『米国・中国・日本の国勢 2024』
第4回
<工業②(半導体)>
新型コロナ禍で2年以上続いた市場の活況から一転、2022年半ばごろを境に、需要にブレーキがかかった世界の半導体市場。2023年前半も、悪化する市況に回復の兆しが見えない状況が続いた。世界の主要半導体メーカー各社はグローバル市場の急激な変化に対応すべく、在庫調整・削減の取り組みを優先して、製造装置や素材などの周辺企業も深刻な受注減に直面した。
しかしながら、2024年以降については、幅広い製品群での需要回復からプラス成長に転じた。実際、半導体の毎月ウェハー(WPM)の生産能力が2023年に5.5%増加して2,960万枚に達し、2024年には6.4%増加して月間3,000万枚を初めて超えた。国家と経済の安全保障における半導体製造の戦略的重要性に対する世界的な注目の高まりが、このようなトレンドの重要なきっかけとなっている。半導体を制するものは世界を制する。半導体前工程における新規製造工場建設の見通しでは、2023年は半導体市況の悪化にもかかわらず、新たなファブ(半導体生産工場)の建設プロジェクトが牽引し、2023年の建設投資額は過去最高額を更新。2024年もさらに成長が続くとされている。世界全体で新規製造工場29件の着工を含む全97件の建設プロジェクトが進行し、関連する投資額として前年比6%増の306億ドルが支出され、2024年には新規製造工場6件の着工を含む計83件のプロジェクトに対して、同21%増の371億ドルの支出が見込まれている。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、半導体市況が悪化する中で、工場建設プロジェクトへの投資が拡大する背景には、近年、米国や中国、台湾、韓国、日本などの主要国・地域政府が、大規模補助金拠出を伴う半導体産業の奨励策を導入していることがある。この取り組みは今後も継続する可能性が高い。
ファブ(半導体生産工場)のウェハ生産能力は2026年までに年平均7.1%で成長すると予測されており、2024年は比較的緩やかな成長となるものの、2025年と2026年は新規生産能力が大きく伸びることが見込まれている。2023年末時点の生産能力は韓国が22.2%、台湾が22.0%、中国が19.1%、日本が13.4%、米国が11.2%、欧州が4.8%であったという。また今後の見通しとしては、中国が徐々にシェアを伸ばしており2026年には国・地域別で最大シェアを獲得するという予測もある。
そんな中で、米国政府が半導体の輸出管理や投資に関わる規則「CHIPSおよび科学法」(CHIPSプラス法)が2022年8月に成立した。この法案は、世界全体で半導体関連産業の投資・輸出戦略、サプライチェーンに少なからず影響を及ぼした。対中国への経済安全保障けの懸念から半導体関連の輸出をねらってものだ。
国内的には、半導体製造能力強化のための527億ドル規模の予算措置の適用を見据え、インテル、TSMC、サムスン電子をはじめとする主要半導体メーカーが数百億ドル規模の新工場建設計画をすでに発表している。こうした事情から、2023~2024年の工場建設プロジェクト関連投資額では、米国が最大の受け入れ国となることが見込まれている。
●<米国の半導体産業>
米国は2024年に6つのファブ(半導体生産工場)を新設し、チップ生産能力を前年比6%増の310万wpmとなる。米国半導体工業会(SIA)の調査によると、米国の半導体産業支援策「CHIPS法」制定後の2022~2032年までの10年間で、米国内の半導体製造能力が203%増加する見込みだという。
同期間中のこの増加率は米国が世界最大になるとみられる。さらに、2024年5月、世界の半導体サプライチェーンについての新しい報告書によると、米国のCHIPS法制定後の2022~2032年までの10年間で、米国内の半導体製造能力が203%増加する見込みだという。自国の半導体産業を強化する施策は世界各国で進められているが、同期間中のこの増加率は米国が世界最大になるとみられる。
世界の半導体製造能力に占める米国の割合は、2022年時点で10%で、2032年には14%へと増加する見込みだ。米国の半導体製造シェアは数十年間縮小を続けていたが、この期間に拡大に転じることになる。「CHIPS法」制定以前の10年間(2012~2022年)、米国の半導体製造能力の増加率はわずか11%だった。10nm以下の先端ロジック製造のシェアについても、2022年時点では0%だったが、2032年には推定で28%に拡大した。
2024年~2032年にかけての世界の設備投資総額は、台湾が全体の31%を占め、米国が28%で続くという。米国ではCHIPS法の枠組みで半導体製造への補助金として390億米ドルを用意し、さらに先端製造投資への税額控除も設けた。中国も政府系半導体投資ファンドの第3フェーズを開始した。これに合わせ、企業は既存地域/新規地域の両方で大規模な投資を行ってきた。2013~2022年の世界の設備投資は7,200億米ドルだったのに対し、2024~2032年には2兆3,000億米ドルの設備投資が行われる見込みだ。
一方で、産業政策によってサプライチェーンリスクの増大につながる新たな課題が生まれる可能性が懸念されている。補助金や大規模な支援策が市場原理に基づかない投資を促進し、生産基盤の過集中や供給過剰をもたらせば、半導体サプライチェーンがリスクにさらされることになる。政府の補助金について「きちんと対象を定め、分散して、かつ市場原理に基づいた形で行われるべきだ」という意見も出ている。
日本については、2023年の13.4%から2026年には12.9%へとシェアを落とすと予測されている。2022年の半導体企業の売上高ランキングベスト10には日本企業は1社も入っていない。
経済産業省の予想によれば、2030年には我が国の半導体生産はほぼゼロになるとみられている。絶滅危惧の日本の半導体である。
半導体の国別競争力には2つのシェアがあり、
<出荷>の国別シェアでは、米国51%、韓国18%、日本10%、欧州10%、台湾6%、中国5%となっている。
生産能力>の国別シェアでは韓国23%、台湾21%、中国16%、日本15%、米国11%、欧州5%、その他9%となっている(2022年)。
また、2022年の統計では、企業別規模では、ベスト10に日本企業は一社も入っていない。
2024年、日本は世界的な半導体不足の解消に向けて、国内各地で半導体工場の新設・増設が相次ぎ、「工場ラッシュ」とも呼べる状況が生まれている。
これまで、日本は家電や自動車産業で世界をリードしてきたが、その心臓部ともいえる半導体の製造においては、海外に後れをとってきた。しかし、近年の米中対立やコロナ禍によるサプライチェーンの混乱などを背景に、各国が経済安全保障の観点から半導体の国内生産体制の強化を急ぐようになり、日本もその波に乗り遅れまいと、政府を挙げて半導体産業の再興に力を注いでいる。その象徴とも言えるのが、台湾の半導体受託製造世界最大手であるTSMCが、熊本県に建設している工場だ。総工費は約1兆円で、2024年末までの稼働開始を予定だ。さらに、国内外から様々な半導体関連企業の進出が日本各地に相次いでいる。
日本政府も、この動きを後押ししようと、資金面だけでなく、規制緩和や人材育成など、様々な角度から支援策を打ち出している。TSMCの工場誘致に対しては、総額4,760億円という巨額の補助金を決定したほか、国内企業による半導体工場の新設や増設に対しても、積極的に財政支援を行っている。
しかし、課題も山積している。
●日本は半導体の工場数は世界1位だが、微細化技術の面では陳腐化している。ロジック半導体で、日本の回路微細化は40ナノメートルで止まっている。一方、台湾TSMCは5ナノメートルまで進んでいる。
●半導体メモリー工場の運営コストは、日本は高い。中国や韓国と比べて日本では2~4割高い。政府からの補助金や優遇政策が潤沢で、電気代や土地代、人件費も日本などに比べて安価なためだ。
●いかにして量産を成功させるかだけでなく、供給先の確保も課題だ。
●日米欧が重視しているのはロジック(演算用)と呼ばれる半導体だ。最新のスマートフォンからスーパーコンピューターまで、ロジック半導体は「頭脳」の役割を果たす。ただ、先端製品をつくる技術を持つのは、台湾積体電路製造(TSMC)など一部のプレーヤーに限られている。
●半導体製造には、高度な技術や知識を持った人材が不可欠だが、日本では長年、理系離れや若者の製造業離れが進み、人材不足が深刻化している。
●半導体産業は、技術革新のスピードが非常に速いという特徴がある。日本企業が世界市場で競争力を維持していくためには、常に最新の技術を開発し続ける必要がある。
また、多額の投資に対し様々なリスクも懸念されている。過大な世界的増産の結果、将来の過剰生産につながることも否定できない。また、すべての工場建設が計画どおり進む保証はない。既に、宮城県大塔村に建設予定の台湾PSMCは、今年9月突如、白紙撤回を表明した。
●<中国の半導体産業>
2023年に発売されたファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」には、中国企業の中芯国際集成電路製造(SMIC)の開発した業界最先端のプロセッサーが搭載され、その技術力の高さが世界の注目を集めた。中国は、半導体技術をはじめとして、EV技術・風力発電などの最先端科学の技術力を高めることで、世界での影響力を強めている。昨今、半導体事業で存在感を高めている中国に対して、米国政府は、最先端半導体の軍事利用の危険性を恐れて2022年から半導体の輸出規制「CHIPS法」を行い、米中対立が高まっている。
米国による経済的規制により、半導体材料や半導体製造装置などの輸入が難しくなり、中国の半導体事業者は苦境に立たされているが、それが逆に中国政府による半導体事業への積極投資につながっていることで、国産化が進む契機になり得ている。
中国政府は、2015年7月発表の「中国製造2025」の内容を踏まえて、半導体の自給率を2020年に49%、2030年に75%に引き上げる計画を策定した。2014年秋に設立された「国家集積回路産業投資基金」は、半導体産業への大規模な投資を行なった。その結果、中国メーカーの半導体製造装置の生産・技術力の向上が国産化率を押し上げ、2022年には国産化率が35.0%(前年比+14%)に達している。このような国家的な半導体事業推進によって、半導体製造装置など一部においては国産メーカーのシェアが拡大がされているものの、集積回路においては、2023年時点で輸入量が輸出量の2倍に近い水準となっており、いまだ半導体の供給を輸入に頼っている状況がうかがえる。
さらに、2021年時点では、2021年時点での集積回路自給率は16.7%にとどまり、外資系企業を除いた中国メーカーのみの自給率に至っては6.6%と、目標値から大きく逸脱して未達となった。目標未達の要因としては、著しく速い半導体需要の増加速度に対して、国内メーカーの技術面など、供給の成長速度が追い付いていないことが挙げられる。
中国における工場建設プロジェクトは、2022~2024年の3年間で合計20件の案件が報告されているが、うち19件は中国地場企業による投資案件である。外国企業が中国で新規半導体工場建設を躊躇する大きな要因の1つとして考えられるのが、2022年10月に米国商務省が中国を念頭に公布・施行した半導体関連製品の輸出管理規則(EAR)強化措置である。さらに、米国は日本・オランダ・ドイツ・韓国を含む同盟国に対しても規制への同調を求めた。中国向けの先端半導体製品や半導体製造装置の輸出を厳格に制限する同措置の運用開始に伴い、海外の半導体製造装置関連企業は対中輸出戦略の見直しを迫られている。米国での新規工場建設向け投資額が増加するのとは対照的に、中国向けのFDI(海外直接投資)は2023年から減少に転じた。
米国の対中半導体規制によって中国企業に対する先端プロセスの開発と導入を抑制しようとしているが、中国は先端品が作れないことになるのであれば、旧型のレガシープロセスの28nm~45nmで勝負をかけて、こうしたレガシー半導体で世界シェア50%以上を獲る方向にある。今後数年間でウェハ生産能力を伸ばし続けると予想されており、結果として2026年までに韓国および台湾を超す世界最大のICウェハ生産能力を有する国家になると予測される。こうした半導体は、多くの軍事用途に対して十分に要求を満たすことができる。そしてまた、日本や欧州勢が得意としているパワー半導体などの牙城を中国勢が大きく浸食してくる可能性が強まった。
しかし、中国のICウェハ生産能力のかなりの部分は、外国企業によるもので、2023年末時点における中国の世界におけるウェハ生産シェア約19%のうち、中国企業に基づくシェアは11%にとどまっている。現在、そうした中国勢も生産能力の増強を進めており、中国が輸出禁止の対象とはなっていない旧型のレガシー半導体に大規模な投資を行って、2025年までに中国における生産能力シェアは主要諸国とほぼ同等になり、2026年には中国がトップとなると予測されている。(Knometa Research)
中国企業および政府系は、半導体分野に開発および量産を含めて、なんと16兆円を投入してきたのである。中国は政府の資金援助やその他のインセンティブに後押しされ、世界の半導体生産におけるシェアを拡大すると予想される。中国のチップメーカーは、2024年に18のプロジェクトの操業を開始し、2023年の生産能力は前年比12%増の760万wpm、2024年の生産能力は前年比13%増の860万wpmになる見通しだ。(*wpm:200mm換算)
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次回は第5回「エネルギー」
(担当E)
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