売れない5連勤で、寒すぎる売場でやる気も出ず、後半は体調的にも苦しかった。
昨日は朝方、発熱を感じて目覚めたが、熱めの風呂に入ってルルを大量に摂取したら体調が戻ったので出勤。
とはいえ、息も白くなるのではないかとさえ思える寒い売場を徘徊していると節々が痛むようになってきて、風邪のひきはじめの症状を感じた。
バカは風邪ひかないっていうから安心してたのだけれど、バカでも風邪ひきそうなほど寒い売場だったのだ。
とはいえ、楽しみにしていた食事会があるので、帰宅後も熱い風呂とルルの大量摂取で体調を戻した。

僕の場合、これでたいてい治せてしまう。

そもそもルルを常用しているので用法用量なんて守っていては効き目がないし、熱い風呂で体温を上げて免疫力を高め、日本酒で内側からも体温を上げるので理屈としては治るのだけれど、医者や薬剤師には危険だって言われることだろう(笑)

で、今日は食事会までの時間を体調回復のためにゆっくり寝て、Youtubeで映画を観たりして過ごした。

エデンの東
カリフォルニアの騒がしい漁港モントレーから24キロ離れた静かな町サリナスがある。
1917年モントレーのはずれで、婦人が歩いてくるのを座って待っているキャル。
通り過ぎていくその婦人の後を、距離を置いて尾行するキャルは、ケートが銀行に入るのを見届ける。
婦人は銀行に大金を預金するほどに商売繁盛している経営者だ。
しかし銀行員に対する態度も冷酷で、歩けば町の他の婦人方に後ろ指をさされるような“いかがわしい”職業の婦人だ。
その婦人を婦人の家まで尾行していくキャル。
婦人の自宅は豪勢で、使用人が掃除をしていたが、その使用人に「酒場の掃除をしな」と言って婦人は中に入っていくが、使用人を呼び込んで尾行してきた男について訊ねた。
「知ってる子かい?」
「昨夜、酒場に来ました」
婦人が用心棒のジョーを呼んでいた時、路上を悶々とうろついていたキャルががまんできなくなって石を婦人の家に投げ込んだ。
ジョーが出てきてキャルに「なんで石なんか投げるんだ」と問いかけると「投げて悪いか」と抵抗したのでキャルを押さえ込むジョー。
「何しに来るんだ?」
とジョーが問いただすと、キャルは婦人に会えるかと訊き返した。
「話があるのさ」と言うキャルだったが、詳細は話そうとしない。
「本名なのかい?ケートって名だよ」
キャルはケートの姓も訊ねるが、ジョーは答えなかった。
「大嫌いだと言ってくれ」
キャルはその場を去り、走る列車に飛び乗るとその屋根の上に乗ってサリナスに向かった。
「家に入って口をきいてやればよかった」

サリナスではキャルの双子の兄弟であるアロンが恋人のアブラと歩いていた。
二人は昨夜無断で家をあけたキャルの話をしていた。
「キャルのあだ名は“のら猫”よ」
とアブラが言うと笑うアロン。
そこへ待ち伏せるように現れたキャルに「パパが買う氷倉を見に行く。来るか?」と問うアロン。
父親も来ると聞いて、見に行くのを「やめた」とキャルは去りかけるが「夕べ、どこにいたのか聞かないのか?」と訊いた。
キャルは、そのことで父親も心配していたとアロンから聞くが「だろうな」と浮かない表情をしていた。
そしてアロンとアブラとともに、氷倉の見物にやってきたキャル。
父アダムはウィルに、熱心にシベリアで氷に埋まった巨象が“新鮮な”状態で発見された話をしていたが、そこへ現れたキャルを見て、ウィルに「なんてことだ」と言った。
「我々の若い頃は家をあける時は父親に断るなり、帰って言い訳ぐらいしたろウィル。時代の違いだな」
吐き捨てるように言って、アダムは巨象の話に戻った。
アダムは冷凍の研究に夢中になっていた。それによって技術の進歩に貢献できると。
冷凍すればどんなものでも新鮮なまま保存できる。それを事業にしようと考えており、そのために貨車も借りることを決めていた。
しかしキャルは新聞で読んだと言って、アメリカが大戦に参戦すれば大豆やトウモロコシでひと財産できると主張した。
その意見にウィルは大賛成だったが「利益はいらない、キャル」とアダムはキャルを蔑むように言い捨てるのだった。
アダムはウィルに「どうもあの子の性質がわからん。アロンは素直なのに」と嘆いた。
氷倉の中ではアブラが、キャルは人嫌いだとアロンに話していた。
「いつも独りぼっちで変わってるわ」
アブラはキャルに恐怖を感じていると言う。
「獣みたいな目で人を見るのよ」
アブラはアロンと結婚する日を待ち遠しく思っていた。
「僕達は理想的な夫婦になるよ。君は完璧な母親に」
アブラがアロンの母親について訊くと「生まれた時に死んだ」と答えたが、その答えを聞いて氷倉に忍び込んでいたキャルが音を立て始めた。
そしてアブラに愛を語りかけるアロンの言葉に苛立ったキャルは倉から氷を捨ててしまうのだった。

その夜。アダムは聖書を引用してキャルの行為を許すと言った。
「お前の乱暴の動機は悪ではない。私にはわからん」
アダムが怒りを堪えて、氷を捨てたことや昨晩家をあけたことを許そうとしたがキャルは「気まぐれです」とだけ答えた。
アダムは聖書を読むようにキャルに渡し、渋々読むキャルだったがアダムが何度止めても“節”の番号を含めて読むのだった。
「改めん気か!どこまでも腐ったやつだ!」
「僕は腐っています。昔からです」
アダムも言い過ぎたと反省していた。
「善も悪も親から譲られる。僕は悪だけ譲られた」
そのキャルの言葉を否定しようとするアダムだったが、その言葉はキャルには響かない。
「母さんは、天国に行っているのではないんでしょ?」
ため息まじりに「誰に聞いた」と答え、アダムは「苦しまさんためだ」と言い訳し、母親が“悪い人”だったと語った。
「アロンにも教える気か?」
「アロンを苦しませちゃ悪いだろ」

その後も母親のことを訊いてくるキャルに対して、アダムは話をやめようとする。
「もっと話して。自分がどんな人間かを知りたいんだ」
しかし話そうとしないアダムに幻滅したキャルは席を立ち、家を出て行ってしまう。
「僕なんか用なしだ」
外にいたアロンとアブラに言い捨てて、キャルは去っていくのだった。

キャルはケートの酒場に来ていた。
キャルを見たケートの使用人は「帰りなさい」と忠告するが、キャルは聞きいれず、執拗にケートのことを訊ね、そしてケートのいる部屋を教えるように口説くのだった。
そして忍び込んだケートの部屋だったが、うたた寝から目覚めたケートがジョーを呼び、キャルは保安官に捕まってしまう。
「母親に会いに行くのが悪いことなのか」
保安官にキャルは言うが、保安官は「悪いことではないが、俺が禁ずる」と言う。
保安官はアダムと古馴染であったため、アダムたちが引越してきた際に、ケートとの接触を恐れていたという。
そして今までキャルが抱いていた疑念である、ケートが母親であるということが立証されるのだった。
保安官の車で家まで送られたキャルは、保安官からアダムとケートの結婚の話などを聞き、アダムの肩の傷がケートが撃ったものであることも知った。
「父さんが、なにかしたんだろ?」
「父さんほど親切で正しい人を私は他に知らない」
と答える保安官にも、ケートが撃った理由はわからなかった。
家の中ではレタスの冷凍保存の成果を喜ぶアダムに姿があった。
その姿を見て、キャルは父のためになることをしようと決意するのだった。

レタスを仕分けするための道具を作るキャル。
そこへ通りがかった人がアダムに「石炭落としを盗まれた」と話していた。
キャルの仕事ぶりにアダムも喜んでいたが、大事な用事などはアロンに回されていることでキャルは寂しさを感じていた。
そんなところへアロンの弁当を持ってやってきたアブラ。
弁当を受け取ったキャルを追ってきたアブラと話し込んだ。
レタスの事業が失敗すればアダムの全財産はなくなってしまう。
「私も3千ドルを捨てたことがあるわ」
アブラは13歳の頃に父親の指輪を川に投げ捨てたことを話した。
「でも父を許してあげたの」
キャルは笑いながらその話を聞いた。
「父さんが愛してくれないと思ったの」
母親が亡くなり、再婚した父が女に夢中になっていると感じたからだと言う。
そうまでして確認したかった父からの愛だったが、だめだったと語るアブラ。それでもいまは円満だと言う。
そこへ畑から戻ってきたアロンが、作業場の様子を見て“石炭落とし”を見つける。
アダムはキャルを呼びつけて、盗んだ人に返してくるように諭しながらアロンに木で同じものを作るように指示した。
そうして、冷凍保存したサリナス産レタスを乗せた汽車が出発していった。
前途洋々に思えたアダムたちだったが、自動車の運転を習っていた最中、汽車が雪崩で立ち往生しているという報せが入ってしまう。
氷は溶け、レタスは腐ってしまう。
「今に誰かが冷凍法を成功させるだろう」
「パパの考えは正しいんです」と言うキャルに「私は思い上がっていた」とアダムは答え「レタスを無駄にしたな」と笑って去っていく。
「パパは平気なんだね」と感心するアロンだったが「君にはわからんさ」とキャルはアダムの心中を思っていた。

ヨーロッパでの戦争が拡大し、アメリカの参戦も目前だった。
町では訓練が行われていたが、そこに参加していたウィルをキャルは訪ね、豆で儲ける話を詳しく聞き出した。
「父が損した分を取り返すんです」
その意気込みはウィルも認めたが、最低でも5千ドルの資本が必要だという。
キャルはモントレーに行き、ケートを待ち伏せた。
そして歩きながらようやく会話をした二人。
「5千ドル欲しい」
ケートの部屋にやってきたキャルは、ウィルとの商売の話をした。
「父さんは稼げないの?」
ケートは続けざまに「善人に金儲けは汚らわしいわけね」と吐き捨てた。
キャルはなぜ父を撃ったのかなどを訊いた。
「私を家に縛りつける気だったからよ」
なにもかもわきまえた聖人顔で聖書を読んだアダムを許せなかったケート。
その話に苦笑したキャルに、同じ感覚を見出したケート。
「なるほど私に似てるね」
そしてケートは5千ドルの提供を約束した。
「憎めない子だよ」

新聞では“ドイツに宣戦布告”と見出しがたち、アメリカが参戦を表明した。
サリナスの町からも出征していく若者を送り出すパレードが開かれていた。
戦争はすぐに終わると誰もが思っていた。
パレードに浮かれたようなキャルに対してアロンは浮かなかった。
「僕は戦争には絶対反対だ。戦争は人道に反する」
戦争は長引き、連合軍は苦戦を強いられ、出征の様子も暗く沈んだものになっていった。
そしてサリナスから出征した者に多くの戦死者が出ていた。
アダムは徴兵委員になっており、農場での生活に戻りたがっていた。
一方でキャルは出資した畑を毎日のように見に行っていた。

そんなある夜、町では祭りが開かれていた。
アブラが男に絡まれているのを見かけたキャルは助けに入り、待ち合わせ相手のアロンが来るまでの時間を楽しんだ。
観覧車に乗り、アロンが口先で愛を語っていると感じていると告白するアブラは、アロンを愛しながらも迷っていた。
「愛って何だかわからないわ」
アロンから“善のかたまり”だと思われているというアブラは、その窮屈さを感じてもいたのだ。その悩みを打ち明けたアブラは、いつしかキャルと唇を交わしていた。
そんな中、群衆の中で騒動が起きる。
ドイツ系の人が取り囲まれていたのだ。
アロンの説得も虚しく、乱闘騒ぎになっていく。
保安官が騒動を止めたが、そこにやってきたアブラがキャルの上着を持っていることに気づいたアロン。
「ケンカしてアブラにいいところを見せたかったのか?」
騒動を止めに入っていたキャルにくってかかるアロン。
「助けようと思ったのに!」
キャルは何度もアロンを殴っていた。
酒場に去っていったキャルを追いかけたアブラは、アロンを殴ったことを後悔しているキャルの姿を見た。煽るように酒を飲むキャルを止めるアブラに「今に真の息子が誰か親父にもわかる」とつぶやくキャル。

焦ったキャルはウィルに金の催促をした。
その足で、アブラの家を訪れて、誕生パーティーで金を渡す計画を話した。
アブラは素晴らしいと言って、パーティーの手伝いを承諾したが、キャルはアロンを殴ったことに対して自責の念が消えなかった。

パーティーの飾りつけを済ませながら、キャルはアブラにアロンが用意しているプレゼントを聞きたがったが、アブラも知らなかった。
そんなところへ徴兵委員から戻ってきたアダムは、疲れきっていた。
しかし飾りつけられた部屋の中を見て、明るい気分になったアダム。
そしてキャルは紙に包んだ現金をプレゼントとしてアダムに渡したが、アダムがそれを開ける前にアロンが「アブラと僕からも贈り物がある」と言い出した。
「僕たちは婚約しました」
その言葉にアダムは大喜びになるが、アブラに促されて開いたキャルからのプレゼントが現金であり、それが戦争による先物取引で儲けたものだと知ったアダムは返してくるように言い渡す。
「徴兵委員の私が戦争で金儲けか?」
一向に受け取ろうとしないアダムにキャルは落胆し、絶望に陥ってしまう。
「私を喜ばせたかったら、善人として一生をおくれ」
理解されず、愛されていないと感じたキャルはアダムに一度抱きつくと「大嫌いだ」と泣きながら家を出ていってしまう。
その後を追ってきたアブラに「僕は邪魔者なんだ」と泣すがるキャルだったが、そこへやってきたアロンに引き離され「心のねじけたひねくれ者だ」と蔑まれてしまう。
そしてキャルはアロンに「一度だけ真実を見るがいい。目をつぶるなよ」と言って、ケートの酒場へアロンを連れていってしまうのだった。

天使のようだと思っていた母親が、実はいかがわしい酒場の主人であるという事実。
ケートの姿を見たアロンは発狂してしまう。

自宅に戻ったキャルにアダムがアロンの居場所を訊くと「アロンの番人じゃないよ」とキャルは言った。
そしてキャルは母親のように別の場所で商売を始めると言い出し、アダムに母親のことを知っていると告げた。
「パパは母さんも僕も愛さない。パパは聖人だ。常に正しい。自分の正しさを押し付けようとする。僕を嫌うのは母さん似だからだ」
一方的にキャルはアダムに話し、アロンをケートの店に案内したと言った。
「パパの愛を買おうとした。もうパパの愛はいらない。役に立たない愛だ」
絶望したキャルは、全ての愛を拒絶するようになっていた。
その頃、発狂したアロンは町で暴れ、自分を傷つけ、ついに軍隊に入る汽車に乗り込もうとしていた。
駅に駆けつけたアダムだったが、汽車の中のアロンは狂っており、汽車の窓を自分の頭でかち割って笑っていた。
その姿を見たアダムは倒れてしまう。

アダムは脳卒中を起こしていた。
ショックによるもので、半身不随。命もそう長くないと診断された。
同席した保安官はキャルに「“カインは立ってアベルを殺し、カインは去ってエデンの東、ノドの地に住めり”お前も去れ」と言った。
キャルもそうするつもりになっていた。
アダムの看護婦は身勝手であまり良い看護婦ではなかった。
その看護婦を追い出してアダムの寝室に入ったキャルとアブラ。
キャルは「僕はひどいことをした。謝ります」と口にだしたが、アダムの無反応な表情に耐え切れず、部屋を出てしまう。
アブラはアダムに話しかけ、その手を握り締めながら「愛されないことほどつらいことはありません」と語りかけていく。
「彼に愛を与えず、彼に愛を求められなかった。何も求めなかった。彼への愛を見せてください。でないと彼は破滅です」
そしてアブラはキャルへの愛を告白した。
アブラは部屋の外にいたキャルを、もう一度アダムと話すように説得した。
「今を逃したら最後よ」
部屋に入ったキャルはアダムに話しかけていた。
「僕は生まれつき悪い子だと考えてました。でも本当は違うんです」
キャルはアダムの耳元で話していた。
そこへ「コーヒーはどこ?」と入ってきた看護婦に「出て行け!」と叫ぶキャルの声に反応したアダム。
「キャル、お前に頼みがある」
たどたどしく話すアダムは看護婦を替えるように言った。
「あの女、我慢ならん」
そしてキャルの耳元でアダムが話しかけた。
その言葉にキャルは涙を流し、その様子にアブラも泣いていた。
「何て?」アブラが問いかけるとキャルは「看護婦はいらないって。僕に、ここで看病しろと」と答えた。
「この僕にだ」
そしてキャルはベッドサイドに椅子を運び、アダムに寄り添うのだった。
       
1955年公開の映画。
初めて観たのはもちろん、テレビ放映があった時だ。
ラストシーンの印象は何度観ても変わらない。
それまでのシーンでのキャルの悲愴な泣き顔が、晴れやかな泣き顔に変わるそのシーンは、理解し合えた父子の愛情を表現した最高のシーンだ。
あまり原作小説に興味を持たない僕でさえ、スタインベックの原作を読んでしまったくらい好きな作品で、何度観ても涙が止まらない。
原作はキャルが生まれる前の話が前半で描かれていて、アダムという人物に奥行を感じたし、よりドラマチックな物語だったが、その後半部分だけが映画化されている。
焦点が当てられたのは“キャル”。
アダムとイヴの子どもである【カインとアベル】を元にした物語なので、親の愛情をめぐった兄弟の確執の物語であり、当然、被害者と加害者という立場でも描かれるアロンとキャル。
しかし、スタインベックは“キャル”という存在をカインにはしなかったのだ。
エデンの東に追いやられることなく、アダムの愛を感じられるようになるのだ。
加害者でありながら、常に後悔し、悪いことも良いこともできる存在で、愛を渇望していく姿は、まさに人間そのものであり、その姿をジェームズ・ディーンが見事に体現してくれているといえる。
汽車の屋根に座っているシーンなど、印象的なシーンが多い作品だけれど、ラストシーンの印象には敵わない。
そっと部屋を出て行くアブラの姿さえ印象的なラストカット。
それまでエキストラだったジェームズ・ディーンが初主演し、そのデビュー半年後に事故死してしまったことも、この映画を伝説的なものにしている要因であることは間違いないけれど、それを除いても、やはり名作といえるだろう。

去年の11月のクエ鍋に一緒に行った子と約束していた食事会の今日。

今朝、体調不良の連絡が入ってしまった。

行こうと思っていたお店は昨年の2月以来
去年、最も感動した店“天ぷら新宿つな八 総本店”。
もちろん予約済みなので、当日キャンセルは避けたい・・・。

体調不良はしょうがない。どんなに気をつけていたって崩れる時は崩れる。

急遽だったけど、先日さわやかさんに行ってくれた子をダメもとで最初に誘ってみたら、嬉しいことに行ってくれるということになった。
この子とまた食事に行けるなんて、なんて幸福なんだろう!

付き出しのワカサギの南蛮漬けで八海山を呑んでいると、一品目の海老が披露される。
相変わらず感動的な熱々の天ぷらになった海老を、天然塩やゆかり塩、わさび塩で美味しくいただく。
もうこの一品でつな八さんの偉大さを知れる。
その後も、いか、きす、れんこん、にんじん、舞茸とわかさぎ、ほたてと、どれもこれも絶品で、一緒に行ってくれた子の表情も解けるような笑顔になっていくのがわかる。
ウニの海苔巻きの天ぷらは、まさに絶品で、言葉を失うほどだ。
「ごはんなしでも美味しいウニですね!」と一緒に行ってくれた子が感動してくれた。
ここでおまかせのコースは終わりで、〆前の冷製かぼちゃスープが出てきた。
旬のうちに食べたい一品、牡蠣ピーマンを追加オーダーした。
これも相変わらず感動的だ。
〆はかき揚げ丼。
程よい量で、こんなに揚げ物を食べたのにまったく油のしつこさがないのもつな八さんの素晴らしいところで、むしろあっさりとさえ感じられる。
カウンター席で天ぷらは食べたほうが圧倒的に旨いのだけれど、次々と出てくる逸品たちに舌づつみを打つのに忙しくなって、会話が途切れ途切れになってしまうものだ。
それなのに、この子とはなんとなく継続した会話をしながら食事できるのが不思議だ。

 愉しい時間はあっという間に過ぎ去り、この子を地下鉄の改札まで送り、またどこかに行こうという漠然とした約束で別れた。

振り返って手を振ってくれる姿に、愛おしささえ感じてしまう。

この子は可愛らしいので、きっとすぐに彼氏ができてしまうだろう。

そうなったら、きっともう会えないのだろうなって思うと勿論寂しいけれど、人の幸福は喜ぶべきだ。

まして僕は人を幸福にできる人間ではない。

一瞬だけの幸福を僕自身が感じることで精一杯だからだ。

それさえ一時的に気を紛らわせているだけのこと。

トシを重ねれば重ねるほど『釣りバカ日誌』の名ゼリフの重さを感じる。

“僕はあなたを幸せにする自信はありません。でも、僕が幸せになる自信はあります”

そんなことを言える相手はいないし、いたとしても言えない。

ただ、今日の食事会が倖せな時間であったことは間違いない事実だ。