Rock'n Roll 徒然草 - 1 - | なおそうやのブログ

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使い捨ての時代に逆行し
 「買わない」「捨てない」「諦めない」をテーマに
展開するエコロジカルなブログ

 

無心に作業に没頭していると

走馬灯のように記憶が蘇る時がある。

 

18歳の頃

そう、私はとある私立高校の「機械科」三年生だった。

 

特に希望して入学したわけでもなく

ココしか入れないから・・的な

よくある落ちこぼれの典型的な入学パターンである。

 

専門科目も三年目となると

その方向での科目も増えてくる。

 

「工業数理」いう科目

その名の通り、工業系の数学で私の大の苦手科目でもあった。

 

同じレベルの奴らが集まってくるクラスの中

その大半が苦手としている事は明らかで

「昼寝の時間」とばかりに、授業後のアルバイトの為に

仮眠を取る輩の多いこと。

 

工業数理の先生は「非常勤」と呼ばれる方々で

他の大学や企業から講義に来ているそうだった。

 

恐らく、一時限「〇〇円」で契約するような

講師の方々の実力からすれば

それはそれは割に合わない契約であっただろう。

 

授業開始のチャイムが鳴ると、廊下の向こうから

ペタペタとサンダルを床に響かせながら彼はやってくる。

 

歳の頃、五十代くらいか

地味な背広に、地味なネクタイ

ごま塩の角刈りで、すこし猫背・・・

腋に教科書を挟みながら

いつも少し暗い表情で

 

相変わらずやる気なさそうだな・・・と

何も知らないクソガキだった私は心の中でいつも思っていた。

 

授業は、苦手なこともあって

それは眠気との戦い・・

揃いも揃ったドラ息子達は

バタバタと眠気に勝てず沈没してゆく。

 

「では、この問題を解いてみなさい」

 

講師の解説が止んで、教室は沈黙の空間となる。

ふと彼の手許を見ると、居眠りしている生徒をチェックして

ノートに記録している。。。

 

「あいつ、居眠りチェックしてやがるから気をつけんとな」

 

放課後に私を含むバカ息子達の会話。

 

当たり前である。

講義という勉強の時間に寝ているのだから

「閻魔帳」に付けられて当然なのだ。

今の私が彼なら、ブチ切れているであろう。

 

既に仮眠の時間と捉えていた工業数理であったが

年に数回のテスト前になると少し様子が変わる。

 

テスト範囲というのが、どの科目でもあるのだが

テスト前週に、彼が

 

「ココな」

 

と少し声を大きく張り上げる。

 

そうすると、今まで爆睡していた生徒が

ゾンビのようにムクムクと起き出して

ヨダレでシワがよった教科書に印をつけ始めるのだ。

 

大の苦手であった工業数理であったが

テストで赤点(30点以下)を喰らって

補習に呼び出されたりしたことが一度も無い。

 

それは

 

「ココな」

 

と言ったところ以外は、絶対にテストに出さない

意地悪な問題設定をしたり、ひっかけ問題を出したりすることも無いところに理由がある。

 

 

その事を、我々も知っているから

テスト前の「ムクムク現象」が起きるのだ。

 

 

 

要するに 「すごく優しい先生」 であった訳だ。

 

 

 

いつも、つまらなさそうに歩いてくる

少し猫背の角刈り先生は、すごくいい人だった。

 

 

でも、何か暗いのである。

陰を感じるというか「どうしてなんだろう?」と。

 

 

 

高校三年も終わり

進学する者、就職が決まった者・・・

三学期とっても、授業は卒業までの消化試合のような空気となる。

 

 

工業数理の教科書も殆ど終わりのページへ

先生のおかげで単位も落とすこと無く、工業数理最後の授業。

 

 

教科書を閉じて

彼の最後の講義であった。

相変わらず舐めたガキであった私は、眼は1/3 zzz...

 

 

えー、これで授業は全て終わったわけだが・・・

 

 

彼の低く、少し濁った声が教室に響く

 

 

最後に・・・お前たち・・・

 

 

親より先に死ぬなよ

 

 

半分夢の世界に行っていた私は

体中に電流が走ったようにハッと我に返った!

 

 

どうして?そんな事?それも工業数理の授業で?

 

 

すみせん・・・先生

あなたの授業内容は殆ど覚えていないのです。

しかし、最後に頂いた言葉は今でも深く心に焼き付いています。

 

 

もう、その言葉の真相を知る術はありませんが

少しだけ猫背の先生は、

当時の私と同じ年頃のお子さんを亡くされたのでしょう。

 

彼は亡くされたお子さんの面影を

元気な生徒たちと重ね合わせていたのかも知れません。

 

そして、自分が同じ年齢を数えることになった今

子を持つ親となった今・・・

彼がどれ程の悲しみを背負っていたのか・・・。

 

 

 

散らかった道具を片付けている時

キーボードのホコリを掃除している時

何かに没頭している時、それを思い出す。

 

 

 

彼から感じる「陰」の理由は

悲しさであったのだろうと、痛み知る歳になったのだ。

 

 

 

今でも、お元気なのだろうか。

 

 

彼の

 

「ココな」

 

は・・・

亡き子供へ重ね合わせた、大きな愛情だったのだ。