フォ〇ストで2016年4月からアップしておりました大宮さんの恋物語の過去作です。
全編サトシ語りです。
毎日20時更新予定です。
楽しんでいただけたら・・・どぞ・・・♡
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トレーニングルームの扉をあけると。
いつもの窓の近くにカズが座っていた。
俺はゆっくりと進み。
宇宙空間を見ているカズの。
隣に座った。
あれから。
驚くほどにイメージ通りにコトが進んだ。
船外に出た俺はすぐにジュンを見つけ。
その体をかかえ・・・あっという間にエアロックに戻った。
エアロック内で意識を取り戻したジュン。
意識をなくした事を悔やんでいて。
すぐにでも修理に戻る・・・と言ったけど。
ジュンの体調も心配だったから。
ブースターの修理は後日にすることにして。
とりあえず隕石群も無事に回避して。
今日が終わろうとしている。
医務室で二人・・・ショウのバイタルチェックを受け。
一足先に終わった俺は。
こうして急いでトレ-ニングルームにやってきた。
「カズ。」
「・・・。」
「戻ったよ。」
「お帰りなさい。」
「・・・ん・・・。」
静かに二人でいる。
さっきまで漂っていた宇宙空間が目の前に広がる。
ここから見ているほうが。
なぜか飲み込まれそうになる。
ゆっくりと・・・カズに近づく。
肩が触れるくらいの距離。
カズは逃げない。
「戻るの・・・早かったね。」
「見てた?」
「うん・・・モニターで。すぐにジュン君を見つけて・・・。」
「・・・。」
「あっという間に・・・エアロックに戻って・・・。」
「・・・。」
「無事でよかった。」
「・・・。」
俺を見もしないで。
外を見ながら言うカズ。
でも。
耳が・・・うっすらと赤くなっていて。
照れているって・・・わかった。
俺達。
もっと違う話・・・あるよね。
俺を失う事が怖い・・・と言ってくれた事とか。
あの・・・うるんだ瞳での。
無事に戻って・・・の言葉とか。
あの・・・シールド越しのキスの意味とか。
そういうの。
聞きたい。
なのに。
「久しぶりの船外活動だったから・・・。」
「うん・・・。」
「ちょっと緊張したけど・・・。」
「・・・。」
「無事に終わって・・・。」
「・・・。」
「ほっとしてる。」
「僕も・・・。」
「・・・ん・・・。」
全然違う会話。
本当に話したいことじゃない・・・のに。
なんだろう・・・この感覚。
心地いい。
いつまでも。
こんな風にして話していられるような。
話していたいような。
そんな気持ちになる。
もう。
何年もずっと付き合っているような。
お互いがお互いの心の中に入り込んでいるような。
わかりあっているような。
そんな・・・空気感を。
急に感じる。
多分。
変わったのは。
カズの・・・温度だ。
「マーくんね・・・ジュン君が助かって・・・嬉しくて泣いてた。」
「うん・・・そうだってね。」
「泣き虫だからって・・・ショウさんが言ってて・・・。」
「そうだな・・・泣き虫だな・・・。」
「もらい泣きしそうになっちゃった。」
「・・・。」
ふふ・・・と。
小さく笑うカズ。
俺に向けるその・・・笑顔が。
かわいくて。
かわいくてかわいくて。
たまらない。
何かを。
急ぎたいような。
このまま・・・ゆっくりしたいような。
ごちゃまぜの感覚になる。
「本当は。」
「・・・。」
「俺ちょっと・・・あせってたんだ。」
「・・・。」
「あの・・・宇宙服着てる時・・・。」
「・・・。」
「・・・でも・・・。」
「・・・。」
「来てくれたから・・・カズが・・・。」
「・・・。」
「だから。」
「・・・。」
「落ち着いてできた。」
じっと見つめる。
思いをこめて。
・・・。
・・・。
俺の思いは。
わかっているはずのカズ。
その瞳の奥の。
カズの思いを読み取ろうとしたけど。
カズは下を向いてしまった。
俺は少しだけ苦笑いをして。
そして。
窓ににじり寄り。
息で曇るガラスを見ながら。
つぶやくように・・・言葉を続けた。
「それにしても・・・。」
「・・・。」
「カズ・・・ずいぶんと・・・手際がいいね。」
「・・・。」
「宇宙服・・・あんなに上手く着せられるなんて・・・。」
「・・・。」
「ちょっとびっくり・・・」
「愛してる。」
「・・・ぇ・・・。」
ゆっくりとカズに体ごと振り向く俺。
そんな俺と・・・一瞬目をあわせると。
すぐに・・・すっと。
カズが俺の胸に寄りかかってきた。
ゆるりと・・・背に腕を回し。
きゅっと・・・俺を抱きしめる。
つづく