大宮さんBL前提のお話です。
苦手な方はご注意を///。
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Side.N
ソファに浅く腰掛けて。
その膝に肘を乗せ手を組み。
少し前屈みになった大野先生は。
一点を見つめたままじっとしている。
テレビ・・・は点いているけど。
多分見ていない。
眼の前に置いてあるウイスキーのロックグラスは。
一口も飲まれないまま汗をかいていて。
テーブルに水のふくらみを作り始めている。
風呂上がりの僕。
僕がお風呂から入ってから出るまでほぼほぼ動いていない大野先生。
僕は・・・肩にかけたタオルで髪の毛を拭きながら。
冷蔵庫から水を出してコップにつぎ。
大野先生の隣・・・ソファへと座った。
二人とも日勤だった今日。
夕飯を駅前の定食屋で軽く済ませて。
僕は・・・明日櫻井先生の脳外科の手術があるから。
だから・・・早めに寝ようと思っているんだけど。
思ってはいるんだけど・・・でも。
こんな大野先生を置いたままでは。
寝室へ行く気にはなれなかった。
大野先生が静かな理由。
それは・・・今日運ばれてきた患者さんのことが。
ひっかかっているから。
そうに違いない。
僕は。
今日・・・勤務終了間際に運ばれてきたある患者さんの事を思い出していた。
すでに昏睡状態のその患者さんは。
どう見ても・・・その。
一般の会社員とかには見えなくて。
着ているものは薄汚れていて。
ひげもぼうぼう。
顔も手も黒ずんでいて。
靴は・・・左右で違っていた。
付き添って来た警察官の人が言う。
この人は路上生活者だ・・・と。
つまりは・・・ホームレス。
警察署の敷地内・・・裏手の駐輪所に倒れていたらしい。
外傷はなくて。
大野先生が診てくれて。
すぐにその診断は下された。
病状は・・・一刻を争うほどの命にかかわる状態で。
本当ならすぐにでも手術が必要なんだけど。
イロイロと診察した結果。
かなり衰弱していて。
栄養も全然足りてなくて。
この人の体力が手術には耐えられない・・・との判断が下り。
もう・・・見るからにも手遅れで。
つまりは。
応急処置しかできず。
そのまま。
・・・。
・・・。
そのまま・・・一般病棟の個室へと移す事しかできなかった。
今夜が山場。
そう・・・大野先生が診断した。
「身内の方への連絡は?」
「それが・・・身元を証明するものを何も持っていなくて・・・。」
大野先生と警察官が話をしている。
たまにこうして運ばれてくるホームレスの人。
僕がこの病院に来てからは多分数えるくらいしかない。
意外に少ないのは。
こういう人達は保険証とか持っていなくて。
だから体調が悪くなっても病院には来れなくて。
具合が悪くなってもそのままにしてしまって。
それである日・・・人知れず亡くなっている・・・なんて事が多いからだ。
今回のように救急車で運ばれてくるのは。
公的な病院ならまだしも。
ここの病院ではわりとめずらしくて。
多分大野先生は・・・ここでは初めての事だと思う。
先生と警察官の話はまだ続く。
「あのへんのホームレスの間では源さんと呼ばれていて・・・。」
「源さん・・・。」
「東北の方の出身だってことはわかっているんですけど。」
「・・・。」
「それ以外はちょっと・・・。」
「ホントに何も持っていなんですか?」
「写真が一枚ありましたけど・・・これではねぇ・・・。」
そう言いながら見せてもらった写真。
スナップ写真が1枚。
それは。
幼稚園の入学式なのか・・・桜の花が咲く川岸で。
お父さんとお母さんと女の子。
三人がにこやかに写っている写真だった。
察するに多分この人が・・・このホームレスの人が。
父親なんだと思う。
あちこちくしゃくしゃになっているその写真。
持っているのがこれだけなんて。
.
つづく