?

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「梅の刺青」★3.5
明治初めの、人体解剖をめぐる西洋医学黎明期を描いたドキュメント小説。
 
人体解剖は極悪非道の行為として長い間禁じられてきたのが、刑死者を対象に1754年初めて行われたとのことです。
 
また明治になって初めて解剖された民間人は、不治の病(梅毒)にかかった遊女だったらしいです。
 
官民一体となった献体運動が奏功し、西洋医学を発展させたことは興味深い。