【BL小説】room number213 ビリー・クリフォードside 37 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

<ビリー・クリフォードside>



37


「ニューヨークへは、レコーディングに来たんです」
「レコーディング?」
「ええ。僕が残していったあの曲の歌入れで」
「って……事は……」
オレは予想しないルカの言葉に、心底驚いた。だがあの曲と言われ、ピンと来るモノがあった。
もしかして。と直感が働くが、黙ってルカの言葉を待った。
「ちょうど僕がマンションを出た後、しばらく知り合いのミュージシャン仲間のアパートへ転がり込んで居候をしている時でした。スタジオミュージシャンのメンバーが足りなくて、助っ人としてギター演奏をやったら、ギターの腕をプロデューサーに認められて。何か歌は歌えるのか? と聞かれて……あの曲を歌ったんです。するとCDを出してみないかとレコード会社の方を紹介されてそのまま……」
「凄いじゃないか!」
やっぱり。と思う。音楽のことはよくわからないけれど、オレもルカの作ってくれたあの曲は大好きだ。移動時間には、いつも聞いている。
「じゃあ、デビューするのか?」
「ええ。まあ。とりあえず、予定では来月CD発売まではこぎ着けたのですが、CDが売れるかどうかわからないし……」
ルカは自信なさげに俯いた。アメリカまでレコーディングに来ているというのは、プロデューサーも力が入っていると見える。オレはルカに自信を持って欲しくて、前のめりで語った。
「オレは音楽のことはわからないけれど、あの曲は大好きだぞ?」
「え? 本当ですか?」
「ああ。あれからいつも聞いている……お前の事を思い出しながら――」
「ビリーさん……」
ルカは嬉しそうにオレの名前を呟いた。
「一つ聞いていいか?」
「はい?」
「なんであのマンションを黙って出た? なんで行き場所を知らせなかった?」
「それは……」
ルカはオレから視線を外すと、口をつぐむ。話したくない態で、視線を外した。
「……オレが原因なのか?」
ルカは何も言わなかった。
なんとなくルカが黙っている理由はわかっていた。けれど、オレから黙って出て行ったことがとても自分の中に引っかかっていて、少しコイツを困らせたいという気になっていたのかもしれない。
オレはルカの瞳を真っ直ぐ見つめると、静かに言った。
「オレは謝らないぞ。逃げるなよ」
「逃げる? 逃げてるわけじゃない。ただ…」
「ただ?」
「ただ……僕はビリーさんを苦しめたくないだけ。僕は貴方が幸せならそれでいい」
オレはルカの言葉に、無性に腹がたった。何が苦しめたくないだ? 何が幸せだ? そんなの一緒にいるわけでもないのに、ルカが解るわけないじゃないか!
「幸せ? それはお前の勝手な言い分だろ! 行き先も言わず、どれだけオレが心配したと思っているんだ……!」
「心配かけたのは謝ります。ごめんなさい」
「謝ればいいってモンじゃないだろ?お前にとってオレはなんだったんだ?ただの同居人でしかなくても、ちゃんとわかるように説明してくれよ!」
オレは興奮していた。気がつくと、イスから立ち上がり、両手が白くなるほど手を握りしめていた。

ただ……悔しかった。
なんでだろう。
黙って部屋を出て行かれたことが?
オレはルカにとって特別な存在かもしれないと、意識していたのに。
無視されたことが?
オレを苦しめたくないだけと言われて、体裁よくあしらわれて。
ルカにとってオレはそれだけの人間でしかないのかと思うと、余計に悔しさがこみ上げてくる。
いつの間にか自分の意思とは関係なしに、ぽたり、ぽたりと涙が頬を伝い、絨毯敷きの床に小さく染みをつくった。
「泣かないで……ビリーさん」
ふと名前を呼ばれて顔を上げると、オレをいとおしむように抱き留めるルカの腕が背中に廻っていた。
「僕だって辛いんです。出来ればあのままずっと三人で一緒に暮らしていたかった……。でも、もうそれは無理なんです」
「無理?」
「だって僕は……」
気がつくとルカの柔らかい唇が、オレの唇に重なっていた。
それはほんの数秒、重ね合わせただけのキスだった。けれど、ハイデリヒの気持ちを伺い知るのには十分だった。
「……好きなんです。貴方のことが」
気がつくとオレはそのままベッドに押し倒されていた。




to be  continued……