百年兵を養うは、ただ平和を護る為である――この山本五十六の言は、孫子の「百年兵を養うは一日これを用いんがためなり」をアレンジしたものでしょう。しかし驚くべきはアレンジのほうが、元の孫子の文言よりも、むしろ孫子本来の思想に近いのではないかと思わせることで、というのも、孫子に記された「百年兵を~」は、僕は後世の加筆だと考えているからです。そうでないと「百戦百勝は善の善に非ず」という、確実に孫子オリジナルと思われる文とは整合性がとれません。山本がいかに孫子を読み込んでいたかという証左で、即ち軍備は戦争を回避するためのものであるという認識だったのだと思います。
ご存知のとおり、永世中立国には徴兵制度がありました。冷戦当時、東にも西にも組しませんよという宣言をすれば、軍事同盟も集団的自衛権も何もなく、自国の安全保障は自らによってのみ確保するしかありませんから、それはまったく当然のことです。
そうすると、日本国憲法9条は、条文そのものに矛盾を抱えていることになります。なぜかといえば、恒久の平和のために軍備を保持しないというのですから、それなら自国の恒久の平和をいったいどうやって保つのかという疑問が生じるからです。軍がなければ軍事同盟など結べませんし、だからといって他所の、それも散々にやられた相手に安全保障を委ねるなどというのでは、利用されるのが関の山で、ハナから自分の国を守ることなどできるわけがありません。自衛隊があるじゃないかと言うなかれ、あれは明らかに違憲ですから、やはり矛盾しています。ただ、宗教法人が非課税というのは20条違反ですし、裁判員制度は18条違反ですから、僕は9条の矛盾をとやかく言うつもりは全くありません。だからといって9条の条文に自衛隊を併記というのはバカの考えることで、条文そのものに違憲案件を加えてどうすんだの話。ホンットのバカ。
しかしいずれにしても9条があろうがなかろうが、ミサイルは飛んできているんですから、現状では9条は安全保障にまったく貢献しておらず、恒久の平和という9条の理念を確保しようとすれば絶対に軍備は必要であることは明らかです。従って、冒頭の山本の言ほど正鵠を射ているものはありません。彼自身最後の最後まで対米戦争には猛反対しており、軍備は覇権のためや権益確保のためのものではないという考えだったに違いありませんから、さしずめ兵は専守防衛用ということになるのでしょう。ところが日清日露日米と、過去の対外戦争はすべて日本の宣戦布告によって始まったもので、兵を養うは専ら「ただ侵攻を行う為」でした。そこに僕ら日本人が軍隊や安全保障に対する思い違いがあるのだと思います。
本来「兵を養う」には9条を撤廃するのがスジ。けれども改憲してしまえば、国際社会に宣戦布告予告するに等しいのですから、そんなことは愚の愚でしかありません。ということは、このまま違憲を承知で「兵を養う」しかなく、世界中が「せーの」で一斉に武装解除するその日までは、それが唯一の方法だと思います。しかし現在の自衛隊は被災地には貢献できても、肝心の安全保障に対してはまったくの無力です。
よく「核の抑止力」といいますが、これは煎じ詰めれば「相手が自国を粉砕できる能力を持っている」ことが安全保障であるという、いわば皮肉に他なりません。ただしこれはもちろん核保有国同士の話で、非保有国は同じステージ上にいませんから、皮肉が通用しない代わりに歯牙にもかけられません。北朝鮮は無謀でも狂っているのでもなく、そのことをよく理解しているに過ぎません。
現在おこなわれているチキンレースで、米国は北朝鮮に勝てません。必ず譲歩します。北はどれだけ経済封鎖を強化されても、追い詰められれば最後は米国本土にICBMを撃ち込めばいいだけで、そのことを米国はよくわかっているからこそ、ヒステリックになっているのです。ということは、ミサイル防衛システムなど、まったく役に立たないということ。そもそも秒速3キロですっ飛んでくる、長さ20メートルの細長い物体の軌道を計算して撃ち落すことなど土台無理な話で、まぐれで一発目を落としても、二発三発飛んでくればお手上げです。これらをすべて落とそうと思えば、国防費がいくらあっても足りません。これが現代の安全保障の実態で、覇権を目指すのではない限り、制海権も制空権も必要なく、米国はそこに恐怖しているわけです。
5兆円超の国防予算の中から、ミサイル防衛システムや航空船舶など役にも立たないガラクタを大量に買い込んで米国に貢ぐくらいなら、その分を核とミサイルの開発費に充てればどれだけ安全保障に役立つことか。他国を侵略するのでなければ、今時通常兵器など要りません。シリアはメチャメチャに破壊できても北朝鮮に爆弾のひとつも落とせないのは核を持っているからで、いくら軍艦飛行機並べてデモンストレーションしようが、そんなものは単なる税金の無駄遣いで、トランプアベのおバカコンビがやっていることは危険極まりない挑発行為でしかありません。核を持つ国に無条件降伏などありえませんから、いったいこの先どうするつもりなんでしょうか。相手は太平洋にバンバン打ち込むぞと言ってるんですから、その度に日本上空をミサイルが通過することになります。もしも発射実験に失敗すれば、日本の国土に落ちて、しかも54基もある原子炉のどれかに当たるかもしれず、そうなったところでこっちには報復の術がありませんから、だから挑発するバカはないと言ってるんです。くだらないことは一切やめて、その代わりにこっちには一発で済ませる報復の手段があるぞと示せばいい。それなら万一のことを考えて頭越しにミサイルを撃ち込むことはできにくくはなるでしょう。ここまで来てしまっている以上は100%なくなるとまでは言い切れませんが。
だから誰がなんと言おうと、この先も9条を守ろうとするのであれば、核を持って先制不使用宣言をすることがベストであると僕は言い続けます。そうすれば今時は通常兵器なんて、あんなものは単なる金儲けで造っているだけなのですから、すべてスクラップにすればいいとすら思いますし、なくしてしまえば国際貢献とやらの美名を騙った海外派兵もできなくなり、名実共に「百年兵を養うは、ただ平和を護るため」だけ、ということになります。そもそも反撃の手段が核兵器しかないというアホみたいな国を、ヘッチャラで攻める国があろうとは到底思えません。日本なら核やミサイルの実験みたいなデモなどやらなくても、なんだったらオマエんとこで実験してやるぞで済むんですから、ホントはブラフでもいいくらいです。それでどんどん通常兵器を減らしていったら、相手から見れば、侵略される心配はまったくない代わりに、破壊されることになるんですから、どれだけ不気味か。自衛官も国防予算も大幅に削減でき、かつての仕返しを恐れる米国も、はじめは猛烈に反対をするであろう中国も、ひとたび持ってしまえばこっちの機嫌をとるようになること請け合いです。逆に経済封鎖されても、原油タップリのロシアと組めばいいだけですから、米も中もそれは嫌でしょう。なんでもかんでも言うことを聞いているばかりが能じゃありませんよ。乱暴な言い方ですが、核を保有していれば、バブル崩壊後の失われた四半世紀などなかったかもしれません。核の威力は大量破壊であることはもちろんですが、加えてそのことが外交上経済上も、使い方しだいで大いに威力を発揮します。少なくとも米国の言いなりにならずに済んでいたことだけは間違いありません。まさかとは思いますが将来は北朝鮮だって、韓国よりも国力で勝るという事態がまったくないとは言いきれません。それはイコールゆくゆくは日本をも凌ぐということです。
米も中も北朝鮮を止められないのですから、北への対抗処置という似非大義が使える「今」をおいて他に、それを叶える機会はありません。なにせ相手は北海道くらいなら一発ですべてを廃墟にできる水爆を持っていると言ってるんですから、米や中がグズグズ言いやがったら、オマエらなんかアテにできるか、やられるのはこっちだぞとハッキリ言ってやりゃいいんです。正恩の言う、核兵器保有国だけは軍事的侵略を受けなかった、フセインとカダフィは核を放棄した結果破滅したという正論を、僕ら日本人も真剣に考えなければいけない時期に来ているのは確かです。
韓国人を嗤う前に、我々日本人も太平洋戦争の呪縛から一日も早く開放されなければ前進も発展もなく、いつまでも米国の奴隷のままだと僕は思います。