「瞳をとじて」
もういいかい?
まあだだよ
もういいかい?
まあだだよ
いつまでこの暗闇は続くのだろう。
子供の頃から鬼ごっこをするのでも関係がなかった。
目を開けても瞑ってみても
幼い時から続く暗闇は終わる事を知らない。
永遠に続く闇。
一度も闇以外を映したことのない瞳。
でも僕はちゃんと貴方の顔がわかるよ。
貴方の心が見えるよ。
瞳をとじても
貴方の事を感じる事ができるから。
この物語はフィクションです。全盲についての描写がありますが、けして偏見があるわけではありません。施設や団体は全て架空のものです。
プロローグ
うるさいくらい、やかましい蝉の鳴き声が聞こえてくる。何をあんなにわめいているのだろう。生きていても、せいぜい一週間の命しかないのに。
けれど、一週間でもいい。思い切り見たい風景を見て、太陽の光を感じて、愛しい人の顔を見る事ができるのなら。そちらのほうがずっと幸せなのかもしれない。
僕はあと何年、いや、何十年、この闇に包まれた世界で生きなければならないだろう。おそらく死ぬまでずっとこの暗闇に閉ざされた世界で生きていく事になる。最近考えるのはこの事ばかりだ。
北川カヲルは、窓を開けてぼんやりと、終わることのない自問自答を繰り返していた。
もうすぐ夏も終わる。
暑くてまぶしい夏の日差しさえも、カヲルの瞳には届くことがない。感じるのは暑い太陽の暖かさと、時折吹く涼しい風ぐらいだ。
ここはいい。静かだ。街の喧噪も、車の騒音もそう聞こえない。
だが、もうすぐここを出て行かねばならなくなる。ここには二十歳までしか居ることができないからだ。
北川カヲルは今から十九年前、北川家の長男としてこの世に生を受けた。
母親譲りの透けるような白い肌に、やわらかい髪。父親譲りの美しい瞳。両親は自分達にそっくりな一部をもった、玉のような赤ん坊の誕生を心から喜んだ。
しかし、生まれてしばらくたっても、その美しい黒い瞳に何も映す事はなかった。生まれて一週間もすると、赤ん坊でも原色の派手な色ならば、反応して目で追う事ができる。
けれどカヲルは、目の前で手をかざしても、おもちゃを目の前で見せても、一度も反応したことがなく、瞳は開いているのに何も眼で追う事がなかった。
両親はそれに気づくと、いろんな病院をまわり、医者に助けを求めた。だが、無情にもカヲルの瞳は、色の識別はおろか、生まれた時から光を感じる事はできなかった。
どんなに検査をしても、どんなに治療を受けても、カヲルの瞳には闇しか映らない。これを治すには、眼球の移植しか他に方法はないと医者に告げられた両親は、最初はあんなにかわいがっていた息子への愛情も、次第に薄れていく一方だった。
to be continued……