映画「Is this thing on?」(邦題「これって生きてる?」)を観た。
https://www.searchlightpictures.jp/movies/isthisthingon
大抵の邦題は、頓珍漢なことが多いが、本作品の邦題は優秀だと思う。原題の「Is this thing on?」の「on」は、文字通りオンまたはオフのオンであり、日本語の日常会話なら「これって電源入ってる?」くらいの意味なのだが、それを「生きてる?」と表現することで人間が生きている実感の比喩として捉えた邦題である。優れた邦題に出会うのも、映画の楽しみ方のひとつだと思う。
人間関係を壊すものは、損得勘定と独善と、くだらないプライドである。詩人の中原中也は、そのあたりの人々の心を次のように表現している。
さてどうすれば利するだらうか、とか
どうすれば哂(わら)はれないですむだらうか、とかと
要するに人を相手の思惑に
明けくれすぐす、世の人々よ、
損得勘定と独善とプライド。この三つから自分を解放することができれば、人間関係で悩むことはない。日本ではそもそも、損得勘定に執着したり、他人に独善を押し付けたり、うわべを飾ることは、卑しい心だとして否定されてきた。対して、重んじられてきたのは感謝と思いやりの心である。
しかしアメリカ映画である本作品では、登場人物のそれぞれが自分の損得と独善とプライドを真っ向から主張しあって、互いに譲らない。しかしその全体を客観的に眺めて、笑い飛ばしてしまえば、自分たちの馬鹿らしさに気づく。
ところが、それでも損得勘定と独善とプライドを捨て去ることはしない。そこら辺がアメリカ人らしいと言える。ドナルド・トランプの愚かさに通じるものがある。つまり永遠に悟ることがないのだ。
悟ることがないのは他の国の人々も同様で、中原中也が嘆いてみせたように、日本人も損得と独善とプライドに囚われている。感謝と思いやりを発揮するのは外面(そとづら)だけだ。外面を取り繕うのが上手な日本社会は、外国人から見ると整然として穏やかに思えるだろう。しかし日本人の本心は、高市早苗のような独善とプライド以外に中身のない人間を総理大臣にしてしまうほど、思いやりに欠けている。
アメリカと日本の事例を敷衍すれば、世界全体として優しさや寛容や思いやりが欠如しているわけで、ブラッドリー・クーパーがコメディとして描いてみせたのは、人類のどうしようもない愚かさなのだろう。
アメリカで不評だったのは、自分たちの愚かさが炙り出されてしまったからに違いない。そこを笑って受け止めることができるほど、アメリカの社会は成熟していないということだ。だからトランプが選ばれる。しかし幼稚園児に核兵器を持たせてはいけない。