大宮さんの恋物語です。
毎日20時更新予定です。
ではでは・・・どぞ・・・。
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Side.N
本番いきまーす!
大きな声で我に返る。
撮影に集中する。
時々・・・飲み物を飲んで欲しい・・・と言う監督の要望にお応えし。
僕は・・・おーのさんがセリフをしゃべり始めたら飲もうと。
ジョッキを持った。
よーい・・・の時に。
一瞬だけ軽く咳ばらいをし・・・そして本番がスタートした。
セリフは僕から。
「ねぇ。ちょっと見てほしいものがあるの。」
「・・・ん。その前に。ちょっと・・・いい?」
「・・・ぅん。どうしたの?」
「あのさ。その・・・ばあちゃんに。会って欲しいんだ。」
「おばあちゃん?」
「そう。まだ入院してるんだけど。ぁ・・・来月退院なんだけどさ。」
「・・・ぅん。」
「俺の恋人に会いたいんだって。」
「・・・そう・・・ぁ。じゃあちょうどいいかも。」
「え?」
僕は・・少しだけ嬉しそうにしながら。
鞄から・・・あの「同性婚にお勧めの教会の10選」のチラシを取り出した。
おばあちゃんが会いたいと言ってくれるなら。
式を挙げて参列してもらえばいい。
僕には。
互いの家族にカミングアウトしてもいい・・・という思いがある。
けど。
おーのさんにはまだ見せず持ったままだ。
だっておーのさんの話はまだ終わってないから。
「ううん・・・なんでもない・・・///つづけて?」
「ぅん。なるべく早い方がいいって言われて。」
「・・・ぅん///。」
「だから。」
「・・・うん///。」
「女装。してほしいんだ。」
「・・・え。」
「女装。」
「・・・。」
ありのままの僕を。
受け入れてもらえないのか・・・と。
ショックを受ける場面なんだけど。
演技じゃなくて。
リアルでダメージを受ける僕。
目の奥が・・・ぐっと熱くなり。
気を許したら。
泣いてしまいそうなくらいショックを受けた。
だっておーのさんが。
僕の目をまっすぐに見て言うから。
なんか・・・演技に思えなくて。
本当に。
そんなこと言われたような気になって。
本当に。
おーのさんがそんな風に思ってるような気がして。
ひどいって思って。
自分の存在が否定されたように感じて・・・泣きそうになる。
ぁ。
チラシ。
存在をリアルに忘れていたチラシ。
手に持っていたソレを。
僕は・・・くしゃ・・・っとすると鞄に乱暴に突っ込んだ。
演技・・・のはずなのに軽く手が震える。
あまりのショック。
どうしてこれほどのショックを受けるのかわからないくらいショックで。
・・・。
・・・。
ぁ。
セリフ。
僕だった。
「い・・・やだ。」
「・・・え?」
「いやよ。女装なんて。できないって。」
「・・・。」
「って言うかばれるよすぐに。男か女かなんて。すぐばれるって。」
「そんなことない。きっとうまくいくよ。ばあちゃん目が悪いから・・・」
「女装だけじゃないでしょ?僕がするのは。女性のフリするんでしょ?無理よ。できない。」
「・・・そっか・・・そうだよな・・・。」
困った顔して。
髪をくしゃ・・・とするおーのさん。
僕は。
口がとがったまま。
ちょっと・・・怒った表情。
しばらくの・・・無言の間を経て。
監督のOK!の声が響いた。
僕は。
ちょっと感情的になってしまって。
おーのさんのセリフにかぶせてしまった部分があって。
そんな自分に驚く。
って言うか。
感情のコントロールがうまくできず。
あまりのショックに・・・おーのさんのことが見れず下を向いてしまって。
顔をあげられない。
監督のチェックは続いている。
多分OKは出ない。
だって僕・・・おーのさんのセリフにかぶせてしまったから。
ああ・・・大失態。
こんなこと今までなかったのに。
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つづく