ミラー! (659)考え
医療派遣も順調で、隊員たちの気持ちにも余裕が出てきた。もちろん僕もそうなんだけど。
手の空いた夜、綺麗に輝く満点の夜空を眺めながら、色々考える。そう、考える余裕が出てきたってことだね。ここへ来た当初は、初めての隊長職に戸惑い、試行錯誤しながら医療行為をしていたので、考える余裕なんてなかった。
何考えているって?もちろん家族のこと、そしてこれからのことかな。このままの自分でいいのか、やめて新たな自分を目指すか。医官になってやりたいことは一応やっているし、こうして災害派遣もしている。あとやりたいことってなんだろう。
最近医官らしいことって職場ではしてない。唯一週1回の民間派遣くらい。いつも幹部室で事務的なことばかりしている。これでいいんだろうか…。考えの答えが出ないまま、時間ばかり過ぎていく。
第1陣の派遣期間はあと1週間。長いようで短かった。3日もすれば、第2陣主要部隊が到着することだろう。引き継ぎをし、帰国ということになる。
そうそう、邦人観光客たちは、僕らの部隊機材を乗っけてきた輸送機で半月前に帰国して行った。僕は派遣部隊を代表して見送りに行ったんだよね。もちろんその中には、僕が主治医をしている3歳の患者もいた。最後お別れの時に僕はその男の子をだっこした。
「先生、早く帰ってきてね。」
とにっこり笑ってくれたのが印象的だった。早く帰って同じように家族を抱きしめたいと悲しい気持ちになったけどね。ま、仕方がない。でももうすぐ帰国できる。本当にうれしいのだ。
「隊長よろしいでしょうか。」
と、僕の部下である陸士長が声をかけてきた。いつも僕の横で頑張っている衛生隊員。そろそろ将来のことを考えないといけない時期に来ているんだよね。任期制の陸士長だから。
「隊長、俺、今期限りでやめようと思っています。」
「え?2期目も頑張るんじゃないの?この前準看受験してたじゃん。」
「俺、やはり向いてないんじゃないかと思って。この派遣ではっきりわかりました。実家の父も跡をついで欲しいって言ってましたし…。俺の実家自営だから。」
「残念だね。君のような真面目な陸士長、陸曹になって頑張ってほしかったのに…。君が決めたのであればしょうがない。もう少し考えてね。まだ少し時間があるしね。」
「はい!隊長も噂でやめられるとか…。」
「え?」
噂??誰も相談していないんだけど…。
「やめるって決めてないよ。まだやらないといけないことあるし…。だから辞めないよ。今のところはね。」
と返事しておいた。なんとなく雰囲気でわかるのかな?悩んでいることを…。