【BL小説】room number 213 ビリー・クリフォードside 36 | 一期一会

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本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

<ビリー・クリフォードside>



36




上司である土屋さんから渡米行きの出張を言い渡されるのは、これが初めてだ。
ル-クと同居するようになってから、2週間も家を空けることは初めてで、それだけでも心配だったし、自分の研究がアメリカ本社でどう判断されるのか心配だった。
「兄さん、行ってらっしゃい」
ルークは空港まで見送ると聞かなかったが、それはオレから断った。
気持ちは嬉しいが、たかだか仕事の出張ぐらいでという気持ちもあったし、アイツもそれなりに大学院と、頼まれて入ったというゼミの研究で忙しい毎日を送っているのを知っていたからだ。
「ああ。さっさと終わらせて帰ってくるからな。土産を楽しみにしてろよ」
「お土産なんていらないよ。ボクは兄さんが無事に帰って来てくれたらそれでいい」
ルークは健気に言うと、真面目な顔をした。
まったく……ルークらしい。
あいつはいつもそうだ。本当に欲しいものはなかなか自分からは言わないのだ。
オレが弟と恋人の関係になった時もそうだった。もう遠い昔のことだけれど。
「じゃあ行ってくる」
オレは元気に家を出た。

心配していた研究も、格別問題はなく、順調に進んだ。
オレはルークが寂しがらないようにと、毎日国際電話をした。やっと明日日本へ帰れる。そう思うと、胸が逸る。
今夜はニューヨーク最後の夜だ。
たまには外で食事でもするかと、滞在していたホテルの部屋を出ようとした時だった。
どこからともなく聞いた記憶のある曲が廊下に流れてくる。歌詞は英語だったけれど、生ギターに乗せられて聞こえてくる曲は、オレが一番好きな曲だった。
これは……!
オレは急いで音の聞こえる方へ脚を向ける。
行くと同じフロアの一番端の部屋からのようだった。部屋の前までくると部屋のドアが薄く開いていて、そこから聞こえてくるようだった。
耳をすますと聞き覚えのある声だ。
「もしかして……ルカ?」
気がつくと、オレは勝手に部屋のドアを開けていた。
「ルカ!」
「ビリーさん?」
ルカはベッドに腰掛け、アコースティックギターを片手に唄っていたところだった。
「ほんとに……ルカなのか?」
久しぶりに見るルカの顔だった。少し痩せたかもしれない。髪も伸びて、特に後ろ髪がシャツにつくぐらいになっていて、それが会わなかった時間の月日を物語っているようだった。
「ビリーさん、どうしてここに?」
蒼い瞳を見開いて、呆然とオレを見るルカの顔を見ると、オレはゆっくりと抱きついた。
「ルカ!」
ルカは片手にアコースティックギターを持ったまま、空いた手でオレの背中に腕を回す。暖かい。
オレは以前、帰宅の遅いルークを心配して、ルカと駅まで迎えにいったあの時、倒れようとして抱きかかえられた時のことを一瞬思い出した。
3ヶ月以上前のことなのに。力強くオレに回された腕は、あの頃とちっとも変わらなかった。
「まさかボクを探してここに?」
「いいや、オレは仕事の出張でここにきたんだ。ここのホテルに滞在していて、廊下に出てみると、聞き覚えのある声と曲が聞こえてきたから。……明日、日本に帰るんだ」
「そうですか……」
ルカはあからさまに残念そうな顔をした。
「それより、今までどこにいたんだ? なんで黙ってあそこを出て行った?」
間近に見るルカの顔は、やっぱりルークとそっくりだった。
たぶん……出て行った原因はオレだ。
ルカは困った顔をしていたけれど、オレはどうしても聞きたかった。
薄々はわかっていたけれど、どうしてもルカの口から聞きたい。
「まさかこんなところで逢うとは思いませんでした。もう二度と貴方と逢うことはないと思っていたのに」
ルカは自嘲気味に呟くと、側にあったチェアに腰掛けるようオレを促す。
ルカも側にあったベッドに腰掛けると、諦めたように、ゆっくりと口を開いた。



to be  continued……