Every Day I Love You vol.60 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

「入江、どうしたの?誰か探してる?」

「いや...別に。」

クスッ...あんなに釘を刺したのに、琴子がいる訳ないよな。

自分の方が試験を受けるみたいな顔をしていた今朝の琴子を思い出すと、思わず笑いが零れた。

「やらしー。思い出し笑いなんかして...どうせ愛しの姫のこと考えてたんでしょー?...余裕だねー。」

「何だよ。痛てぇな。」

本当は痛くなどないが肘で突いてくる加山を軽く睨む。加山は意味ありげに笑った。

加山はあれから琴子のことを姫と呼ぶ。加山に琴子のことを言われるのは不思議と嫌ではなかった。


俺と加山はCBT試験を受ける為に大学の会場前に並んでいた。

指定された集合時間が15分と短く、早すぎても遅くても会場に入れない。

4ブロックある試験は、第1ブロックに遅刻すると自動的に全ブロックの受験資格を失う。

昨夜、何度も何度も頑張ってねと言い、会場まで付いて来かねない勢いの琴子に、そのことを説明し家で待っているように言った。俺の言い方にT大入試のことを思い出したのか、琴子は神妙な面持ちで待っていると約束した。



「頑張ってね。忘れ物ない?御守...いらないと思ったから...でも、でも、試験が終わるまでずっと祈ってるからね。」

琴子は必死な声でそう言い、俺の手をギュッと握った。真剣な顔の琴子。真っ直ぐに結ばれた唇にそっと触れた。

「御守。」

目を見開いている琴子にニヤリと笑って言った。

「行って来る。」

「行ってらっしゃい。入江くん、頑張ってたもん。絶対大丈夫だよ。」

俺は琴子の頭をぽんぽんと叩いて玄関を出た。


「頑張ってね。頑張ってね。頑張ってね...」

見送りに出てきた琴子の声援を背に受けながら坂道を下り始める。

俺が見えなくなるまで...いや、俺が見えなくなっても...琴子は俺を応援し続けているはずだ。

本当に御守なんていらないと思う。神様には悪いけど、神様より琴子の方がずっと強力で熱烈だ。

そんなことを本気で考えている自分が可笑しくて笑いが込み上げてきた。

俺は片手で口元を覆うようにしながら駅へと急いだ。



試験を終え会場を後にする。細かな知識を問う問題よりも考えさせる問題が多かったが、出来は悪くないと思う。
QBやコアカリなどの問題集で勉強をしっかりしていれば、それなりの点数はとれる感じで難易度は高くなかった。
休憩時間が10分しかなく、しっかり見直しをしても時間が余ったので途中で抜けて正解だった。
トータルで6時間もパソコンに向かっていたからさすがに疲れた。早く帰って琴子の顔が見たい。
駅に向かう足取りが知らず知らず速くなる...ん?...ったく...何やってんだか。
大学から駅に続く道にあるカフェ。歩道に面した窓際のカウンター席に琴子がいた。
俺が気付いたとほぼ同時に琴子が俺に気付く。弾けるように笑顔が広がる。
ゆっくりと店に近付くと、琴子が飛び出して来た。

「入江くん、どうだった?」
「そんなの訊かなくてもわかるだろ?」
「できたんだね。よかったぁ。」
「心配してたのか?ここまで来るくらい?」
ホッとして大きく息を吐(つ)く琴子に、少し不満気に尋ねる。
「ち、違うの。入江くんは大丈夫でもお腹痛くなったり、何かあったらって...じっとしてられなくて。」
T大入試の時、階段から落ちて捻挫したしな...琴子の所為じゃなかったのに...

「朝もらった御守効いたし...それにあの目薬。お前に渡された時は大袈裟だと思ったんだけど、あってよかった。」
「ほんとに?」
「ああ。ずっと集中してパソコンの画面見てたから思ったより目が疲れた。すっげぇ助かった。ありがとな、琴子。」
「うれしい...ちょっとでも役に立ててよかったぁ。」
目をウルウルさせて言う琴子が可愛くて堪らない。
「琴子、帰るぞ。」
「うん。」
琴子の笑顔に今すぐ抱き締めたくなる。俺は琴子の笑顔しか見えてなかったのかもしれない。
加山がそんな俺たちを見てニンマリと笑っていたなんて、俺は気付きもしなかった。


コンコンッ...ノックの音。琴子だ。
「入れよ。」
「お邪魔しまーす。コーヒー淹れたんだけど?」
「サンキュ。」
琴子からマグカップを受け取る。琴子はいつも通り裕樹の椅子に座った。
「もう終わったのか?オフクロは?」
「うん。私はエステだけだけど、おばさんは打ち合わせが長引いたみたいで、先に帰んなさいって...裕樹くんは?」
「友達のとこ。」

「そうなんだ...何の勉強してるの?今度の試験?」
「まぁ、そうかな。でも、今度のは実技試験だからな。今まで受けてきた試験みたいに知識だけで何とかなる訳じゃない。
実際に一般の模擬患者を相手に診察するから、診察能力だけでなく患者への配慮も重要なんだ。」
「...ねぇねぇ。練習しようよ。私、患者さんになってあげる。」
「いいよ。別にそんなことしなくても...」
「入江くんのお手伝いなんてなかなかできないもん。患者さん役やらせて。ねっ。」
「お手伝いねぇ...」

俺はバッグから聴診器を取り出した。琴子が腰掛けたまま椅子を滑らせて俺の前に来た。ちょうど診察室の距離感...
「相原琴子さんですね。今日はどうされました?」
まずは名前の確認。そして問診。
「昨夜から喉が痛くて...朝になって咳も出始めて...」
ぶっ...心の中で噴出す。琴子がゴホゴホと風邪の患者の演技をし始めた。
「のどを見せてください。」
俺は琴子の舌を指で押さえて喉を覗く。琴子は驚いて口を閉じかけ、危うく俺の指を噛みそうになった。
俺が指をそのままにしていると、また大人しく口を開いた。
「少し腫れていますね。」
俺は両手で琴子の顔を持つようにしてリンパ節に触れる。
「胸の音を聴かせてください。」
琴子が躊躇う素振りを見せる。
「自分で見せてくれないと診察できないんだけど?」

琴子がモジモジと少しだけセーターを捲った。俺はそこから聴診器を差し入れ、琴子の胸に当てた。
聴診器の冷たさに驚いたように、琴子がビクッと震えた。構わず心音を聴く。琴子の心臓の音...琴子が生きている証。
俺は聴診器を少しずつずらす。琴子の鼓動がだんだんと速くなっていく。
「少し心音が速いのが気になりますね。背中を向けてください。」
素知らぬ顔で言う。琴子の椅子をくるっと回転させる。
「琴子、背もたれで診察しにくいから横に座って。」
琴子が腰を浮かせるようにして座り背中を丸める。セーターをたくし上げ、背中に聴診器を当て肺の呼吸音を聴く。

琴子は俺の指示を待つようにじっとしている。少し粟立つ白い肌...耳が赤い...
俺は片手で琴子のセーターを持ったまま、聴診器を外して机の上に置いた...琴子の背骨をなぞる。
振り向いた琴子の唇を奪う。そのまま琴子を抱え上げて、琴子の部屋に向かう。
「入江くん...診察は?」
「心臓の音が速いから休まないとな。」
ニヤリと笑って見せた俺の心臓は、琴子よりも速く脈打っていた。

~To be continued~