『北海道の地質的景観』 第14回 支笏湖 | 奈良の鹿たち

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『北海道の地質的景観』 

第14回

<支笏湖>

 

 

 

北海道の千歳空港がある千歳市の西側に支笏湖があります。

支笏湖は、「水質がきれい」「貯水量が多い」「水深が深い」の3拍子揃った湖です。

水質は11年連続で日本一(平均15~20m)で、「支笏湖ブルー」と呼ばれています。周辺を森林に囲まれ土砂の流入が少なく、窒素やリンが乏しくて貧栄養湖のため、プランクトンや藻があまり生息していないので透明度が保たれています。貯水量は、琵琶湖に次いで二番目です。

水深は363mで、秋田県の田沢湖に次いで二番です。

さらに支笏湖は、日本最北の不凍湖ですが、これは支笏湖は大きくて深く、水量も豊富なため、温かい水が湖の深部に残存していて水面を暖めることにより湖面の水温が下がりにくいためです。 

北から時計回りに、恵庭岳(標高1319m)、イチャンコッペ山(828m)、紋別岳(866m)、キムンモラップ山(478m)、モラップ山(507m)、風不死岳(1103m)、多峰古峰山(たっぷこっぷ、661m)、樽前山(1041m)、無名峰(742m)、丹鳴岳(になる、1039m)と高さは様々ですが、嶮しい山並みが、支笏湖周辺の自然を守護してきました。

樽前山は、まだ噴気が続いている活火山です。

 

支笏カルデラは,約4万6千年前の噴火後の大規模な陥没でできた直径約12kmの凹地で,そこに雨水がたまり支笏湖となりました。屈斜路湖に次いで日本で二番目に大きいカルデラ湖で、海抜は363mです。これらの湖を縁取る山々は,支笏カルデラのカルデラ壁です。形成当初の形状は円形でしたが、カルデラの縁に恵庭岳、風不死岳が噴出したことにより、現在のようなくびれた形となりました。

支笏カルデラ形成時には、大規模なプリニー式噴火(噴煙柱を形成する激しい噴火で,噴煙は成層圏まで達し,大量の火山灰やスコリアなどを放出する)に引き続き、大規模な火砕流がカルデラの東側の低地に流れ下り,石狩低地帯を南北に分断しました。当時、苫小牧に流れていた石狩川は西に流れを変えて、石狩湾に注ぐようになりました。

札幌市の一部、新千歳空港のある千歳市、苫小牧市などは、支笏カルデラ噴火の火砕流の上に形成された都市である。

 

札幌市の真駒内公園付近は、豊平川と真駒内川に挟まれた柏丘(柏ヶ丘)の北に拡がる平坦地(真駒内公園)となっています。そこは下段,中段,上段に分けられていて、河岸段丘地形が比較的良く残されています。そこに支笏火砕流堆積物とそれを覆う礫層の露頭があります。真駒内川河床からの比高は2~4mです。上半分の表土の覆われた部分に礫層が堆積していて、下半分の白色部は支笏火砕流堆積物です。

 

支笏カルデラ噴火の火砕流が冷えて固まったものが「札幌軟石」と呼ばれ、開拓時代に小樽や札幌で石材として使われました。

札幌市南区石山に「石山緑地」という都市公園があります。明治時代以来、札幌軟石の採石場だった場所を活用して公園として市が整備しました。札幌軟石がむき出しの岩肌、そして札幌軟石の造形物がまるで古代ローマ遺跡を彷彿とさせる空間です。

ここで採れた札幌軟石は、札幌中心部まで馬車鉄道で運んでいました。これが現在、「石山通」と呼ばれる所以です。

札幌軟石は平均厚さ15メートルで、上の層と下の層は火山灰ですが、中間の層から良質の軟石がとれました。ここで採掘される札幌軟石は、札幌中心部の本府建設にあたり洋式建造物の石材として重宝されました。最盛期には石材店が100軒、石工は300人もいたようです。

採石場跡を活用した石山緑地は、札幌軟石をモチーフにした公園整備事業でした。

こうして1996年5月10日に一般公開された「ネガティブ・マウンド」は、直径30~60メートルの楕円形で、面積約1,500平方メートル。コロシアム仕様で、約1,500人が座れる野外ステージとして活用することができます。

 

北海道内に工場適地を探していた王子製紙は、支笏湖周辺の木材資源と支笏湖の水資源を発電に利用することを考え、明治37年に苫小牧への進出を計画し、明治43年に工場が完成しました。支笏湖は水量が多く、きれいで、不凍湖であるため、千歳川には発電所が建設されました。

会社は、苫小牧から支笏湖まで物資運搬用に王子軽便鉄道(山線と呼ばれていた)を敷きました。1922(大正11)年からは観光ブームに乗って、一般観光客に利用されるようになりました。しかし、旅客も貨物輸送も急速に自動車に移行し、1951年(昭和26年)5月、廃線となりました。その名残として、支笏湖から流れ出る千歳川には山線鉄橋が残っています。

支笏火砕流は約3万9千年前の大規模噴火の噴出物で、その体積は合計200立方kmとされています。現在の千歳川に沿っても厚く堆積していて、その圧倒的な体積を実感できます。

支笏湖周辺は明治時代から王子製紙が、千歳川に5つの発電所を設けました。一番上流の発電所がこの千歳第一発電所で、支笏カルデラの火砕流台地を眺めることが出来ます。ここから見える約4kmの範囲では、対岸の台地の標高は上流側で約250m、下流側で約180m、平均勾配は約1度です。

 

 

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 次回は 第15回 「アポイ岳」

 

 

(担当 G)

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