『米国・中国・日本の国勢 2024』第3回 工業①(製鉄、自動車、産業用ロボット) | 奈良の鹿たち

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『米国中国・日本の国勢 2024』 

3回 

<工業①(製鉄、自動車、産業用ロボット)>

 

 

「工業は、米国が世界一、次いで日本。中国へは日本が製鉄技術を教えた。」

などといった過去の優越感を持っていませんか?

今や、中国は「ダントツの世界一の工業国」です。中国がクシャミをすれば、日本は風邪を引く状況です。中国の工業生産力の増大と日本の衰退が相対する形で推移し、日本の完敗が15~10年前に確定した。

中国の鉄鋼・造船・自動車等の生産高は、米国と日本を合わせた分よりも多いのです。

中国製品のひと昔のイメージ「安かろ悪かろ」から「安かろ良かろ」に変わってきています。

また、世界中から企業が中国の比較的安い労働力と、中国国内需要をねらって生産を本国から移したおかげで、米国も日本も自国の工業生産の空洞化が顕著になりました。

鉄から自動車、ITに至るまで中国は「世界の工場」に成長した。

量的拡大から質的拡大に重点が置かれるようになり、生産管理・品質管理は日米に劣らないどころか勝っているようになった。そのため、世界中で需要があり市場占有率も非常に高いものが増えてきています。

ただ、中央政府、党や軍への従属性が払しょくし切れず、今後このことが大きな足かせとなっていくだろうと予想されます。

 

●<粗鋼生産>

中国は年10億t余り、つまり、世界の生産量の半分以上を生産している。しかし、国内需要の減少で生産が2020年をピークに減り続けている。

 

●<粗鋼消費>

今、生産量世界一の中国が揺らいでいる。建設不動産不況に加え、インフラ支出にも陰りが見え始め、製鉄所は右肩下がりの価格下落に苦しんでいる。国内需要は20年以降10%余り減少している。世界鉄鋼協会は今年4月、中国は鉄鋼需要のピークに達したもようで、中期的にはさらに減少するとの見通しを示した。需要低迷と過剰生産能力により、赤字企業が急増している。鉄鋼業界が現在の苦境から抜け出すためには、企業の3割余りが淘汰される必要があるといわれている。

鉄鋼生産レベルを維持できているのは輸出のおかげだ。

中国の2024年1~6月の輸出量は北米の全生産量に匹敵し、今年は約1億tに達する勢いだ。これは、国内価格の低迷により、一部の鉄鋼を海外に安く出荷した方が採算が取れるようになったことが要因だ。

しかし、各国には中国で余った鉄鋼が自国市場に流れ込み、価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込み、労働者を失業させた。今世紀の初めごろは、中国は中南米に年間わずか8万tの鉄鋼を輸出していただけだったのに、昨年は1000万tに近づいた。

バイデン米大統領は今年、中国の政策主導による過剰生産能力は、米国の鉄鋼産業の将来に深刻なリスクをもたらすとして、中国製鉄鋼に高関税をかけるよう呼びかけた。

チリ政府は今年、中国からの鉄鋼輸入品に極めて高い関税を課しました。「中国との絶対的に不公平な競争の結果だ」と主張した。

鉄鋼需要がすでに低迷している欧州では、ドイツのザルツギッターが1~6月の赤字を報告した際、過剰生産能力と中国の輸出をその理由に挙げた。

世界の鉄鋼業界における中国という圧倒的な存在が、あらためてその影響力を露わにしている。

鉄鋼価格の下落は、鉄鋼を使用する企業にとってはもちろん恩恵だが、鉄鋼生産者への影響は深刻で、利益は圧迫され製鉄所閉鎖につながる。

中国政府は今、ジレンマに直面している。当局は鉄鋼業界の再編を望んでいても、実際にそう動けば経済の不安定性が高まっているタイミングで、成長にひずみが生じ、雇用が脅かされることになる。

 

●<造船>

「造船王国 日本」は20年以上前の遥か昔の栄光だ。

中国船舶工業協会のデータによれば、中国の造船会社による2024年上半期(1~6月)の新規受注量は5,422万tと前年同期比44%も増加した。

この好景気をもたらしたのは、造船需要の高まりに対する供給能力の不足だ。世界の造船業界は2010年代を通じて10年を超える長期不況に見舞われ、数多くの造船所が閉鎖に追い込まれた。

ところが、新型コロナウィルスの世界的大流行やロシアのウクライナ侵攻をきっかけに生じた海上輸送力のひっ迫や、二酸化炭素(CO2 )の排出量を削減するためのクリーンエネルギー船への切り替えなどが重なり、過去数年の間に新造船の発注量が急増。世界中の造船所で、新規受注を断らざるをえないほど生産能力がひっ迫する状況になった。

新造船市場では中国造船所の影響力が年々高まっており、中国工業情報化省が2024年1月に発表したデータによれば、中国の造船会社が2023年に受注した新造船は載貨重量トン数ベースで7,120万tに達し、前年比56%増加。世界全体の新造船受注量の3分の2を獲得した。

船舶の竣工量で見ても、中国の伸びは著しい。2023年の中国の新造船竣工量は載貨重量トン数ベースで4,232万tと前年比12%増加。世界シェアが5割を突破した。

同じく工業情報化省のデータによれば、世界の造船企業ランキング上位10社の顔ぶれのうち、新造船の受注量ベースで7社、竣工量ベースで5社が中国企業だ。

こうした中国の躍進により、市場シェアを落としたのが韓国と日本だ。イギリスの海事情報会社のデータによれば、2023年の世界の新造船受注量に占める韓国のシェアは24%、日本は11%だった。前年の受注シェアとの比較では、中国が約9ポイント伸ばしたのに対して、韓国は約8ポイント、日本は約1ポイントそれぞれ縮小した。

2008年のリーマン・ショック以前、中国造船所は「船価は安いが品質の面で不安がある」という指摘が多かった。しかし、民営造船所を中心に見事に復活してきた。

 

中国の上場造船大手の中国船舶工業と中国船舶重工は2024年9月2日、合併計画を発表した。両社の合併により、新造船のグローバル市場で約3分の1のシェアを握る世界最大の上場造船会社が誕生することになる。造船業界が空前の好景気に沸き、受注価格が上昇していることが追い風になったと見られている。

 

●<自動車生産>

20年前には、中国の自動車生産台数は米国や日本の5~6分の1だったが、今や日本と米国を合わせた以上の生産台数に成長した。

中国自動車工業協会(CAAM)の発表によると、2023年の中国の自動車販売台数は前年比12%増の3,000万台と、3年連続で増加し、初めて3,000万台を超えた。内訳をみると、乗用車は11%増の2,606万台、商用車は22%増の403万台だった。2023年の自動車生産台数は12%増の3,016万台だった。

 

●<自動車販売>

2023年の中国の自動車販売台数は、米国国内の2倍、日本国内の6倍だ。トヨタグループの2023年の販売台数は国内で約230万台、中国では減少したとはいえ約190万台だ。トヨタもフォルクスワーゲンも中国に重点を移すのも当然だ。

中国自動車工業協会(CAAM)は、2024年の自動車販売台数は前年比3%以上増加して3,100万台超となり、自動車輸出台数は550万台になるとした。

 

●<電気自動車EV>

さらに電気自動車EVについても、中国は世界の先頭を走っている。

中国では2023年も新エネルギー車(NEV)が全体を牽引した。NEVの販売台数は前年比38%増の950万台と、前年(93%増)から減速したものの、高い伸びを維持し、販売台数全体の32%を占めた。

2024年の新エネルギー車NEVは1,150万台と予測されている。

NEVが大幅増となった一方で、ガソリン車などの非新エネルギー車は3%増の2,060万台だった。6年ぶりの増加となったものの、全体を大きく下回る伸びにとどまっている。

中国自動車工業協会(CAAM)によると、2023年の自動車輸出台数は前年比58%増の491万台で、日本(約442万台)を上回り、世界最大の自動車輸出国となった。また、中国税関統計によると、NEV輸出も大幅に増加し、その内BEV(バッテリー車)は64%増の155万台、PHEV(ハイブリッド車)は46%増の14万台だった(いずれも乗用車)。

自動車輸出増加の主な要因として、(1)新型コロナウイルス感染拡大の収束による国外需要の回復、(2)ウクライナ問題などの影響を受けた世界的な供給不足、(3)中国ブランドの品質・競争力の向上、(4)政府による国外投資の促進に応じて、中国系自動車メーカーが中国外への展開を加速し、市場を開拓したことが挙げられている。

中国自動車工業協会(CAAM)の統計では、輸出は好調な一方で、2023年の中国内の自動車販売台数は前年比6.0%増の2,518万台と、6年ぶりに増加に転じたものの、需要回復は限定的なものにとどまった。国内販売はピークとなった2017年(2,799万台)から約280万台減少している。2023年の自動車販売台数の前年からの増加分(323万台)のうち、55.7%(180万台)が外需の増加による。

2023年の中国国内での乗用車販売台数のメーカー国別シェアを見ると、中国系が前年比6.1ポイント増の56.0%となり、3年連続でシェアを拡大して5割を上回った。外資系メーカーの苦戦の大きな原因として、NEVシフトへの遅れが挙げられる。NEV乗用車の販売台数に占める中国ブランドの比率は80.6%に達するという。

しかし、中国の自動車業界の課題として、次の3点が挙げられる。

(1)利益率が低い(「価格戦」と呼ばれる激しい値下げ競争で、自動車製造業の利益率が5%と、全業種平均の5.8%を下回っている)

(2)国際市場の不確実性のもたらす経営リスクがある(米国や欧州では、中国製BEVに関する反補助金調査を踏まえて、中国製BEVに相殺関税課すとした)

(3)認証、標準、金融面で問題を抱えている(中国と他の国の認証や標準が異なるため、輸出に当たって認証に時間がかかり、コストが増加している)

 

●<産業用ロボット>

産業用ロボットは生産コストを削減し、高品質の製品を生み出しながら生産性を高めている。

世界の産業用ロボットの市場規模は、2022年167億8000万ドル、2023年181億9000万ドルで、2030年には410億2000万ドルと予想され、2023年~20230年のCAGR(年平均成長率)は12.3%である。中国は、この分野でも市場を支配しつつある。   

 

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次回は第4回「工業②(半導体)」

 

 

 (担当E)

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