『事例で学ぶ民法演習』 | 司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

資格試験予備校アガルートアカデミーで司法試験・予備試験の講師をしている工藤北斗のブログです。司法試験・予備試験・法科大学院入試に関する情報を発信しています。時々弁理士試験・行政書士試験についても書いています。

事例で学ぶ民法演習』(松久=藤原=池田=曽野)

☆司法試験向き度→4/5点
☆予備試験向き度→5/5点
☆法科入試向き度→5/5点

北海道大学の教授陣による民法の演習書。
旧司法試験や予備試験レベルの短文~中文事例問題で構成されている。分野は家族法を除く財産法のすべてを網羅している。

本書の特徴は,①判例ベースの見解で記述されている点と,②しっかりとあてはめがなされている点。
①については,学説の紹介もあるが,必要最小限度に留められており,読み進めていく中で気にならない。法律論にかける記述量が少ないということもできる。
そして,何といっても特筆すべきは②の点。学者執筆の演習書のアキレス腱になるのがあてはめの弱さであるが,本書はしっかりと事実の摘示と評価がなされている。
そればかりか,法律論レベルの対立よりも,あてはめレベルの対立が重要であることを説く箇所もある。例えば,使用者責任(715条1項)の「事業の執行について」の要件について,判例(外形標準説)と学説(密接関連性説)を紹介した上で,「もっとも,『外形標準説』自体,かなり抽象度が高いため,弾力的な運用が可能であり,また『密接関連性』についても,具体的な事案ごとに諸事情を勘案して判断しなければならない点に変わりはない。」(303頁)と述べる。

民法の事例処理が苦手だという受験生にぜひ読んでもらいたい一冊。

なお,著者の1人である池田先生執筆のおススメ演習書として『基本事例で考える民法演習』があるが,こちらの方が難易度(応用度)が高め(続刊である『基本事例で考える民法演習2』が近日中に発売予定)。