「ほにゃあああああああ」
「ふにゃああああああ」
「なになに?どうした?」
「潤……ごめん、起きて……」
華に起こされる前にまず陽縁と縁翔の声で目が覚めていた。
華の腕の中には真っ赤な顔をした縁翔が抱かれていた。聞けば38度の熱があるらしい。陽縁はというと、ただ泣いているだけで熱は無さそうだ。
どうやら熱を出した縁翔のことを心配して泣いているんだろうな。
世話焼きな陽縁らしい。
「大丈夫だよ、陽縁。縁翔はちょっと熱を出しただけだ」
「ごめん、保冷剤持ってくるから2人を見てて?」
陽縁の頭をポンポンしながら言っていると、華が慌ただしく縁翔を俺の腕に抱かせて冷蔵庫へダッシュした。
手際がいいな。
熱でも慌てないだとか保冷剤を常備しておくとかお袋さんから色々な技を伝授されてるんだろうな。
さすが双子を育て上げただけあってお袋さんの指示は的確だ。
そしてそのDNAを引き継いでいる華はマジすげぇ。
「お前たちのママはすごい人だなぁー?心配すんなよ。明日の朝になったら病院に行こうな」
「いやいや、いいわよ。ママに来てもらうから。私が縁翔を病院に連れていく間に陽縁をママに頼むから。そんな熱くらいで仕事を休んだら診療所も大変でしょ」
「いや、大丈夫だぞ?それくらいさせてくれよ。まだお袋さんには連絡してないだろ?」
「うん、まだよ」
俺の腕から縁翔を受け取った華はガーゼにくるんだ保冷剤を両脇に挟み込んでから抱き上げた。
「大丈夫なのか?無理しすぎんなよ?」
「何言ってんの。多少の無理しないと母親業なんてやってらんないわよ?なにしろ365日24時間営業なんですからね?」
「ばーか」
「え?」
気合いが入りすぎている華から縁翔を奪い取って、反対の腕で華を抱きしめた。
「母親が365日24時間営業なら、父親も同じだろ」
「でも潤には仕事があるでしょ」
腕の中から出ようとする華を逃してなるものかと更に強く抱きしめると、観念した華は俺の背中に腕を回して素直に胸に顔を埋めてくれた。
世の中で言われているイクメンとやらは気に食わない。子育てのいいとこ取りしかしてないのに俺はイクメンだと自慢している風情が腹立たしいんだ。俺をその辺のイクメン気取りと一緒にすんじゃねぇぞと言うと、華はぶぶぶっと吹き出しながらぎゅうぎゅうに抱きついてきた。
ほら。
やっぱり縁翔が熱を出したことで気負いすぎてたんだよ。めちゃくちゃ体が緊張してたろ?
うん。
さすが潤ね。
腕の中で華が呟いた。
「明日は私が縁翔を病院に連れていくから、陽縁を見ていてくれる?」
「はい。殿」
なぜだろう。
ベビーベッドの中でそんな俺たちを見て陽縁が笑ったように見えた。
もしかしたら熱を出した陽縁を助けて欲しいと泣いたんじゃなくて、陽縁のためにと頑張りすぎてしまうであろう華を助けて欲しいと泣いたのか、お前は?
だとしたらマジすげぇ奴だな、陽縁は。
ありがとう、陽縁。