私はバンコクに住む前、台湾の高雄市にも短期間駐在していたのですが、そのとき、街かどのあちこちで、美しい衣装の伝統人形劇っぽいものの路上の上演を見かけました。(ちなみに、その前はニューヨークにも住んでたんです)
路上で何日も続いた近所のお葬式のときや、何か仏日のときだったと思います。
小さいトラックみたいなのが止まっていて、その横に舞台がしつらえられていました。
でも、なにしろ、当時はまだ子どもが赤ちゃんで、暑い中、抱っこバンドで10キロ以上ある子どもを常時抱えて用事で歩き回っていましたから(当時は若くて元気あったなー)、見かけはしたのもの、台湾文化を深く知るところまではいきませんでした。
(それどころか、北京語も必要最小限な10言くらいしか覚えず・・・)
ただ、その人形劇が「布袋戯(ほていぎ・プータイシー)」という名前というのは知っていました。
昨年の秋頃、その「布袋戯」の人間国宝の方のドキュメンタリー映画が単館でロードショーされるのを知りました。
『台湾、街かどの人形劇』です。
ついに、「布袋戯」について、知るチャンス!
といさみたちましたが、何しろ単館で、そう長くない上映期間、タイミングが合わず行けないままに終わってしまいました。
が!
なんと!DVDが発売されるとわかって、すぐさま予約して、それが届きました!
さっそく観たのですが、本当にすばらしかったです。
最初は黒いバックの中に、その人間国宝である陳錫煌(チェン・シーホワン)さんの手と指の動きだけが映るのですが、それがもう、すでに動いている人に見えるのです!
そして、いざ人形を指にはめて・・・
そう、布袋戯は、ひとりで操る、指人形だったのです!
手指と、棒1本だけ。
いったいそれでどうしてそんなことができるのか、そこには精緻ですばらしい動きがありました。
若い官吏のような人形が、筆で書をしたため、落款を押すという「静」の動き。
そうかと思うと、孫悟空の「動」の動きは、いったん人形は手を離れ空に放り投げられ、1回転して、また手にもどってくるのです。
そのすばらしい動きは、映画のトレーラーの半ばあたりに出てくるので、ぜひごらんになってください。
また、両手に1体ずつはめて、剣戟で戦ったり、コミカルな動きをしたりもされます。
棒を持って皿回しさえします!
ところが、映画を観ているうちに衝撃の事実が。
「布袋戯」は、ほかの娯楽にとってかわられ、今ではそれだけではとても食べていけない。
すたれていく一方、ことに高雄市などの台湾南部では、すべての団体はなくなってしまったのだそうです。
えええええ!
私が高雄でふつうに見かけていたあれは、もう無いの!
そんな貴重なものをむだに横目でながめるだけだった・・・
しかし、北京語でさえわからないのに、「布袋戯」は台湾語で上演されるのです。
それがまた、台湾の若い人たちにはついていけないところでもあるそうなのですが。
80才を超えてなお、しかし、陳錫煌さんは、後継者をさがそうと、世界中から弟子をとり、いっさいの秘密もなく、技をフィルムや教えに残そうと努力されます。
幼稚園などでも公演しますが、子どもたちが大受け!
そして、アメリカを始め、海外公演も精力的にされます。
そこでも大受け!
ちゃんと見るとやはり技のすばらしさは伝わるのですが・・・
そうはいっても、ただ習うだけでは同じようには演じられない。やはり、努力もありますが、天賦の演技の才能というのもあると痛感させられます・・・
そしてうれしいサプライズが!
タイにも公演に行って、タイの伝統人形使いとも共演される場面があるのです。
孫悟空とハヌマーンの共演する公演のようすも映りました。
タイのハヌマーン人形劇はこんな感じです。(タイフェスティバルで撮りました)
映画では、陳錫煌さんの、父であり、やはり人間国宝の人形使い、李天禄(リー・ティエンルー)さんへの複雑な思いも描かれています。
ここで驚き!その父親の李天禄さんは、侯孝賢(ホウ・シャオシェン監督)の映画の常連俳優もつとめ、ことに
『戯夢人生』
では、主役としてご自身の生涯が描かれているというのです!
ええええ!
名前だけは知っていましたが、「布袋戯」の映画がここにもすでにあったなんてーーーーー!
ちょっと探し出して、これは見なければなりません。
さて、DVDには特典映像がついているのですが、なんと!
それは、昨年2019年での、陳錫煌さんの来日公演映像でした!
ええええ!
日本にいらしてたの!
知らなかった、観たかったですーーーー。
でも、88歳にしてご健在なのがわかってよかったです。
DVDの特典にはミニ映画パンフレットと、ステキな付箋もついていました。
本当にたんのうしました。DVD出してくれてありがとうございます。
陳錫煌先生、いつまでもお元気でいてください。
そして良い後継者が見つかりますように。