Part Of Me epi.1 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

もうこんな時間...申し送りに遅れちゃった。ナースステーションに飛び込む。

「遅れてすみません。家族が4人もインフルエンザになって朝から熱出しちゃって...あれ?他の人は?」

「みんな風邪よ。」

「ホントに?」

思わず聞き返してしまったけど本当だった。あの大蛇森先生まで家で死んでいるらしいし、師長はここまで来たものの40度の熱があってまったく動けなくて寝ている。みんなが同時に風邪を引いてしまうなんて...

こんなことってあるんだと思っていたら、小児科のナースが駆け込んで来た。


「あの、すみません。小児科の人手が足りなくて...誰か応援お願いできませんか?」

他の看護師が私を見た。見たところ私が一番元気そうだった。

「いまは体力が一番。あなた一人じゃ心配だけど、いまの私達よりはマシよ。頑張って。」

私は小児科の応援に向かうことになった。


小児科は患者で溢れかえっていた。次から次へと子どもを抱えたお母さん達が必死な顔で子どもの症状を訴えてくる。

アタフタとしていると後ろから声がした。

「どうしました?」

「入江くん!どうしてここにいるの?」

入江くんに会えるなんて...つい声が弾んでしまう。

「お前と同じ、応援だ。」

入江くんは不機嫌な声で言った。

「なんて素敵な偶然なの。二人で小児科を救いましょうね。」

「お前、何浮かれてんだよ。早く仕事しろ...お子さんを横にしてください。すぐに診ます。」

入江くんの言う通りだ。テキパキと子どもの診察を始める入江くん。私も自分ができることをちゃんとしよう。


次から次へと患者さんがやって来る。

ぐったりとして動かない小さな子、何度も吐いてしまう赤ちゃん、心配そうなお母さん達...

早く治してあげたい、少しでも楽にしてあげたい、その想いだけが限界を超えた状況を乗り越える力だった。

何とか一息ついて食事をとることができたのは、もう昼食とは呼べない時間になってからだった。


「あなた入江さん?」

一人で定食を食べていると声を掛けられた。見覚えのない顔だ。

「はい。あなたは?」

「小児科の看護師よ。今日は本当にありがとう。助かったわ。」

「そんな...当然ですよ。でも、私、かえって邪魔だったかも。」

「そんなことないわ。本当に助かった。ありがとう。」

「いえ。どういたしまして。」

いつもドジばかりの私に心から感謝してくれた...もしかしたら初めてかも...疲れが吹き飛んでいく。


「何?どうしたの?何だかうれしそうね?」

「別に。何でもないわ。」

「あ、そうだ。眼科の岡先生があなたを捜してたわよ。」

「眼科の?私、何かしでかしたかな?」

「大丈夫よ。この間、眼科で検査受けたんじゃなかった?その結果が出たんじゃないの?」

「あー!そうだ!結果を聞きに行くんだった。忘れてた。どうもありがとう。」



コンコンッ...ノックをしてドアを開ける。

「先生、すみません。」

「やっと来てくれたな、入江くん。自分の体のことは後回しかい?」

「そんなぁ。違いますよ。ずっと忙しくて忘れてたんです。」

「まぁ、いいけど、自分の目だよ。大切にしないとね。」

「はい。分かりました。」

「これが検査結果だ。」

「そうだ...最近夜になると急にモノが見えにくくなるんです。」

「入江くんは網膜色素変性症って知ってるかい?」

「色素...」

私は首を横に振った。


「夜盲症は網膜色素変性症の初期の段階で起こることが多いんだよ。

あー、夜、何か物を見る時や急に光の量が少ない所に入ると網膜がそれに対応できず物が見えにくくなるんだ。

検査の結果では、実は君の目の病状は悪化しているんだ。」

「悪化している?」

悪化している...悪化しているってどういうこと?...やっとのことで聞き返した。


「君の網膜の一部である錐体細胞と棹体細胞の機能が低下し始めているんだ。

この病気は一種の先天性の遺伝病でね。いまのところ、完治する治療法は見つかってないんだ。

最悪の場合、失明する可能性もある。君達、子どもを作る予定はあるのかな?」

「あ...はぁ...」

先生の予想もしていなかった言葉に頭が真っ白になった。息が上手くできない。言葉が出てこない。


「そんな顔しないで。」

「何か薬はないんですか?」

心配そうな顔で私を見つめる先生に、出てこない声を搾り出すようにして聞いた。

「まだ根本的な治療法がないんだよ。それに子どもに遺伝する可能性もある。」

先生は気の毒そうに言った。

「ふぅ...はぅ...失明するの?」

震える声で絶望的な未来を確認する。

「視力が徐々に低下して周囲が見えにくくなって最後には失明する場合もある。」

先生の静かな声が頭の中に響いて何度もこだました。



どうやって小児科まで戻って来たかわからない。いつの間にか私は小児科の待合室にいた。

咳をする小さな子どもに入江くんがやさしく話しかけてる。入江くん、子どものこと好きなんだよね...

入江くんが私に気付いた。柔らかく微笑んでこっちに歩いてくる。


「終わったの?」

「うーん。大体な。お前は?疲れたか?」

「平気よ。」

心配を掛けたくなくてニッコリ微笑んで見せた。

「見て。子どもって可愛いよね。入江くん...外科で研修した後は小児科に行くんでしょ?

私、小児科を手伝って思ったの。母親が子どもを守る力ってすごいよね。」

「お前も母親になったらわかるさ。」

入江くんがすごくやさしい声で私の顔を覗き込むようにして言った。

「急になに言いだすの?」

入江くんは何か言いたそうな、それでいてナイショにしているのを楽しんでいるような、イタズラな顔をして微笑んだ。


「入江先生、急患のヘルプをお願いできますか?」

小児科の看護師が入江くんを呼びに来た。

「ええ。わかりました。すぐに行きます。お前は先に帰ってろ。交代の看護師がすぐ来るから。」

入江くんは私の腕を「お疲れさん」と言うようにポンポンと叩いた。

「待ってるよ。入江くんが頑張ってるのに先になんて帰れない。」

「そんなこと気にするな。ほら。」

入江くんは私をうながすように肩を持って帰る方向に身体を向けさせた。


でも...やっぱり待ってるって言いたかったのに...あれ...

「おい、琴子。」

入江くんの声が遠くに聞こえる...すぐ近くにいたはずなのに...

目の前が真っ暗になった。


~To be continued~