第四章
5
部屋に戻ったアルフォンスは、オスカーに先程の話をした。
オスカーは話を聞くとしばらくの間、顔を歪ませて黙っていた。
「どうして黙っていたの? そしてこのまま黙っているつもり?」
アルフォンスは犯人の糸口を見つけたとばかり、オスカーに報告したが、文句を言うわけでもなく、じっとアルフォンスの話に耳を傾けている。
我慢しているのか。それとも、年上ばかりの学生のイジメが怖いのか。
アルフォンスは、オスカーが無言でいる理由を考えてみたが、解らなかった。暴言の一つでも行ってくれれば、少しは楽になるのに。と、アルフォンスは思っていたが、オスカーは頑なに何も言わない。だんまりを続けるオスカーに、アルフォンスは静かに言葉を繋げた。
「ボクじゃ頼りにならないかな。貴方の支えにならない?」
アルフォンスは怪我をしたオスカーの手に自分の手を重ね、じっと返事を待った。
オスカーはゆっくりと双眸を閉じた。
何か思い詰めているのはよくわかる。オスカーのことだ。何か理由があるはずだ。
アルフォンスは重ねた手に力を込めると、オスカーは目を閉じたまま、ゆっくりと声を絞り出した。
「ごめん。今まで話さなくて悪かった。お前の事が当てにならないとか、支えにならないとかは全然思ってない。もし、オレが名前を上げたとしたら、お前はヤツに黙っているとは思えなかったし、お前までイジメにあう事になったらと考えると、話せなかったんだ」
やっぱり。
一緒に過ごすこすことが多くなってわかったことだが、オスカーは、いつでも自分よりアルフォンスを優先してくれる。理由はわからないけれど、アルフォンスが困ることがあるより、自分が痛みを感じることを選ぶ人なのだ。
「そんな事、心配しなくてもいいのに」
アルフォンスは、オスカーの気持ちが聞けて、心底嬉しかった。
今まで何度尋ねても、火傷の犯人や、イジメを我慢している理由を教えてくれなかった。気持ちを吐露してしてくれるくらいには、アルフォンスを信頼してくれているということだ。
少なからず、オスカーとの距離が少し縮まった気がして、アルフォンスは嬉しかった。
一つ吐き出してしまえば、楽になったのだろう。オスカーは、決心したようにアルフォンスに向き合った。
「アルフォンス。家族になってくれるっていったよな?」
「うん。言った。覚えているよ」
「図々しいことは、百も承知だ。これから辛い事があったら、お前にだけは全部話す。だから……家族にしてくれるか? 支えてくれるか?」
オスカーははっきり言うと、アルフォンスは即答した。
「もちろん」
「そのかわり、お前も何かあったら話せよ」
「わかった」
アルフォンスが大きく頷くと、オスカーは急にほっとした顔つきになった。慌てて顔を背けたが、きらりと頬を光るものを、アルフォンスは見逃さなかった。
アルフォンスは背けたオスカーの頬を伝う涙を、指でそっと触れた。触れた手が、ゆっくりと頬をなでる。
それはとても自然だった。
母親が子供にするように。
子供が母親にねだるように。
そっと触れるだけのキス。
唇がふれたとたん、二人ともすぐに離れた。心臓がどきどきしたが、これはただのハグだからと言い聞かせる。
「えへへ」
「なんだよ」
お互い、照れくさいのか、苦笑いになった。
「オスカーはボクより一つ年上だから、兄さんだね」
「そうだな」
「案外泣き虫な兄さんも可愛いよ」
「こら! 年上のオレを捕まえて、泣き虫言うな!」
すぐにいつも調子にもどったオスカーを見て、アルフォンスは少し安心したと同時に、決意をした。
『ボクはこの人を支える家族になりたい』
口には出さなかったが、心からそう思った。
to be continued……