診療所の診察時間が終わると同時にオレは診療所を飛び出した。とはいえ、雅紀のお母さんの車にオレも乗り込んでおばあちゃんの家に行くからそんなに慌ただしく出たわけではないんだけども。
借りていた車椅子を翔さんにお返しするにあたり、雅紀のお母さんもお礼を言いたいとのことで一緒に行くことになっていたんだ。
おばあちゃんの家に着き翔さんの仏前に手を合わせると早速おばあちゃんと仲良くなった雅紀のお母さんは、翔さんの幼い頃の写真を見せてもらっいながら涙目になっていた。
若くして命を落とした翔さん。
その命と引き換えに蒼翔は雅紀の家に来たんだ。
お母さんはおばあちゃんの手を握りしめてボロボロ泣いていた。
おばあちゃんも泣きながらお母さんの背中をさすっていた。
誰のせいでもない。
事故に遭ってしまったのはあの子の運命。
だからこそこうして雅紀くんはあの子の命や想いを受け継いでリハビリを頑張り抜いてきたし、蒼翔だって幸せになっているから。
あの子もきっとそれを見ていてくれているはずよ。
おばあちゃんの言葉にオレも雅紀も涙した。
翔さん。
翔さんの思いはオレが引き継ぐよ。
翔さんが生きた証として守り抜いた蒼翔をオレと雅紀は育て上げていくから見守っていてください。
……わんわん!
なぜだろう。
ここにいないはずの蒼翔の声が胸に聞こえてきたような気がした。
きっと翔さんに俺は元気だよ、ありがとうって蒼翔が伝えたいのかもしんないな。
と、ふと隣から視線を感じると、雅紀がオレをじっと見ていたんだ。
「ねぇ、翔ちゃん?」
「雅紀もオレと同じこと思った?」
「たぶん一緒だと思う」
「ああ…そうかもな…ね、そうでしょ?翔さん…」
仏壇の翔さんが微笑んだように見えた。
翔さんにも蒼翔の言葉が通じたんだ。
きっと。
振り向くとおばあちゃんも泣きながら何度も頷いていた。
蒼翔。
お前は愛されるべき存在だし、みんなから愛されてるんだぞ。
良かったな、蒼翔。