民法(財産法)演習書整理 | 司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

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資格試験予備校アガルートアカデミーで司法試験・予備試験の講師をしている工藤北斗のブログです。司法試験・予備試験・法科大学院入試に関する情報を発信しています。時々弁理士試験・行政書士試験についても書いています。

本ブログでも民法の演習書の書評をいくつか記事にしてきて,優先順位についてご質問を頂くようになってきたので,私の手元にある演習書の特徴・優先順位も含め問題演習系一覧を整理しておきたいと思います。
手元には大量の書籍があるため抜けがあるかもしれませんが,その点はご了承ください。気づいたら補充するようにします。

なお,雑誌の演習欄については,いずれ記事にしたいと思っていますが,本記事ではひとまず書籍として刊行されているものだけに絞っています。

1 予備校本

以前,本ブログでは伊藤塾の試験対策問題集をおススメしましたが,現在では状況が大きく異なっています。
この記事を書いた頃は,まだ予備校の問題集すら出そろっておらず,(新)司法試験対策の演習書が乏しい(民法だけではなく,要件事実に関する問題集も数少ない)時代でした。その中にあって,1冊で民法の基本問題~要件事実問題を潰せるという意味で,出色の出来だったことは間違いありません。
しかし,現在では各予備校の問題集が出そろい,下記のように学者執筆の演習書の中にも優れたものが出てきていますので,「普通の予備校本」(の中では出来が良いもの)として認識してもらえればよいかと思います(本記事では触れませんが,要件事実に関する問題集も充実してきています)。

注意してほしいのは,「予備校本が不要だ」と言っているわけではないということです。答案の「型」を身に着けるためには,予備校本から入るのが一番だからです。いきなり,以下のような学者執筆の演習書に飛びつくと,答案の「型」が身についていないまま学習を進めていくことになるので,(ごく一部の優秀層を除き)後々点数が伸び悩みます。

なお,予備校の論文講座を受講している方は,そちらを利用すれば十分で,改めて予備校本を購入する必要はありません。

私が全答案を作成・監修している論文インプット完成講座のリニューアル版(新論文インプット完成講座(仮称)を1月にリリースしますので,よろしければご検討ください。答案の「型」を身に着けるための,答案の書き方講座も開講予定です。
新論文インプット完成講座(仮称)のテキストサンプルはこちらの記事のリンクから閲覧できます。

2 旧司法試験・予備試験過去問・司法試験過去問

①旧司法試験過去問問題演習系で最も優先順位が高いのが旧司法試験の過去問です。これは,民法に限らずすべての科目についていえることです。
もっとも,旧司過去問の全科目の中で,最も難易度が高いのが民法で,しかも信頼できる解答例が存在しないのが現状です(ただし,中には基本的典型的な問題もあり,それらは予備校が出している解答例を参考に,独力で解くことができます)。ちなみに,平成14年度以降は法務省から出題趣旨が公表されていますが,現行司法試験の出題趣旨と異なり,ほぼ何も教えてくれていないも同然です。
そこで,潰し方としては,友人とゼミを組んで,ありうる構成を検討する,互いの答案を添削しあうという形にならざるを得ないでしょう。

②予備試験過去問
予備試験過去問についても,旧司法試験同様,民法はかなり難易度が高いです。また,解答例が存在しない点(及び出題趣旨が大雑把である点)についても同様です。
潰し方は,旧司法試験過去問と同様のものになると思います。

③司法試験過去問
司法試験過去問は旧司法試験・予備試験と比べてもさらに難易度が高いので,潰すのはある程度実力がついてからで結構です。具体的には,基本的(典型的)な問題であれば,ほぼ完璧に解けるというレベルです。
実力がついていないウチに問題を解いてみても何が難しいのかすら分からないと思います。
司法試験過去問についても,信頼できる答案がないことは旧司過去問,予備試験過去問と変わらないのですが,出題趣旨・採点実感(・ヒアリング)があるので,とりあえず何が論点でどのような筋で書けばいいのか,といったことくらいはわかります。そして,各予備校が出版している再現答案集があるので,どのような答案が評価されているのかもわかります。なお,司法試験過去問の要件事実的な解説は,「要件事実入門」に掲載されています。
司法試験過去問の使い方については,いずれ記事にしようと思っているのですが,ザックリいうと,⑴初見の問題については時間を図って答案を作成する,ローや予備校で検討したことがある問題については,時間を短くして答案を作成する(又は答案構成に止める),⑵出題趣旨・採点実感(・ヒアリング)で考え方の筋道を確認し,自分の答案や答案構成を見比べてみる,⑶再現答案を読み,どのような答案が評価されているのか分析する,といった流れになります。

なお,旧司過去問,予備試験過去問,司法試験過去問のありうる筋をすべて検討したそれぞれの過去問講座を来年開講する予定です。

3 学者執筆の演習書(短文~中文事例問題編)

①「事例で学ぶ民法演習
こちらの記事で紹介しています。
基本問題,典型問題を学ぶことができる良書です。あてはめまでしっかりと示されているので,演習書としての利用価値が高い1冊です。

②「基本事例で考える民法演習」「基本事例で考える民法演習2
基本事例で考える民法演習」については,こちらの記事で紹介しています。
司法試験で出題されるような未知の問題に対応できる応用力を培うことができるのは,過去問系を除いては,本書くらいのものではないかと思います。

③LAW PRACTICE 民法「Ⅰ(総則・物権編)<第2版>」「Ⅱ(債権編)<第2版>
初版については,こちらの記事で紹介しています。
第2版になっても基本的な特徴は同じで,やはり法律論に終始してしまっていて,あてはめが弱い解説があります。

④「事例演習民法
短文事例問題を中心とした問題集で,昭和時代の旧司法試験の過去問が多く収録されています。
問題にあてはめるだけの事実が挙がっていないことも一因なのですが,やはり解説が学説中心でやや使いにくい印象です。また,民事訴訟法上の論点について解説を加える箇所もありますが,それならそれで民事法総合の演習書とすべきであるように感じられ,ややコンセプトがブレてしまっている感が否めません。

⑤「事例から考える民法(債権法)
旧司法試験時代の受験新報の誌上答練を集めた問題集です。したがって,短文事例問題で構成されています。答案例が付されていますが,平野先生の手によるものではなく,その当時の受験生が書いたものに手を加えたもののようです。
平野先生の教科書の特徴でもあるのですが,解説において学説の対立が非常に詳しく掲載されています。基本問題の習得という意味で使うとすれば,判例・通説だけで十分なので,オーバースペックな感が否めません。

⑥民事法「Ⅰ(総則・物権)<第2版>」「Ⅱ(担保物権・債権総論)<第2版>」「Ⅲ(債権各論)<第2版>
民法・民事訴訟法の融合問題の演習書です。大々問時代には,「タネ本」的な位置づけで評価されることもありました。
問題は,民法部分に関していえば,短文事例で基本的なものが大半です。解説は,執筆者にもよりますが,いかにも「学者」というようなものが多く,事例処理の力を磨くには不向きです。演習書というよりは,ケースメソッドの教科書といった性格が強いといえます。
なお,民事訴訟法部分は民法部分より難易度が高く,解説も比較的「試験向き」に書かれているので,民事訴訟法の演習書として用いるという手はアリです。

⑦「民法総合・事例演習<第2版>
いわゆる「京大本」です。
基本的な問題も含まれているものの,全般的には難易度が高く,解説・解答例も付されていないので,独習用には向かない演習書です。
ロースクールの授業で使用教材として用いられていない場合には,手を出さない方がよいかもしれません(良問が多いので潰しておきたいところではありますが…)。

⑧演習ノート「民法総則・物権法<第5版>」「債権総論・各論<第5版>」「親族法・相続法<第4版>
一行問題が多く収録されている演習書です。事例問題であっても,答案(解説)が,実践的ではないものが多く,現在では利用価値に乏しいといってよいでしょう。

学者執筆の演習書(長文事例問題編)

①「事例研究民事法Ⅰ<第2版>
長文事例問題を扱っている点では,司法試験を意識しているといえますが,言い分方式になっている問題が相当数あり,形式面で最近の司法試験の傾向にはそぐわない部分があります。また,最近の司法試験で出題されるような,未知の問題(見たことも聞いたこともないような問題)を扱っているわけではなく,複雑な事例の中から論点をピックアップできるかどうか,事実の摘示・評価ができるかどうかを問う傾向にあります。
したがって,民法の事例処理が苦手な方,あてはめの練習をしたいという方が用いるのがよいでしょう。

②「事例から民法を考える
法学教室の連載を書籍化したものですが,「事例研究民事法Ⅰ<第2版>」に比べ,理論的な面で難易度の高い問題が多く含まれています。
ある程度複雑な事例を処理する能力を身に着けた後に,理論面を鍛えるためにチャレンジする問題集として位置付けるといいと思います。時間がないけれども潰しておきたいという人は,問題を解いて,ひとまずあてはめの部分だけ読んでいくという手もあります(執筆者によりますが,比較的しっかりあてはめがなされています)。

4 まとめ

■ ①答案の「型」が身についていない人,基本的な問題を自力で解くことができない人■
答案の「型」が身についていない人は,予備校の論文講座を受講するか,予備校本を潰しましょう。旧司過去問のうち,基本的・典型的な問題を潰すことも有用です。
予備校本の中では,伊藤塾の試験対策問題集をおススメします(ただし,長文事例問題・要件事実部分は応用的なので不要です)
基本的な問題の演習量を確保したい方は,伊藤塾の試験対策問題集に加え,事例で学ぶ民法演習」を利用するといいと思います。

■ ②答案の「型」も身についていて,基本的な問題は自力で解くことができる人■
まずは,旧司法試験過去問(難易度の高いもの)・予備試験過去問を潰しましょう。さらに,思考力を磨きたい方には,「基本事例で考える民法演習」「基本事例で考える民法演習2」をおススメします(なお,「基本事例で考える民法演習2」は未刊)。
次に,司法試験過去問を解いてください。出題趣旨・採点実感(・ヒアリング)を踏まえ,再現答案等の分析まで済んでいれば,あとは予備校答練と模試を受けるだけでひとまずはOKです。
さらに,余力がある人は,「事例研究民事法Ⅰ<第2版>を解きましょう。それでもまだ余力があるという人は,事例から民法を考えるにチャレンジしてみてください。