大宮さんの恋物語です。
毎日20時更新予定です。
ではでは・・・どぞ・・・。
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Side.N
セリフをかぶせた方がいいと判断してわざとやったことはある。
それだって。
ちゃんと相手のセリフは全部聞こえる前提で。
うまくやったつもり。
でも今回は違う。
抑えきれずに言葉が出てしまった。
無意識。
はぁ・・・と。
下を向いたまま大きく息を吐くと。
す・・・っと伸びてきた手・・・が。
僕の頬をなでた。
「大丈夫・・・?」
「・・・ぅん・・・。」
「セリフ。だからさっきのは。」
「・・・ん。」
おーのさんの優しい指。
あたたかい・・・。
何が原因で元気がないのか・・・がおーのさんにバレてること。
もう驚きもしない。
だってそれくらい一緒にいるから。
そばにいるから。
でも。
わかってるよ・・・と笑うこともできず。
知ってるし・・・と毒づくこともできず。
ん・・・とうなづくしかできないのが。
自分でも歯がゆくて。
あの・・・おーのさんのセリフが。
めちゃくちゃ自分を落ち込ませていることに驚く。
そっと見上げると。
おーのさんの心配そうな瞳。
でも力強くてきりっとした目。
・・・そう。
さっきのはただのセリフ。
セリフなんだ・・・って。
おーのさんの顔見たら。
そう思えて。
素直に言葉が出た。
「なんか・・・予想以上にダメージなんですけど・・・あのセリフ。」
「俺も。なんか後味悪いよ・・・。」
「言いたくないセリフだもんね。」
「そうだよ・・・ひどい男だよこれ。」
「ここ。ちゃんと演じないと。おーのさん悪者になっちゃう。僕がかわいそう過ぎて。」
「そうだよな・・・もう少し必死の方がいいかな。」
「別に軽く感じなかったけど・・・。」
「そう?」
客観的に話ができて。
少しずつ自分に戻って行く感覚。
ついさっきのショックは・・・少し薄れた気がして。
おーのさんに・・・ちょっと感謝する。
でもあいにく・・・その後。
監督のOKは出なくて。
やっぱりちょっと僕がセリフをかぶせちゃったところと。
あとは・・・おーのさんに対して。
もう少し悪びれず言って欲しい・・・というリクエストが出て。
結局・・・2回の撮り直しがあって。
そのたびにダメージをくらう僕がいた。
その後。
僕の代わりに恋人を演じてもらう何でも屋を雇う・・・というところまでの会話を撮影し。
今日の撮影は終了となった。
家に帰り。
交代でシャワーを浴びる。
シャワーを浴びているあいだも。
さっきのおーのさんが頭から離れなくてグルグルする。
台本で見た時はそうでもなかったのに。
おーのさんの声で・・・あの表情で言われたら。
本気で軽く傷ついた。
役には引きずられないはずなのに・・・。
はぁ・・・と一つため息をついて。
僕は・・・シャワーを出た。
夕飯は・・・ウー○ーイーツでも頼もうと思ったんだけど。
冷蔵庫にあるもので食べようってことになって。
二人でキッチンへ並んだ。
なんとなくの胃もたれ。
体が少し疲れている感覚。
今日の撮影で・・・ちょっと体に力が入ったからかな・・・なんて思って。
小さく。
ホントに・・・小さく深呼吸をしたら。
「いいよ。座ってて。」
「・・・え・・・。」
「俺一人でできるから。」
「大丈夫よ。僕もやるし。」
「ちょっと辛そうだよ?」
「・・・。」
「いいから。座ってて。ね。」
「・・・ありがと。」
あまりにも優しく言うから。
ソファへと座った。
撮影内容のわりには。
やっぱり体が疲れてる。
確かに重いシーンだったけど。
・・・。
・・・。
テレビ・・・つけようとして。
でも作ってくれているおーのさんに悪いから・・・とやっぱりやめて。
ふっと・・・息を吐いただけだと思ったのに。
気づけば僕は。
寝てしまっていた。
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つづく